「立川笑二の新作落語」(下) ミステリーで、アイロニーで、ブラックユーモア。そして、麻薬のような考え落ち!

YouTubeで「立川笑二の新作落語」を観ました。

笑二さんが5月からはじめた無料の音声のみ新作ネタおろしのYouTube配信を、きのうに続き、紹介します。

普段、古典落語を中心に活動している立川笑二が、新型コロナウイルスの影響で活動を自粛している期間中に創った新作落語を、自粛期間中のみ公開しているチャンネル。そこにアップされている10作品に笑二さんの才能を垣間見ることができます。きのうに続き、残りの5本の概要を紹介し、視聴のきっかけになればと思います。。

立川笑二「隣の芝生」(06・06)

本当の幸せとは何か?という思いきりストレートなテーマを、笑二さん独特の切り口で向き合った作品。亭主が夕方6時には必ず帰宅し、休日は子供と公園で遊び、女房とも結婚5年目なのに愉しくおしゃべりする、絵に描いたような「幸せ家族」を隣に住む夫婦のうち、妻アヤカがおかしいと疑い、夫ヒロシがそういうお前が素直じゃないと言う。自分が幸せじゃないから、他人の幸せが不幸に見えてしまうのだと。果たして、アヤカの疑問はおかしいのだろうか…。

立川笑二「大吉団子」(06・13)

「大変だ!長屋が取り壊しになる」と飛び込んできた熊五郎が大家に、なぜ取り壊しになるかを最初から説明しはじめるのだが…。浅草で評判の「大吉団子」は趣向が面白いだけでなく、非常に美味しい。だが、過労で亭主の大吉が急死。女房おみつが切り盛りすると、美人ゆえにさらに繁盛。ところが突然、店を閉めてしまった・・・全然長屋取り壊しの理由に辿り着きそうにない熊五郎の説明にイライラするが大家。逆にほかのなぜ?がどんどん発生して…。理由を知ろうとすればするほど、そこから離れていく矛盾。パンドラの箱のような面白さがある。

立川笑二「易者の夢」(06・20)

誰かのいい加減なアドバイスを信じるよりも、結局は自分を信じるしかないのではないか、と教えてくれる作品。「あなたの商売はうまくいく。自分を信じなさい」と言われ、何度も同じ易者の言う通りに事を運ぶが全てうまくいかない。それでも信じろという。ついには女房を吉原に売って商売を再興しろと言われ、躊躇しながらも実行するが、すぐ身請けできるどころか、女房は自害してしまう最悪の事態に。それでも、しばらくの辛抱だ、自分を疑ったらうまくいくわけがない、あなたには先を見通す力があると言われ…。あなたはどこまでその易者を信じられますか?

立川笑二「神回」(07・03)

投稿動画サイト「オカルト兄弟のお兄ちゃん」を運営する男と、それに共感して「妹ちゃん」になる女の物語。サークルの仲間からは「オカルトバカ」と呼ばれているが、幽霊の出る現場を撮影し、リポートする大学生の男女の姿に、怪奇現象が好きという人間の普遍性とユーチューバーブームがミックスされ、現代社会のアイロニーにも感じた。「妹ちゃん」の隣に住む後輩は彼女が好きで告白したのに振られて自殺して幽霊に。彼が「お兄ちゃん」と「妹ちゃん」に幽霊になっても成仏できず、弄ばれる姿が何とも悲しい。

立川笑二「ソフィー」(07・18)

「こんな人間、嫌だ」と思ったら、人間センターに行ってリセットできるという「未来」が舞台のSF的な作品。夫婦の間に生まれた息子タカシは、14歳のときに、「女になりたい」と「性別変更申請書」を出したいと父親に願い出るが…。その理由は「女性のおっぱいを触りたい」。自分が女になれば触り放題だからと言う。バカな!父親は説得力のある回答をする。「お父さんは元々は女だった。18歳のときに性別変更した。だから言える。女になると、おっぱいを触りたいとは思わなくなる」。そもそも、その「未来」は女性が働いて稼ぎ、男性が家事や育児をするのが基本。だから、タカシをこんな子供にしたのは育児担当の父親の責任という母親の台詞が衝撃的。そして、出来の悪いタカシは「人間センターでリセットしてもらおう」と夫婦間で合意する…。ゾッとしませんか?

立川笑二さんの創作落語はミステリー的であり、ブラックな要素もあり、サゲは笑い飛ばすスタイルではなく、いわゆる「考えオチ」。それも相当に、人生とは?とか、人間とは?とか、現代社会とは?とか、深く考えてしまう「考えオチ」。僕はそういう落語、好きだなぁ。高座のあとも、脳に笑二さんの落語が刻み込まれていて、帰り道に「あのメッセージを僕はどう受け止めたらいいのか」と考えるだろう。笑二さんは「いやいや、所詮落語なんで軽く流してください」と言うだろうが。それは笑二さんの古典落語についても言えることで、「考えて、考えて、考え抜いた痕」が十分感じられる演出になっているから、好きだ。

三遊亭白鳥師匠が言っていた。「新作を創れない落語家は古典も面白くできない」。それは、立川笑二という天才にもあてはまるような気がする。