「まるらくご」古典落語のマンネリの打破を図り、改作を続ける情熱に感服 鈴々舎馬るこ

オンラインで「まるらくご爆裂ドーン!」を観ました。(2020・07・21)

馬るこ師匠の落語は2017年に真打に昇進する前から気になっていた。あれは確か、浜松町の文化放送メディアプラスホールで開いていた「かもめ亭」という落語会でギターを持ち、「イタコ捜査官メロディ」を披露したときの衝撃は忘れられない。調べたら2009年だった。出囃子がUWFプロレスのテーマというのも印象的だし、だからたくさん観たい!と常々思っていたのに、制約された時間の中でやりくりできない歯痒さがあった。

その衝撃的な出会いからしばらく間が空いてしまった。ようやく2013年に「甲府い」。14年に粋歌さんとの二人会が連雀亭であって、「大工調べ」と「代書屋」。どれも「しっかりとした古典」を基礎に色々と遊びを入れてくるのが魅力になった。15年「一目上り」「つる」「転失気」「親子酒」。16年にやっと、日本橋亭での勉強会「てれんこぱれんこ」に行くことができ、「火事息子」と「お札はがし」の大ネタと格闘している姿に出会う。だけど、その馬るこ熱とは裏腹に、17年真打昇進の年は「鮑のし」一席のみ。18年にミュージックテイトの独演会で「死神」と「千早ふる」、池袋演芸場の新作台本まつりで「日本語学校の桃太郎」を聞いたときは、馬るこ師匠をもっと聴かねばと再確認した。が、19年は同じ新作台本まつりの「イタコ捜査官メロディ」と10年ぶりの再会を果たしたのみだ。歯がゆさは募る。

今年、「元犬」の改作「八幡様とシロ」を花形演芸会で聞き、下北沢の勉強会「まるらくご爆裂ドーン!」へ。「鴻池の犬」「千早ふる」「堀の内」。やっぱり古典の改作に真価を発揮している!と思ったのも束の間、コロナ禍に。以後、配信で「糖質制限初天神」、「アメリカのあくび指南」「闇のたらちね」。もはや古典の改作を飛び超えたために、演目名まで変わった作品が増えている。凄い。

この日の配信はその下北沢の勉強会のハイブリッド。「都々逸親子」「不精床」「一人酒盛」の三席だったが、ぜーんぶ、馬るこ師匠の手によって大幅に改作されたマンネリ古典落語からの脱出を試みたネタおろしで、素晴らしかった!

「都々逸親子」。父親よりも息子の方が達者な都々逸を作るという骨組みは古典を踏襲しているが、そのダメダメぶりが激しくて面白い。それだけではなく、達者な息子が今の世相を表す見事な都々逸を披露するのも見事だった。「新しい生活様式」というコロナ禍を反映したお題に、息子の作品は「惚れた上司とパソコン会議、嬉し恥ずかしテレワーク」や「寝坊したときゃマスクをつけて、鼻から下はノーメイク」。イイネ!一方の父親は「旅行者脅してお金をゲット、行くぞGO TOキャンペーン」。おいおい、強盗じゃねえぞ!(笑)「一山当てたら人混み行って、セッセと菌をばら撒くぞ」。笑えないぞー!

「不精床」は近所の金子さんの長男・タケシが久しぶりに実家に帰ってきたら、明日が妹の結婚式。そんな汚い頭じゃ、式に列席させないと言われ、やってきた設定。だけど、そこの床屋はおかあちゃんでもっていて、亭主も息子もダメダメな理髪テクニックで散々という噺に。今月最初の客だとドラマ「相棒」の録画を観ていた床屋主人は面倒くさそうに「おかあちゃんならソバージュもツーブロックもできたが、俺は角刈りか丸刈りしかできない」。挙句に水道を止められて、シャンプーもできない。ボウフラに浮いた金魚鉢の水で無理やり湿した頭はネチョネチョ!

さらに息子のシゲルに髭の剃り方を伝授しようとするが、息子も同じくドラマ「相棒」の録画に夢中で、話にならない。血が噴き出す。そこに、かあちゃんが帰ってきた!「もう、30分早く帰ってきれくれたら・・・」と嘆くタケシに、「いつも私に頼ってばかりで、嫌になったから1年家出してたの。でも、心配になって帰ってきたら、案の定」。これに息子のシゲルは「やった!これでニートに戻れる!」。

「一人酒盛」は、熊さんが「こういう良い酒は留さんと飲みたい」と誘うところから始まるのは古典と一緒だが、その「留ちゃん」は「きのう、居酒屋で知り合った」ばかりの男!熊さんが繰り出す「下手くそな比喩」にイライラしながら、いつ酒が飲めるのかイライラする留さんという構図で、その比喩がたまらなく下手!で笑ってしまうのが、この改作の味噌だろう。

「いい酒と肴と気の合う友達、この三密がお酒を美味しくするんだな」「お前さんが来る前にチョビチョビやっていたけれども、この酒も美味しい。女性のジーンズのベルトの上の肉みたいなものだ」「冷や、ひなた燗、人肌、ぬる燗、上燗、熱燗、飛び切り燗。やっぱり熱燗が一番美味い。それをお前さんに飲んでもらいたいから。私は目玉焼きを最初に黄身から食べる人だから」「まだ、ぬる燗だな。うーん、熱燗もいいが、ぬる燗もいいな。いい酒は表情を変えて見せる。人情噺よし、滑稽噺よし、音曲噺よしというようなベテラン落語家みたいだな」「どちらも良いという意味では親子二代にわたって名人みたなものかな。雲助・龍玉親子会かな」。もー、下手くそというより、意味不明なのがまた可笑しい。

「酒は日本の文化の粋だ。米を蒸す、杜氏が撒いた麹菌が食べる、糖分が出る、今度は酵母菌が食べる、そして酒ができる。麹と酵母が作ったおしっこだ」。それ、杜氏さんに失礼だ!「クリームチーズ入りイブリガッコを作っておくれ。酒とマリアージュすると美味しい」「クリームチーズは不思議だな。イブリガッコと合う。まるで和食みたいだ。祖国を捨てない朝青龍みたいなものか」。「アッ!飛び切り燗になっちまった!フーフーしないと飲めない。地味な学校の怪談。夜中の2時に出るトイレの花子さんの抜け毛」。もはや、意味不明を超えて、異次元ワールドへ。それが可笑しいし、人間は酔っ払うと独りよがりになって、自分の言うことを自分だけで面白がるという、この「一人酒盛」の根源をよく突いている。そういう意味で、馬るこ師匠の改作は素晴らしい。