「コロナ第一世代」立川流から誕生した天才的な二人の二ツ目 立川かしめと立川談洲

ツイキャスティングで「立川かしめ・立川談洲二人会」を観ました。(2020・07・18)

最近、立川流から二ツ目に昇進した二人の噺家さんに注目しはじめている。一人は立川かしめさん。立川こしら門下(2015年入門、20年4月二ツ目昇進)。もう一人は立川談洲さん。立川談笑門下(2017年入門、19年12月二ツ目昇進)。正直、これまでは僕自身も時間に余裕がなく、立川流の若手の噺家さんを観る機会が大変少なくて、その逸材ぶりを知ることもできなかった。しかし、このコロナ禍でいち早く配信に動いたのは若手であり、その若手の中でも、かしめさん、談洲さんの天賦の才能に度肝を抜かれた。陳腐な言い方をすれば、知能指数めちゃくちゃ高いでしょう!という高座で、これまでの落語の概念をいい意味で裏切ってくれて、とてもスカッとしたのである。まさにこの二人は「コロナ第一世代」という名前にふさわしい逸材である。

かしめさんについては、一度このブログで書かせていただいたが、道楽亭ネット寄席の開口一番で、「金明竹」や「ばんかい将棋」でその片鱗を恥ずかしながら知った。その後、日本橋亭ちょちょら組で「大工調べ」を聴き、さらにその才能のすごさに遅ればせながら驚いた。談洲さんは前座時代に何度か吉祥寺で月1回開かれていた談笑一門会で高座を聴き、その片鱗を感じていたが、今年に入り、2月シブラク「しゃべっちゃいなよ」で披露した新作ネタおろし「やおよろず」で俄然注目した。3月広小路亭の独演会での新作「豆腐やの朝」、堂々の「たちきり」に舌を巻いた。こちらも遅まきで申し訳ございません。

この配信は図らずも、その注目の二人会。そして、改めて、すごい!と思った。談洲さんは「アリとキリギリス」と「天狗裁き」の二席。「天狗裁き」は居眠りしていた八五郎を起こす女房が、「夢の酒」のお花とはまた違ったキャラで悋気が激しくて、「浮気?本当のこと言って!」「面倒くさいな」「どうせ、私は面倒くさい女よ。別れる!」「お前はなんでそうなるの」「近頃、名前で呼んでくれない。私、出て行く。止めないで」「馬鹿馬鹿しい。わかった。止めないよ」「止めてよ。女の『止めないで』は『止めて』の意味だから」・・・。もう、これだけで従来の古典に一捻りしている高座が伝わるだろう。

だが、それ以上に、この日は新作「アリとキリギリス」がもの凄かった!「暗い気持ちになるので、演りたくないんだけど、あえて演ります」と前振りして披露した高座は、初めて新作落語に挑戦したときの作品だそうで。いや、それだけで天才です。内容をザックリと説明しますね。会社の健康診断で念のためと言われ再検査したアンドウさん、30歳。医師から、腫瘍が発見され、転移しており、余命が長くないと宣告されるが…。「おそらくもって8年」。それも6年後までは生存確率は100%だという。なのに、8年後には100%死ぬという。アンドウさんは考える。今までチャラチャラと遊んでいた友人を横目に見ながら、自分はコツコツ頑張ってきた。なのに、なぜ自分があいつらより早く死ななくてはいけないのだ!不公平だ!おれはズーッと「冬の時代」で人生を終えるのか。

医師があざ笑う。私は田所家という裕福な家庭に生まれ育ち、才能もあり、当然女からももてたし、愉しく過ごしてきた。そして、今も美人で料理の上手い妻を持ち、職場からは尊敬され、カネも地位も名誉もほしいまま。おまけに愛人も3人。ただただ、愉しく生きている。そして言う。「君は羨ましかっただけじゃなかったのか」「そういう風になれない自分を守りたかっただけじゃないか」「自分は頑張ってきたのに、かわいそう?自分の弱さを盾にして他人の救いを待っていただけなんじゃないか」。

