ルールがないのがルール。段取りではなく、その瞬間を大切に。玉川奈々福が新人曲師に伝授することは、そのまま浪曲の魅力だ。

道楽亭ネット寄席で「奈々福 曲師・沢村まみを鍛える会」を観ました。(2020・07・30)

緊急事態宣言が解除になり、6月1日から浪曲定席の木馬亭が再開したが、そのときに初舞台を踏んだ女性が二人いる。一人は浪曲師・玉川奈みほ(奈々福門下)、もう一人は曲師・沢村まみ(豊子門下)。二人が入門したのはほぼ同時期で、去年4月。奈々福さんが伊丹十三賞を受賞され、「すっぴん!インタビュー」にご出演いただいたときに、「最近、弟子をとったんです」とおっしゃっていたのを覚えている。

浪曲は浪曲師と曲師の二人芸。だから、修行も浪曲師は優秀な曲師の元で、曲師は優秀な浪曲師の元で修行を積むことに越したことはない。実際、6月の初舞台で、奈みほさんは沢村豊子師匠の相三味線で「阿漕ヶ浦」だったし、なみさんは奈々福さんの「お民の度胸」の相三味線だった。8月からスタートする、奈みほとまみの勉強会「カラ破りの会」は、なんと!奈みほさんの浪曲には奈々福さんが曲師を務め、まみさんの三味線には奈々福さんが唸るという。奈々福さん、YouTubeチャンネルの立ち上げ、25周年新作フェス5カ月連続公演もありの、スーパーウーマンぶり。

で、本当はこの日の道楽亭は「豊子・奈々福のたっぷり浪曲とおしゃべりの会」が予定されていたが、このところの都内の新型コロナウイルス感染者数が200~300と収束の先行き不透明が否めないため、高齢の豊子師匠の健康を案じて、急遽、この「まみを鍛える会」に変更された。でも、これが好企画だった。

ここからは奈々福さんの説明ですが。浪曲に譜面はない。決まり事はあるけど、それに縛られていてはダメだと。浪曲師の呼吸に合わせて曲師が弾く。それには経験が一番大事で、曲師が育つためには稽古台が必要だ。1回でも多く舞台を踏むこと。そういう意味をこめての今回の企画変更ですと。「早く一人前になって!」と身を粉にしての「鍛える会」。タイトルだけ聞くと、「怖そう!」と思われるかもしれないが、むしろ「真心」であり、「通らないといけない道」。浪曲師と曲師のコンビネーションが「命綱」だから。まみさんは沢村豊子師匠の三番弟子。さくらさん、美舟さん、そしてまみさん。美舟さんのときも、奈々福さんが稽古台を買って出た。

そして、大切なのはこのあと。その曲師を指導している様子を配信で見てもらうことで、視聴者により「浪曲の仕組み」を知ってもらうことになる、と。これ!すごい重要で、奈々福さんらしいアイデアだと思った。で、「鹿島の棒祭り」を選んだ。関東節にも色々な節の種類がある。この「鹿島の―」は基本的な節が中心で、余分なものが入っていない。一枚の紙を見せてくれた。そこに書かれていたのは、「きっかけ節」「アイノコ節」「ウレイの関東節」「キッカケ→タタミコミ」。外題付け(弾き出し)からキッカケ節に入っていき、リズムのある節にいく過程を実践しながら、奈々福さんが解説。わかりやすい。

テンポの速いものから、ゆっくりしたものまでバリエーションがあり、浮かれるようなジャカジャカした感じは浪曲師がちょっと休んでいるときに入れて、節を引き立てる役割があるとか。常に浪曲師の横の口元を見ている。これが大事。セッションだから。メニューのようなものを事前に曲師に渡して段取りで演奏すると、面白くない。曲師がどう受け取り、三味線を入れるか。それをやらないと、下手になる。また、それは曲師の誇りでもある、と。元々は大道芸だった浪曲。きちんと整理してはダメ。その瞬間、瞬間を大事にする。今を生きる芸。息と息とのせめぎ合い。それで、お客様が気持ちよくなる。

まみさんは、入門して1年4か月。「ルールがない」というルールがある、ということがわかったという。違う!と言われても、何が違うか、わからない。でも、質問してはいけない。怒られたときの「意味」を汲み取る。これが修行、と。「早くわかるようになりたい」と。メソッド、方法論がない。百回やって、やっとわかる。実に非効率。文字に書かれた教科書はない。ナマの師匠が教科書。音、技術、掛け声。それが本当の伝授ではないか、と奈々福さん。

で、奈々福さんいわく「教えることで、自分に戻ってくる。自分がビシッとする」。(後輩が)キュンと伸びる瞬間を見られる幸せ。食べられない仕事を選び、この道に進みたい、どうしてもなりたいとこの世界に入ってきた若い人たちと、チームで一丸となって走っていく、歩いて行くと語る奈々福さんの言葉に力強さを感じた。

タタミコミ、ウレイ、安倍川町、虎造節の関東節、ジプシー、セメ、国友節、道中付け、ラップ、奴囃子・・・。専門用語もぽんぽん出てきて、100%理解したわけではないけれど、おっしゃりたいことの概略はすごくよくわかった。浪花節のマインドっていうんでしょうか。音楽的才能がない僕ではありますが、その気持ちとか、雰囲気とかは強く理解できました。

「鹿島の棒祭り」の後、中入りをはさんで、「亀甲縞の由来」。これは初めて聴きましたが、これもいい話ですね!中入り後は解説なしで、純粋に浪曲披露でしたが、曲師のまみさんが一所懸命に相三味線を弾いている姿も良かった。終わったあとに、奈々福さんが「たくさん言いたいことあるけど、それは後でね」となみさんにおしゃっている顔は愛情に溢れていました。