「古典も作ったときは新作だった」先代今輔の教えを胸に 古今亭今いち

落語芸術協会所属の二ツ目で、芸協カデンツァのメンバーである、古今亭今いちさんが、10月18日に開催する「音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!」にゲスト出演します。今いちさんのことをより知ってもらいたいと思い、インタビュー取材しました。

古今亭今いちの最終学歴は千葉大学園芸学部緑地環境学科卒業である。同じエンゲイでも、演芸ではなく園芸。高座のマクラで「学校で庭、造園の勉強をしていましたが、いまは座布団に座って演芸を勉強しています。昔は木を切っていましたが、いまは楽屋で気を遣っています」と、寄席のお客さんをつかむのが定番になっている。「机でする勉強」が嫌いだった。自然と触れ合うのが好きだった。都立園芸高校造園デザイン科に進学した。そこで「生徒にイキイキと面白く伝える」授業をする教師と巡り会い、こういう教師になりたい!と思った。関東では唯一の園芸学部がある千葉大学を選び、入学した。

落語との出会いは小学4年生に遡る。学芸会で「寿限無」を題材にした劇をやって、落語を知った。図書館で「こども寄席」シリーズの本を借りて読み、落語に興味を持った。当時、酔って機嫌がよくなると志ん朝師匠の錦松梅のCMのモノマネをしていた父親が、志ん朝師匠の「堀の内」と「化け物使い」が収録されたCDを買ってくれた。僕は幼少時代の記憶で「あれ、錦松梅がありませんよ!ない?なかったら、買っておいたらいいじゃないかぁ」というのを覚えているのだが、今いちのお父さんのバージョンは「これ、戴いたんですよ、錦松梅。え?それは私があげたものです?いいじゃないかぁ、そんなぁことは」だったそうで。

中学、高校と図書館で志ん朝はもちろん、小さん、談志、小三治のCDをよく借りて聴いた。だから、大学入学と同時に落研に入った。これは後から判ったことだが、千葉大学の落研を創設したのは今いちの大師匠、寿輔の高校時代の同級生だそうで、半世紀近い歴史があるとか。出囃子も自分たちで弾くのが伝統になっていて、三味線や太鼓の稽古もしている。

大学を卒業したら、園芸高校の教師になることを目指して、教育実習も受け、教員免許も取得したが、採用試験で落ちてしまった。そこで、考えを一変する。モノを伝える仕事は落語家も同じだ。自分の工夫や考えを入れることが出来るという点も共通している。噺家になろう!覚悟を決めた。造園のアルバイトをしながら寄席に通って「師匠探し」が始まった。そのときに一目惚れしたのが、新宿末廣亭での今輔師匠の高座。「飽食の城」だった。戦国時代を舞台にした時代モノでありながら、現代のエッセンスを取り入れ、映像が脳内に浮かぶ高座に痺れた。

入門志願のため、何度か寄席の出待ちをしたが断られた。だが、諦めなかった。5度目だったろうか、恵比寿の喫茶店で話を聞いてくれることになった。そのときに今輔師匠に言われたことは「書き続ける覚悟があるか」ということだった。先代今輔―円右―寿輔―当代今輔と続く、新作の一門に入る覚悟である。「古典も出来たときは新作だった」という先代今輔の教えを説く師匠に、迷いなく「よろしくお願いします!」と言うことができた。

前座時代は「動物園」「牛ほめ」「旅行日記」などを師匠から習ったほか、20席ほどの落語を覚えた。その一方で「前座時代から、とにかく書け」と言われ、新作落語を創り続けた。二ツ目になって4年。寄席でかけることのできる新作は数本だ。古典を勉強しなければ、新作もきちんとしたものができない。大袈裟に言えば、近代落語中興の祖と言われている三遊亭圓朝の作品も、「出来たときは新作だった」。今は古典と新作、両方を一所懸命に勉強している毎日である。中野区のグリーンホール環七野方で隔月の独演会「夢ある心ある今いちの落語会」を開いている。

同時に力を入れているのは10人の若手ユニット「芸協カデンツァ」だ。2018年8月に結成され、19年9月に先輩格のユニット「成金」の自主公演が終了したのと入れ替わりで、西新宿にあるミュージックテイトで毎週金曜日に定例会が開いている。「カデンツァ」という名前は、「自由な即興的歌唱・演奏」という意味の音楽用語と、所属協会の事務局が入る施設「芸能花伝舎(かでんしゃ)」をかけている。

メンバーは今いち以外に、瀧川鯉津、春風亭昇吾、桂竹千代、昔昔亭喜太郎、瀧川鯉白、三遊亭遊子、桂鷹治、立川幸之進、笑福亭希光。コロナ禍で定期公演が途絶えていたが、6月5日から定員20人で再開。その様子は生配信している。また、YouTubeで独自のチャンネルを作り、仲間とのトークや、公演の予告動画などを配信している。益々の活躍が期待される。

今いちは二ツ目時代は落語のみならず、歌舞音曲への意欲もあって、踊りを習っている。その縁もあり、今回開かれる「音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!」にゲスト出演する。自作の落語「雨乞い村」を、小すみの三味線をふんだんに取り入れた音曲噺にするべく、台本を作成中だ。また、小すみの演奏に合わせて、踊りも披露する。

「音曲師・桂小すみ なんじゃこりゃあ!」

10月18日(日)14時開演@巣鴨スタジオフォー

事前予約 2500円(当日精算)

ご予約・お問合せ yanbe0515@gmail.com