三遊亭粋歌「女の鞄」 断捨離?軽量化?ペーパーレス?デジタル時代で情報化社会だからこそ、逆に荷物は増えるよねえ。
なかの芸能小劇場で「せめ達磨」(2020・09・25)、らくごカフェで「三遊亭粋歌 新作びゅーびゅー」(10・02)を観ました。
「せめ達磨」は固定メンバーに、1人のゲストを招いて、それぞれが新作ネタおろしを披露する定期的な勉強会だ。今回は古今亭志ん五師匠、古今亭駒治師匠、三遊亭粋歌さんというレギュラーに、春風亭昇羊さんを招いて開かれた。粋歌さんは渋谷らくごの「しゃべっちゃいなよ」もそうだが、この「せめ達磨」も創作の拠点と考えていて、毎回力作を披露してくれる。
その作品が生まれるまでは、相当な格闘が繰り広げられるという。いつも締め切りのギリギリまで粘って粘って、生み出す。今回はかなりの難産だったらしく、近所の喫茶店でも何もアイデアが浮かばず、諦めて帰宅する途中に突然、ひらめいたそうだ。親子3人連れ、夫が妻の鞄を持ち、「どうして、女の鞄はこんなに重いんだよ」と文句を言っていた現場を目撃し、「これだ!」と思ったというのだ。ネタの原点はどこに転がっているか、わからない。そして、そこから上手に転がしていくのは作者の腕次第。面白かった!
三遊亭粋歌「女の鞄」
仕事から帰ってきた妻。出迎える夫。残業1時間やって、そのあと、マッサージに寄って30分やってもらって帰ってきたが、まだ肩こりがひどいし、頭痛もひどいと嘆く。夫は「肩の力を抜いて、のんびり過ごせば?」とアドバイスをするが。
どっこいしょ。ドシン!すごい音。妻が通勤用鞄を置いたときの音だ。大きくて、重い。鉛の塊が入っているようだ。鞄は荷物でパンパンになっている。夫は思わず、「肩が痛い原因、疲れの原因はこの鞄じゃないの?」。大き目のトートバッグ。「女の人の鞄って、なんでこんなに大きいの?会社と自宅の往復だけで必要なもの以外も入っているんじゃないの?使っていないものがあるんじゃないの?」。
妻が鞄から取り出して、並べる。物凄い数と量の、会社資料やデジタルグッズ、身だしなみグッズ、生活用品、通勤途中に読む本まで、出るわ、出るわ。「それにしても、よく詰め込んだね」「私、収納上手なの」。減らせるのではないかという夫のアドバイスに妻は、「私が好きでやっていることなの!寝る!おやすみ!」と寝てしまう。
夫は妻が寝たのを見計らって、「人の話を聞く耳を持たない」妻を分からせてやろうと、妻の鞄を夜中にガサゴソ・・・。
翌日、妻が会社から帰ってくる。妻は鞄の中身が夫によって豹変して大慌てした一日を訴えるが・・・。詳しいディテールの面白さは、是非、粋歌さんのナマの高座を聴いてみてください!
女の鞄は安心するための魔法の道具。肩が凝ろうが、頭痛がしようが、そんなことよりも、何かあったときのために準備しておく安心感をとる。肩の荷が下りるのは難しいかもしれませんね。それは男女関係なく、情報社会だからと言って、なんでもペーパーレスにする現代だが、データがすべてパソコンの中にある不安と同じ。僕は紙で資料を読まないと頭に入らないアナログ人間だから、もちろん電子書籍などもってのほかで、ものすごく共感できる作品であった。