春風亭百栄 一見過激に見える高座。だが、そこには落語や噺家へのリスペクトと温かい愛情がある

巣鴨スタジオフォーで「もちゃ~ん 春風亭百栄勉強会」を観ました。(2020・07・31)

百栄師匠は長年にわたり、落語協会二階で毎月勉強会を続けてきた。「モモエチャレンジ」~「ももちゃれ」~「もちゃもちゃ」、そして現在は「もちゃ~ん」と名前をちょっと変えながら、師匠にとっても、コアなモモエファンにとっても、大切な会で、ホームグラウンドだと言ってもいいと思う。その勉強会がコロナ禍で開催できなくなった。2月16日に「誘拐家族」「時そば」「禁落語外来」を聴いて以来、3月からずっと休止状態だった。緊急事態宣言解除後も現在まで、落語協会二階の使用を見送っているためだ。

「ホームグラウンドの勉強会をやりたい」。百栄師匠の思いは募り、7月の「もちゃ~ん」を巣鴨スタジオフォーで開くことを決めた。この会場は定員80人のところ、半分の40人の人数制限をして、高座の演者の前に透明のアクリル板を設置し、飛沫を予防している。40人という数字は、コロナ禍前の勉強会のお客様の人数とほぼ同数なので、4カ月ぶりに常連のモモエファンの方たちとお目にかかることもできた。

百栄師匠はコロナ禍の中、配信積極派。あのお人柄なので、自らチャンネルを立ち上げることはないが、請われれば喜んで出演する。道楽亭ネット寄席には5月以来これまでに4回、独演会「ボクの部屋」を配信している。

5月23日 「ツッコミ根問」「寿司屋水滸伝」「鼻ほしい」「露出さん」

6月13日 「お血脈」「ホームランの約束」「桃太郎」「リアクションの家元」

6月27日 「コンビニ強盗」「芝居の喧嘩」「生徒の作文」「バイオレンススコ」

7月27日 「弟子の強飯」「疝気の虫」「天使と悪魔」

8月30日にも予定されている。

百栄師匠は他の噺家さんの配信もご覧になっていて、「こんなこと、今までだったらできなかったことです。やはり気になりますからね。勉強させていただいています」と。原則、噺家さんは前(客席)に回って他の噺家さんの高座を観ることはできず、楽屋の袖から聴くことしかできない。師匠は「これはある意味、画期的」と肯定されている。

で、久しぶりの「もちゃ~ん」。師匠は、その配信のことについて触れ、道楽亭ネット寄席以外の文蔵組やシブラクの配信も含め、「ネタがかぶらない」よう配慮したと。「天使と悪魔」は5月のシブラクと7月の道楽亭で演ったが、7月には春風亭栄助が後輩の一之輔人気を意識している従来の演出に、新たに正太郎真打昇進発表&九代目春風亭柳枝襲名の要素も加えた。百栄の師匠・栄枝の師匠が八代目柳枝。百栄師匠は孫弟子にあたるのだ。

そして、高座も「ちょっと配信だとかけにくいかなぁ」と想像(これはあくまでも僕の推測だが)するネタ「キッス研究会」を。別に公序良俗に反するような内容ではないのだが、百栄師匠の魅力のひとつである「キモかわいい」表情作りが特徴のネタ。ウインク研究会の新入部員が片目が瞑れずに、両目を閉じて片目を開ける試みをする「地獄絵図のような」光景が最高に可笑しく、腹がよじれて涙が出るほど笑ってしまう。また、キッス研究会のマニュアルに書いてある「手を相手の肩にのせ、耳に息を吹きかける」とか、「耳元でジュテームと囁く」とか。投げキッス研究会の「作品ナンバー118番、初恋は春風に乗せて」とか、間接キッス研究会の「保健のイチノセユウコ先生の飲んでいたテトラパックの牛乳に挿してあったストロー」とか。

「桑名船」では、講釈師の名前が宝井バッキンガム宮殿!「ひみつのアッコちゃん」「魔女っ子メグちゃん」「魔法使いサリーちゃん」、「サザエさん」「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」、「エイリアン」「エルム街の悪夢」「13日の金曜日」、「尿路結石にはロキソニン」・・・。バラエティーに富んだ師匠らしい五目講釈が愉しい。

最後は「落語家の夢」。落語が好きなったミキちゃんを連れて、母親が「この子のために落語家ちゃんを飼いたいが、どうすればいいか?グーグルで落語家、半角スペース、販売と検索してもヒットしない」と鈴本演芸場を訪ね、アツシさんが対応する様子が実に可笑しい。「小三治は国に所有権があるので手続きに時間がかかる」「落語芸術協会の方はこちらでは扱っていない」「立川流は独立心が強く、野性的なのでペットには向かない」「多頭飼いはお薦めできない。餌をめぐって争うから」。実際に「購入される」噺家さんが実名で出てくるので、配信には向かないし、このブログでは書けないけれど、この新作を聴くたびに、ブッラクユーモアではあるが、百栄師匠の落語や噺家さんへのリスペクトや温かい愛情が感じられて大好きな作品である。

春風亭百栄師匠を食わず嫌いな方、是非、じっくりと味わってみてください。2、3回聴くうちに、必ずやその虜になるでしょう。僕の妻で実証されています(信憑性、薄いですかね)。