柳家さん喬「塩原多助一代記」 真っ直ぐに生きろ、と大圓朝は教えてくれた(中)

日本橋公会堂で「さん喬ひとりきり三夜 塩原多助一代記」を聴きました。(2020・09・08~10)

第二夜 多助の辛苦の段~青の別れ~

多助の養父・角右衛門の四十九日の法要を済ませ、多助、角右衛門後妻・おかめ、おかめの娘で多助の妻・おえいの三人で墓参りへ。突然、雨が降る。大雨になる。大木に雨宿りをする。と、「助けて!人殺し!」というおえいの声がする。男二人連れの一人、小平と名乗る男が「俺の妹だ」と無理やり連れ去ろうとしていたのだ。兄と主張する小平は「七歳のときに何者かにさらわれた。探していた」と言う。

そこへ、原丹治、丹三郎という親子が通りかかり、「話をしてみろ」と小平らに言う。すると、この二人組は兄でもなんでもない、ゴマの蠅だとわかり、蹴散らかす。命の恩人だ。丹治は剣術の達人で、息子の丹三郎が病弱なため、湯治の帰り道だという。以来、湯治の度に塩原家を訪れ歓待されるようになる。だが、そのうちに、おかめ35歳と丹治が深い仲にになり、おかめは角右衛門への恩も忘れ、多助につらく当たるようになり、無理な用事を押し付けるようになる。

おかめが丹治に言う。田舎暮らしが嫌になった。田舎者の多助も嫌いだ。多助に替わる、おえいの良い婿がいないか。そこで丹治と策略を図る。分家のおさくという娘が多助に横恋慕している手紙をでっちあげる作戦だ。おえいに見せると、字が良く読み取れないが、不義密通を多助がしたようにも思えるし、丹三郎と一緒になれば、安楽に暮らせるように思える。武士である丹三郎も「卑怯な真似は許せぬ」と、女の情念に負け覚悟を決める。

多助を呼びつける。「覚えがない」と言う多助に、「しらばっくれると役人に届けるぞ」と脅す。そこに親戚の多左衛門が馬の青の様子を窺いに訪れた。「どうした?」。おかめが不義の証拠という手紙を見せる。すると、多左衛門は「そういう付文だったら、オラも持っている」と言って、「丹三郎さま参る。なかなか御目文字叶わず、多助疎ましく。えい」と読み上げる。そして、「死んだ角右衛門にどれだけ助けられたことか。恩を忘れたのか。この手紙はオラが預かる」と言って、囲炉裏で燃やしてしまった。

それでも収まらないおかめは次の作戦に出る。夕暮れ時、多助を呼び、村上まで荷を明日までに届けてほしいと頼む。村はずれで斬り殺してしまう算段だ。出発しようとする多助だが、馬の青がじっとして動かない。背に荷を載せても、妙だ。具合が悪いのか?そこへ、友人の円次郎がやってくる。すると、青は動く。「じゃあ、オラが代わりに村上のばばさままで届けてやるよ」。

多助が戻ってきたので、おかめは慌てる。しくじったか。翌朝、円次郎が帰ってこないという知らせのあと、円次郎は斬られ殺されたという次の知らせが届く。「オラの代わりに円次郎が?」と思う多助だが、おかめは逆に「殺したのは、お前だね!幼なじみを平気で殺す恐ろしい奴だ。出ていけ!」。おえいも「馬ばかり可愛がっている夫なんて嫌だ。こっちから離縁してやる!」。

多助は思う。おとっつぁまがどれだけ悲しんでいることか。バカこくな、出て行くのはお前たちじゃないのか。どれだけ世話になったか。青の鳴き声がする。円次郎を殺したのは丹治だと知らせようとしているようだ。「必ずここに戻ってきて、この家を立派に立て直す」。多助は悔しい思いを堪え、死ぬよりは家を出る方が家のためだと心に誓う。松の目方に繋がれた青と目が合う。「長い付き合いだった。ここに養子に来たときもからだものな。お前は兄貴だ。あのときのことを覚えているか?寂しかった。泣いたら、おとっつぁまが嫌な思いをすると思って泣かなかった」。多助は青の腹に顔を押し当てて泣いた。

「オラ、必ず戻ってくる。長生きしてくんろ。そして塩原の家を立て直す。達者でな」。別れようとする多助の着物の袖を、青は歯でくわえて離さない。草鞋を脚で押さえる。多助は再び、体を青にうずめ、泣くのだった。そして、故郷を後にした。

おかめは丹三郎を養子に迎え、名主を仲人に、おえいと丹三郎の婚礼の支度を整えた。分家の多左衛門が婚礼の場に駆けつけた。「その盃、ちょっと待ってくれ。多助の行方もわからないまま、この婚礼はできない。よそものの言いなりになるのか!」。名主も「頼まれただけ」。この話はなかったことにしよう、と親類縁者、近郷近在の了解も得て、「仮祝言」を破棄にしようとする多左衛門。おえいが丹三郎に宛てた付文をみんなに読んで見せる。刀を抜いて斬りかかろうとする丹三郎。

そこに青が現れ、丹三郎の首に食いついた。丹三郎はこと切れた。さらに、おえいの首にも食いつく。多左衛門に賛同した村の若い衆が囲む。丹治は金を持って逃げようとする。厩に火を放つ。だが、丹治は追い剥ぎに遭い、死んだ。おかめも丹治の子を産んだが盲目で、病に伏せた。

第三夜へ