【プレイバック あのときの寄席】鈴本演芸場 2014年6月中席夜の部 「白鳥、三題噺への挑戦!やれんのか!?」
思い出の寄席や落語会を過去の僕の日記から遡ります。
きょうは2014年6月17日の鈴本演芸場6月中席夜の部、特別興行
「白鳥、三題噺への挑戦!やれんのか!?~今後の噺家人生、生かすも殺すもお客さま次第♡~」です。
三遊亭白鳥師匠が三題噺に挑む寄席の十日間興行は、これまで池袋演芸場ではあったのだが、老舗の鈴本で行われるのは今回が初だそうだ。十日間休みなし。その七日目に行った。
開口一番の前座から4人目の一之輔師匠が「新聞記事」で下がると、高座には白鳥師匠と文左衛門師匠(現・文蔵)が登場。今回の企画の趣旨を簡単に説明。前日までの6日間のお題を読み上げ、それとは被らないお題になるようにお願いする。そして、当日朝からツイッターで募ったお題から一つを選んだものを封筒から取り出し(この日は「極楽鳥」)、一つ目の候補としてボードに前座が書き込む。きょうは7日目なので、7番に。それからは挙手した客の中から文左衛門が次々指名し、お題を言ってもらう。9人からお題が出て、1番から順番に書き込んでいく。
10個のお題がボードに1番から10番まで並んだ。(写真参照)そして、1から10までの番号が書かれたテニスボールを箱に詰め、無作為に選んだ3人のお客さんにボールを箱から取ってもらう。もちろん、お客さんには番号は見えない。こうして決定した、きょうのお題は⑥夕立ち⑩神隠し⑤シングルマザー。このとき、18時30分。白鳥師匠の高座登場予定時刻が20時10分だから、創作の時間は1時間半足らずだ。ここから師匠の難行苦行がはじまる。
白鳥師匠はきょう、病院に行ったら、最近頑張ってウォーキングをして下がっていた「中性脂肪値やγ―GTPやヘモグロビン何とか」が一気に上がって、お医者さんに「何かストレスでも増えたのですか?」と訊かれてしまったそうだ。いわく「命を削って、この高座に上がっています!」。
とにかく白鳥師匠の創作能力は並外れて高いことがわかる渾身の一席だった。短時間で創った落語としては非常にクオリティの高い高座だった。終始、笑いが絶えず、なおかつ一貫したストーリーになっていて、サゲも鮮やか。選ばれた三題以外のお題も巧みに取り入れる(10個中8個が入っていた)サービス精神もすごい。新作落語の天才・三遊亭白鳥に惜しみない拍手を送った。
三遊亭ふう丈「桃太郎」/ダーク広和 奇術/古今亭始「浮世床~本」/春風亭一之輔「新聞記事」/お題取り 橘家文左衛門・三遊亭白鳥/柳家小菊 粋曲/柳亭市馬「山号寺号」/春風亭百栄「ジャム浜」/翁家和楽社中 太神楽曲芸/橘家文左衛門「時そば」/ロケット団 漫才
三遊亭白鳥「たかし君の神隠し」(仮)
幸子さんという女手ひとつで切り盛りしている、つるかめ食堂。そこに課長と部下が昼食を食べに入る。「俺はナポリタン」「私はビビンバ」。「何で、食堂に3番アイアンが置いてあるの?」「女子大生の頃はバブル期で、社長さんたちとゴルフ三昧」「上手いの?ハンディは?」「シングル!この3番アイアンは食い逃げする客に対する武器なのよ。実生活もシングルだけどね」「どうして?」「旦那を追い出したのよ。若い女と浮気しやがって」
そこに息子のタカシ(小学校4年生)が帰ってくる。「土曜日は早く帰ってきて手伝いなさいと言っているでしょ!」「友達に3DSで妖怪ウォッチをやろう!と言われているんだ」「駄目!食器を下げなさい」。課長が慰める。「若いうちに苦労しておいた方がいいよ。落語家の三遊亭白鳥は自転車泥棒して警察に捕まったことがあるくらい貧乏だった時代があるんだ。公園の雑草を食べて暮らしていたこともあるそうだ。それが落語協会会長にまでなったんだ」。
