柳家わさび「チリ紙の謳」 ティッシュでなく、チリ紙。三題噺のタイトルにもセンスが光る。

らくごカフェで「月刊少年ワサビ 第137号」を観ました。(2020・08・30)

僕にとっては、半年ぶりのナマ「月ワサ」!寄席や他のホール落語では柳家わさび師匠を拝聴していましたが、やっぱり、ホームグラウンドに帰ってきた!という感じで嬉しかったです。三題噺が誕生する瞬間に立ち会えることは、この上ない贅沢。もしかしたら、「臨死の常連」や「出待ち」のように、ヘビーローテーションでかかる名作になるかも!と期待が高まるわけです。

今回は「ダマされた!」「ノルマ」「騒音」の三つのお題で「チリ紙の謳」。噺の中ではティッシュという表現でしたし、実際、現代の日常生活では、僕の親父でも「おい、そこのチリ紙取ってくれ!」とはいいませんが、なぜかこの言葉の響きが好きです。塵も積もれば山となる。本来、こうぞの外皮が原料となる紙だそうで、昭和前期はこれが全盛だった。少なくとも、僕は小学生の頃はチリ紙で鼻をかんでいた記憶です。トイレットペーパーの役割をするちり紙を「平判ちり紙(おとし紙)」と呼び、トイレットペーパーの普及による需要の減少により製造を止める業者が相次いだが、ペットの後始末、介護の現場では愛用されているそう。柳家喬太郎師匠風に言えば、「後世に遺したい昭和の言葉」でしょうか。この、泥棒猫!(笑)。

柳家わさび「チリ紙の謳」

マンガ喫茶のバイトで広告ティッシュを配る青年。無料なのに誰も受け取ってくれない。3時間で500個、無愛想だから無視され、バイトリーダーにも見離されて、「こいつは何やらせてもダメだわ」と去って行ってしまった。これまでの半生、ノルマを達成してきた青年には自分が許せない。「よろしくお願いしまーす」と笑顔の稽古をするが、作り笑顔が逆に気持ち悪くて、うまくいかない。

可哀想に思った酔っ払いが指南してあげる。そこに「ダマされた!」の声。女の子が「独身だ」と思っていた男が、妻子ある男性だった。涙を拭うために、コンビニにティッシュを買うために入った。深刻そうなカップルを見つけるのがカギだ!「ダマされた!」に反応するが、「競馬の予想屋に」「美味しいと言っていたシュークリームに」、ハズレ!

「ダマされた!」という男女の会話。しかし、バイクのエンジン吹かすブンブンという音や、酔っ払いのヒクッ!というしゃっくりの音、路上ライブのストリートミュージシャンの演奏。騒音に紛れて、「ダマされた!」が聞こえない。しょうがないので、近寄って聞く。合コンに人数合わせで誘われた女性。相手が妻子ある男性で、騙されたと。青年がティッシュを渡すと、素直に受け取ってくれた!「女は騙されても泣くとは限らないのよ。でも、優しいから受け取るわ」。青年の顔に笑顔が戻る。ところが…指南した酔っ払いの男が泣いている。「あれ、俺のかみさんなんだ。あいつ、乗り気だったろう。薬指の指輪をはめてなかったもん」。

ストリートミュージシャンの演奏に合わせて、配ろう!でも、「船徳」の煙草盆みたいに、受け取るタイミングと引っ込めるタイミングが合わない。ノルマを気にしすぎだ。「乗る」「間」を気にしすぎ!

ちなみに、ネタおろし後に、YouTube「わさびのチューブ」でさらに練り直した「チリ紙の謳」がアップされてしますので、是非、ご覧ください!

9月のお題は「月あかり」「すべり台」「キャラメルのおまけ」。さぁ、今度はどんな作品が生まれるか。楽しみです。

そして、この日の他の二席。「茗荷宿」「蒟蒻問答」。「茗荷宿」は「わさびの第二診察室」のときにも書いたが、白酒師匠の型を上手に踏襲しながら、わさび師匠オリジナルの味わいを出している。「蒟蒻問答」は、9月下席の鈴本演芸場夜トリに向けての蔵出し。にわか坊主の弁正のいい加減なところ、蒟蒻屋の六兵衛親方の意味不明なのに堂々とした「無言の業」の問答、とても楽しかった。古典のわさび師匠の面白さもお忘れなく!