そして、何年か後。ある男が「十分、頑張った」と遺言をのこし、「もう、疲れた」と飛び降り自殺をした。同時期、夫と妻が談笑している。「来週は結婚記念日だね。フレンチの予約しておいたから」「え!その店、なかなか予約とれないんでしょう?嬉しい!」。そこにテレビニュース。「田所病院の院長が遺体で見つかりました。『疲れた』という遺書があり、自殺の疑いで捜査しています」。男がニヤニヤしながら「冬がきたんだよ」。こういうブラックな落語もあり、だと思う。

かしめさんは「動物園」と「蛇もめ」の二席。一席目はマンネリ古典落語に一石を投じる後日談が素晴らしい。ブラックライオンの毛皮を着て、一日の仕事を終えて帰ろうとする男に、園長が言う。「この動物園には微弱な電波が発せられていて、ここで働く人間は少しずつ人間の記憶が薄れていくんです」。「あなたに昼間、あんぱんをくれた男の子、あれはあなたの息子のタカシ君ですよ」「え?俺は浮気が原因で離婚して妻からも息子からも見放されたはず」「では、あなたが左手にはめている指輪は何です?ほら、電波が効いてきている」。

ハッとする男。「俺は皆が心配するから帰りたい!お願いだ」「じゃぁ、この薬を飲みなさい。檻の中の記憶が消えます。言っておきますが、あなたは何度も来園し、何度もライオンになっているんですよ。ぐっすり眠って、またの来園をお待ちしております」。で、気が付いたら、落語の冒頭、「会社、首になっちゃってさ。何かいい仕事ないかな」。こわーい、薄気味悪い噺になっていて、凄い!

二席目は八五郎が隠居を訪ねる古典テーストだけど、オリジナルの新作。日照り続きの村を救うために、八五郎が命じられたものは…。長の日照りは大蛇の怒り。大蛇の怒りを鎮めるべし。生娘を一人、生贄に捧げるべし。さもなくば、北の祠に籠って7日間、天狗とともに祈祷を捧げるべし。さもなくば、ヌラリヒョンを10匹捕まえ、粉に煎じ、神の瓢箪に入れ、その瓢箪を持ち、海坊主とともに海を渡り、幻の島で火の鳥に矢を放つべし。そんなの難しいよぉ。

村のはずれに住む男を大蛇に遣わすべし。この男、スサノオノミコトの末裔なり。必ずや大蛇を倒し、安寧を授けるだろう。「村のはずれ?あっしは東の端に住んでますが、他にも南北西の端があるでしょう?」「3人とも断られた。これを八っつぁんが断ると、娘お花を生贄にするぞ」。仕方なく、八五郎が受ける。「倒す術はある。大蛇は夜に動く。主に昼は洞窟にいる」「主に?」「いや、必ず洞窟にいる。入り口のあたり」「あたり?中?外?」「中のはず」「はず?」「中だ。だらだらとしていることが多い」「多い?いや、している!寝ているときを狙って、酒を飲ませる」「どれくらい?」「八升だ」「そんなに沢山の酒、一人で運べない」「4人つけよう。必ずや倒せるであろう」「あろう?」「倒せる、倒せる」「二回繰り返すのやめて」

「酔っ払うと千鳥足になる。そこを狙う」「足ない!」「普段の速さが10とすれば、3から6くらいの速さだ」「普段を知らないし、3から6って!」。不安を隠せない八五郎に、隠居は「代々伝わる宝剣」を渡し、「頼んだぞ、勇者!」。だが、その宝剣が錆びついていて抜けない。「革の鎧を身に着け、革の盾を持て」「どこにある?」「道具屋で買え」「金は?」「この財布をあげる」「蛇皮の財布ですね。白蛇?」「近頃、白い蛇がたくさん出るので、生け捕りにして、商売にして、村の民芸品として生計を立てているんだ」「これが大蛇の怒りの元じゃないですか!?」。で、大蛇は何匹もいるとか、首を斬ってもまた生えてくるとか、そもそも剣じゃ斬れないとか。「モーッ」と思ったら、「お前さん、どんな夢見たの?」。いやはや、「天狗裁き」につなげてくるとは!

矛盾だらけとか、思慮が足りないとか、そんな今の政治への皮肉にも僕には思えて。それは考えすぎと思われそうですが、ただ面白いね、ハッハッハ!という落語じゃない、ちょっと考えさせられる。そんな「IQ落語」というと大袈裟かもしれませんが、すごく歯ごたえを感じる立川流の新しい二ツ目に、今後も注目していきたいと思います。