「今度の土曜日、学校の運動会があるんだ。一緒にお弁当を食べようよ、母ちゃん!俺はいつも独りぼっちで寂しいんだ」「駄目だよ。店があるじゃないか」。そこに常連客の源さんがやってくる。「サバ味噌定食ね!」「大盛りじゃないか」「サービスだよ」「映画のチケットが2枚あるから、今度の土曜日に一緒に行かないか?」「いいね」。タカシが拗ねる。「色目使いやがって!母ちゃんなんか大嫌いだ!悔しい!バカヤロー!」。
走って町はずれの山に行くタカシ。山頂には古い神社があって、年老いたホームレスが住み込んでいる。「やっと良い場所が見つかった。終の棲家とするか。わしは世捨て人。人生というのはわからないものじゃ」。そこにタカシが。「そうだ!きょうはここで寝よう!・・・何?イエス・キリスト?」「世捨て人じゃ。仙人みたいなものじゃ」「神様?俺、家になんか帰りたくないんだ!」。
そのとき、空からポツリポツリ。やがて・・・「アッ!夕立ちだ!」。「どうして、家に帰らない?」「母ちゃんが嫌いなんだ」「父さんは?」「父ちゃんは浮気して、家を出て行った。そのときも、こんなすごい夕立ちだった。出張帰りの父ちゃんのワイシャツにキスマークがついているのを見つけた母ちゃんが襲いかかったんだ。にわかに掻き曇って雷が!出てけ!って。店の手伝いは大変だよ。ここで暮らしてもいい?頼みます」。
「よし、わかった。雨もやんだ。飯を取りに行く」「マクドナルド?」「山でじゃ。山にはセイタカアワダチソウやオオバコ、イヌフグリ・・・たくさんの食べられる草がある」「雑草に詳しいんだね・・・不味い!ケンタッキーとかないの?」「ない。食いたくないなら、食わなくていい。身体を洗おう」「銭湯?」「池だ」「アオミドロじゃないか」「寝るか」「テレビはないの?見たいよ。布団は?」「貸してやる」「愛媛みかん?段ボールじゃないか!」「嫌だったら、帰れ!」。
この生活を2日続けた。「神様!間違っていました。テレビやエアコン、ごはんが出てくる生活が当たり前だと思っていました」「電気、ガス、水道。みんな、お金が必要だ。母ちゃんは女手ひとつで育ててくれたんだぞ」「母ちゃんが一生懸命働いていたのに、僕はわがままでした」「普通がどれだけ大変か。身をもってわしが教えてやった。母ちゃんに感謝しなきゃ」「ありがとうございます。神様の名前が知りたい。この手帳の『紙に書くし・・・神書くし?』・・・こんなんじゃ、駄目だ!」。
「三遊亭白鳥というんだ。良いときも、悪いときもあった。落語協会の金に手を出したのが失敗だった。まさか、一之輔に抜かれるとは。それからはホームレス。神社が終の棲家じゃ。お前がわしとここにいたことは誰にも言ってはいけないぞ」。
2日後。「ただいま!」「タカシ!どこにいたの!警察に連絡したの」「警察の者です。どこに行っていたんだい?」「言っちゃいけない・・・でも、言うしかない。僕、神隠しに遭っていました!」「だまされないよ」。「タカシ、本当に神隠しに遭ったのかい?」「ごめんね、母ちゃん。僕、わがままだったよ。頑張って働いてね」。
土曜日の朝。運動会当日。母ちゃんはグッスリ眠っている。タカシはコンビニであんぱんを買って、独りぼっちで昼食を食べている。そこへ!「タカシー!」「母ちゃん!」「弁当、作ってきたよ。仕事ばかりして、お前のことを考えていなくてごめんね」「母ちゃんが頑張っているって、神様が教えてくれたんだ」「お前の好きな海苔巻だよ」「切っても、切っても、キティちゃんだ!」「久しぶりだね、こんな時間」「本当は源さんと映画に行きたかったんじゃないの?」「男は懲り懲りだよ」「母ちゃんは痩せていてガリガリだ。おっぱいはペチャンコ」「ペチャンコでいいの。乳(父)なんていらない」で、サゲ。
ホームレスが教えてくれた当たり前の生活の有難さ。そして、シングルマザーと息子の心の交流の回復。白鳥流にバカバカとギャグを詰め込みながら、ちょっとだけハートウォーミングな噺を僅かな時間と三題噺という制約の中で創り上げる三遊亭白鳥の実力に拍手喝采である。