落語新時代を引っ張っる原動力に スタートした粋歌・正太郎二人会がお互いに切磋琢磨する場となりますように

お江戸日本橋亭で「第1回三遊亭粋歌・春風亭正太郎ひざふに二人会~出発の巻~」を開きました。(2020・07・30)

来年3月下席から粋歌さんが弁財亭和泉と名を改め、正太郎さんが九代目春風亭柳枝を襲名して真打に昇進することが決まり、誠におめでたい二人会のスタートとなった。しかしながら、新型コロナウイルスの感染は全く先が読めない状況。私たちがこれまで当たり前だったライフスタイルや価値観を見直すことが求められている、時代の大きな転換点なのかもしれない。

そういう大きなうねりの中で、真打に昇進する二人は、まさに落語新時代を引っ張っていく若い原動力だと思う。「独自の切り口でいまを描く新作」の粋歌さん。「心地よいリズムとメロディの本格古典」の正太郎さん。二人は10年後、20年後に必ずや落語界の看板になっていると信じている。そんな二人を僕は死ぬまで見守っていきたいと思っている。

その師匠が弾く「連獅子」に乗って登場した二人のオープニングトークは、やはり真打昇進のこと。まず自分たち以外の三人のこと。小太郎改メ柳家㐂三郎。「手紙無筆」のマクラなどでおなじみの山田㐂三郎。「キサッペ」の師匠として親しまれるのでしょうと。7月1日時点では真打になったときの名前が未定だった柳亭市江さんが燕三に、三遊亭めぐろさんがれん生に名を改めることも。「れん生、って圓生と響きが似てますね!」。

で、粋歌さんの弁財亭和泉という名前は「自分で新しく作った名前です」と。その名前への思いはおいおい高座でお話ししますとのこと。で、九代目柳枝を襲名する正太郎さん。62年ぶりの大名跡復活だが、先代柳枝師匠の遺族に挨拶に行くとき、師匠・正朝から「50万円用意しろ」と言われ、「誘拐犯かと思った(笑)が、銀行のATMからおろして、念のために市馬会長に確認したら、『この名跡は落語協会が預かったもので、理事会で承認したので、払う必要はない』と言われ、胸を撫でおろした」と。1万円の虎屋の羊羹を持参したが「49万円、浮きました!」。でも、柳枝襲名には正朝師匠が大変奔走してくれたそうで、感謝の気持ちでいっぱいですと。

「出発」という第1回のテーマに沿って粋歌さんがネタ出しした新作は「一年生」。2017年3月放送の「はばたくあなたに贈る創作話芸」でネタおろしした作品で、生まれたときから電話番号が表示される電話しか出たことのないデジタル世代の新入社員が、それが原因で「やめたい」と言い出すのを同じ部署の社員たちが優しく説得する、現代社会を描きながらハートウォーミングという粋歌落語の本領発揮。

もう一席は「夏の顔色」で、去年創ってご自分でもお気に入りの作品で、コロナ禍でも配信などは殆んどしなかった粋歌さんだが、Facebookに3作品だけ音声のみアップしたうちの一つだ。夏休みに田舎に帰ってスローライフを満喫し、ノスタルジーに浸ろうという幻想を持った息子家族を失望させないよう、年老いた両親が自宅のWi-Fiを切り、Amazonの段ボールを隠し、ネットフリックスを観るのを我慢するという、これまた現代社会を描きながら人間模様が浮き上がる秀作だ。落語評論家の長井好弘さんは「落語というより上質の短編小説のようで、家族それぞれの顔が浮かんできた」と評価していた。

一方の正太郎さんが「出発」をテーマに選んだ演目は「甲府ぃ」。江戸に出てきた善吉がスリに遭い、一文無しになったのを救ってあげた豆腐屋主人。善吉は恩を感じ、一所懸命に毎日豆腐を売り歩き、その人柄から女子供に慕われて贔屓が増えていく様子。そういう好青年に惚れた豆腐屋主人の娘。心が洗われる、イイ噺だが、それに微塵の嫌味がない。長井好弘さんは「正太郎さんの良い意味での『垢抜けなさ』と善人だらけのネタの相性が抜群」と評価。ちなみに正太郎さんは目黒生まれのおぼっちゃまなんですけどね(笑)。

もう一席は「道具や」。この噺を聴いていて、「最近、『道具や』を演る人が少なくなった」と誰かが書いていたなぁと思ったら、「僕です」と正太郎さん。この噺は伸縮自在で、40分でも7分でもできる。柳家三三師匠は、毛抜きであご髭を抜きながら与太郎と雑談するところをたっぷり演って、30分以上ある「道具や」を何度か聴いたことがある。九代目柳枝のトリの高座で「道具や」ロングバージョンがいつか聴きたいです。

というわけで、この二人会。来年夏以降は「弁財亭和泉・春風亭柳枝ひざふに二人会」と名前を変えるわけだが、全く違うタイプの二人が切磋琢磨していくような二人会になりますように。