木馬亭7月定席千穐楽 8席4時間、たっぷり!義理と人情の世界に浸る

木馬亭で「七月定席千穐楽」を観ました。(2020・07・07)

木馬亭の定席は中入りをはさんで、浪曲7本と講談1本の番組編成。およそ4時間楽しめる。集中して聴くと確かに疲れるけれど、それは心地よい疲労感だ。充実感が勝っているからだ。特に僕の場合は浪曲を聴きはじめて6年ほどなので、次から次へと知らない演題が展開し、ワクワクしながら聴いている。で、本当に浪花節というのは人情だなぁ、と思う。そう、浪花節だよ人生は。

「愛宕山 梅花の誉れ」玉川奈みほ/沢村美舟 「深川裸踊り」港家小そめ/玉川祐子 「狸」東家一太郎/東家美 「浪曲シンデレラ」玉川奈々福/沢村美舟 中入り 「悋気の火の玉」澤恵子/佐藤喜美江 「出世の白餅」田辺鶴遊 「陸奥間違い」玉川福助/沢村美舟 「春日局」澤孝子/佐藤喜美江

奈みほ、6月初舞台に続く木馬亭定席2度目の出演。持ち時間が短いので間垣平九郎が登場する前で終わったけれど、舞台度胸がどんどんついている。小そめ、鳶職人だった仙太が不慮の事故で盲目になり、女房は病死。忘れ形見の仙吉を男手ひとつで育てるが、なにせ貧乏。深川祭で神輿を担ぎたいという息子の願いを叶えようと葛籠から腹掛けや半纏などを出してやるが、ボロボロ。でも、神輿は身なりで担ぐんじゃない!中身は灘の生一本だ!心で担げ!深川の鳶連中が全員、半纏を脱いで裸になり、仙吉と一緒に神輿を担いで奉納。その後、仙太は亡くなるが、仙吉は深川の人情に支えられ、立派な鳶職人に。下町の人情と心意気がよく出ていた。

一太郎、大師匠・東家楽浦が野口甫堂の名前で創作した作品を。落語の「狸の恩返し」とは全く違うテーストで、浪曲の醍醐味を感じた。亡くなった女房の墓参の帰りに身籠っていた雌狸を助けた三河屋旦那。後妻に迎えたお玉と陰で暗躍する旗本・中村源次郎が結託し、三河屋を乗っ取ろうと小梅の里で旦那を闇討ちした。旦那の死の哀しみにくれる息子・善一と奉公人・八蔵。ある晩、雌狸が八蔵の元を訪ね、旦那を殺したのはお玉と中村源次郎だと教えにくる。旦那に恩を感じていたが、子狸を出産し、成長するまで穴がから出られなかったと詫びながら。そして、善一と八蔵は見事に仇討を果たし、狸囃子が鳴り響いたという。うん、これ、浪花節ですね!

奈々福、シンデレラの物語を浪曲化した新作だが、「古典っぽく演りたい」と冒頭に。亡き母の形見であるドレスを着て、婆やの一度だけの魔法でかぼちゃねずみが馬車になる。舞踏会を夜12時の鐘で去る、シンデレラ。追いかける王子。奈々福はアクション付きで唸り、ドラマチックなストーリーをさらに増幅した。恵子、落語浪曲をお得意にされているそう。花川戸のおかみさんと根岸のお妾さんが大恩寺前で激突する様子が三味線に乗ると、また愉しい。

鶴遊、戦国戦乱の出世物語。近江国藤堂村の百姓・与右衛門が武士になる大志を抱き、名を高虎と改め故郷を出る。摂津国尼崎で足軽となると、同じ大志を抱く居相孫作と出会う。出奔し、伊勢四日市。無一文だが空腹を覚えた二人は本陣森田屋に宿を取る。正月用に飾ってあった白餅を食べたいと言うと、宿主人は升に餅を入れ、「益々のご出世で城持ちに」と差し出す。たらふく食べた二人だが、無一文。だが、主人は「出世の暁にお支払いを」と言い、路金で五貫文を渡す。二人は東北の松島で喧嘩別れするが、数年後に高虎は秀吉に重用され、8万石取りの城持ちに。そこへ孫作が訪ね、馬の轡を扱う別当となり、5千石戴く。さらに高虎は出世をして32万2千石。伊勢四日市の森田屋に100両ともち米200俵を贈ったという。おめでたい読み物だった。

福助、玉川のお家芸。孝子、圧巻の「春日局」。大西信行先生の作品で、聴き応えがたっぷり!春日局が病床にあるが、薬を飲むことを拒んでいるという。それを聞き付けた家光公は春日に出向き、見舞い、薬を飲むように説得するが。春日局が言う。慶長9年、あなたが誕生したとき、私はあなたの乳母という大役を任せられた。そのときに私は今日限り正成殿(夫の稲葉正成)と縁を切って家を出て、命を懸けて養育させていただこうと決意したのです。春日局は明智光秀の重臣の齋藤利三の娘・安で、母方の稲葉家に嫁いでいた。

家光の幼名は竹千代。利発な子だった。しかし、二代将軍・秀忠の側室は弟の国松を寵愛していた。三代将軍はどちらがなるのか?春日局は駿府に隠居していた家康のところを駕籠を飛ばして訪ねる。おふく(春日局)は進言する。泰平の世に世継ぎ争いなどあってはならないと。家康は江戸へ。その道中付けが喜美江師匠の三味線に乗って、実に素晴らしい!千代田城は「大御所様のお目通り」とあって、大慌て。「三代将軍は慈悲深い人物でなければならない。竹千代、弟や家来を大事にしろ。国松、主君を大切にしろ。おふく、竹殿のことは頼みましたぞ」。

竹千代が医者が匙を投げる病気になった。春日局は神仏に願をかける。「私は以後、薬は一切口にしない。竹千代さまの命と引き換えにしてください」。その甲斐あって、竹千代は回復。三代将軍に家光が無事になったとき、乳母冥利に尽きたと。これで今さら薬を飲んだら、神様仏様に罰が当たる。「大役済んで、嬉しくあの世に逝くのです。100万年後、お目にかかりましょう」。春日局はニッコリ笑って家光に手を握りしめ、やすらかに65年の生涯を終えたという。三代将軍家光を支えた春日局の物語に胸が熱くなった。