古今亭駒治「グッバイ・マーチ」 鉄道落語の第一人者が運転免許を取得して創作したのはクルマを愛する人情噺!

なかの芸能小劇場で「せめ達磨」(2020・09・25)、道楽亭ネット寄席で「べ瓶・駒治二人会」(10・01)を観ました。

鉄道オタクとして名高い噺家、古今亭駒治師匠が40歳を超えて、運転免許を取得した。JR、私鉄、地下鉄含め、これだけ鉄道が発達して便利なのに、もはやマイカーを持つ意味がないじゃないか、と僕自身も思っている。だが、このコロナ禍で満員(そうでなくても)電車に乗るのが不安という人は多い。駒治師匠もそれがきっかけで免許を取ろうと一念発起したそうだ。

自動車教習所の教官というと、怖いイメージが僕にはあったし、僕が大学生になって免許を取るために通ったときは、実際そうであった。ところが、今の若者はクルマを持つ人間が激減し、教習所も集客に躍起だと聞く。駒治さんも、「大概の教官は優しかった」と言っていた。僕はもうクルマを必要としないので、高齢者ドライバーよろしく、免許返納を考えているんだけど。

それはともかく、駒治師匠は無事免許を取得し、奥様と最初のドライブに行ったそうだ。「お墓参りに行きました」。自宅から甲州街道を2回左折すると到着するので、と。やっぱり車線変更が怖いですよね、と言っていたが同感。そんな駒治師匠がクルマを題材にした落語を創作した。さすが!です。

古今亭駒治「グッバイ・マーチ」

長年乗った愛車マーチを買い替えて、新車の納車を待つ夫婦。でも、サヨナラする日産マーチとの思い出はいっぱいで、さびしい気持ちは否めない。

初めてのデート。待ち合わせは渋谷。友達に紹介しようと彼女は思ったが、やってきたマーチにはステッカーがベタベタと貼られていて、恥ずかしくてやめた。ウイングは付いているし、光るナンバープレート、ドアを開けるとスモークが出る。後ろにはでっかいスピーカー。車内はポピーの匂いが充満。まさに、昭和の香りですね。

初めての車庫入れは、120回切り返しした。初めての首都高は車線変更できず、ぐるぐると3日間廻り続け、ガス欠になって、JAFを呼んだ。走行距離38万キロ。最後の方の燃費はリッター300メートルだった。「君と逢えて楽しかった」とマーチが夢に出てきて、抱き合った。

最新型のクルマは自動運転がすごいらしいが、自分が運転するから楽しいんだよな。ソファーみたいなシートはリビングみたいって言うけど、クルマを家庭に持ち込むのはどうかと思う。ドラレコは8Kだって。画質に凝って意味あるのか。

隣家のホンダさんが声をかける。私たち夫婦もクルマ買い替えでは喧嘩をしました。女房が茨城出身で軽トラが好きで、ダイハツのハイゼットやスバルのサンバを時速280キロで走ってました。子どもは荷台に載せて。75歳になって、免許を返しようということになり、軽トラも売りました。手放すときは寂しかった。喧嘩が羨ましいです。そちらは30代、これから色々楽しいことがありますよ。

いよいよ、納車。綺麗な青のクルマ。ドアは軽く開く。車内は広い。快適。シートが包み込む感じ。息が吸える。圧迫感なし。パワステ!シフトレバーがない!つまみがレバー?バックモニターもついている。カップホルダー。サンルーフ。ドラレコは8K、360°回転。ETC、ABR。

そして、長年の愛車のマーチに別れを告げる。「本当にありがとう、マーチ!」。ディーラーが驚く。「このマーチ、ピカピカにワックスで磨かれていますね。ダッシュボードも綺麗に掃除してある。38万キロですか。素敵なオーナーさんに恵まれて、クルマも幸せでしょう」。実は夫ではなく、あれだけ新車を望んだ妻が磨き、掃除したのだった。「嫌いじゃなかったの?」「ダメな子ほどかわいいのよ」。うわぁ、駒治師匠、最後は素敵な人情噺に!すごい!