ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!関東平野!耳に残って離れない 古今亭駒治 自粛期間中に傑作が誕生しました

道楽亭ネット寄席で「古今亭駒治・笑福亭べ瓶二人会」(2020・06・20)、江戸東京博物館小ホールで「林家きく麿・古今亭駒治二人会」(07・09)を観ました。

古今亭駒治師匠は2018年秋に真打昇進したときに、新作落語一本に絞って今後も活動するとおっしゃっていたが、その新作への情熱はずっと高まるばかりで、冷めることなどない。どうしても「鉄道戦国絵巻」に代表される、趣味を生かした鉄道落語にスポットが当たるけれど、少し追いかけるとそれはほんの一部であり、プロ野球のヤクルトスワローズのファン、ミュージシャンのチャゲ&飛鳥のファン、という多面的な顔を持っていて、それらを生かした新作も多い。

ジャンルを問わず、駒治師匠の落語には甘酸っぱい青春時代へのノスタルジーが流れているものが多いのが魅力の一つだ。田舎の暴走族と出会い、息子たちが元レディースのトップだった母親の過去を知る「さよならヤンキー」。学校の同級生が各々隠れてラジオの深夜番組に投稿、皆が常連ラジオネームだと判明する「ラジオデイズ」。帰郷した駄菓子屋で昔の同級生と再会、当時の力関係に抗うことができない「すももの思い出」・・・。

今回、駒治師匠は「自粛期間中に曲ができました。それをそのまま披露するとおバカさんになってしまうので、落語にしてみました」と言って、高座にエレキギターを持ち込み、演奏する新作落語「ロックウイズユー」を、道楽亭でネタ下ろし。それを僕は配信で観て、面白い!と思ったら、ご自分も気に入ったみたいで、その後、きく麿師匠との二人会の高座でナマで拝見。さらにシブラクでの高座でも配信で観て、都合3回観ましたが、もう、サビの「ヘイ!ヘイ!関東平野!」のフレーズが頭の中から離れなくてなってしまった。傑作!

高校3年生の佐藤は文芸部員。同じ部員の前川さんのことが好きだが、彼女は宇都宮の名主の息子と歳の離れた縁談が、支度金目当ての親によってまとまってしまい、転校することに(その設定自体、駒治師匠らしくて可笑しい!)。あさっての文化祭を前に、佐藤は同級生でいつもギターを背負っているクラスで浮いている一匹狼の田沼に一緒に演奏しないか?と誘われる。人間はロックに生きなきゃ!と。

佐藤が書いていた詞を見て、田沼は「これはいい!ロックだよ!」と即興で演奏を始める。「俺はキース。お前はきょうからミックだ!」。誘われるままに、町内の稽古場=銭湯に連れていかれる。そこには、銭湯の長男坊で40歳プータローのビル(ベース担当)と、謎の存在・チャーリー(ドラム担当)が。ビルも佐藤の詞を見て共感し、是非一緒に文化祭で演奏したいと、バンドが組まれた。バンド名は「ロックウイズユー」。彼らはバンドを組んで活動している百戦錬磨、ただし盆踊りと老人ホーム慰問専門(笑)。

ピアノも入れたいね、ということになり、田沼は高校の女性音楽教師に交渉する。「私はクラシック専門だから。今度の婚活パーティーで私のお墓の前で泣かないでください、を歌うんだから」と断るが。佐藤の詞を見て、考えが変わる。これなら是非、参加したい!すると、ビルは音楽教師と15年ぶりの再会。「ヨシマサ!こんなオヤジとは一緒に演奏できない!」。去る、音楽教師。ビルは田沼たちに告白する。「俺は当時、彼女を幸せにする自信がなかった。だから、ギターを街の交差点に捨てた。そうしたら、そのギターを拾って、現われたのがビル、お前だったんだよ。それから、俺はベースに転向し、音楽活動を再開したんだ。相手に何と言われようと、自分の気持ちを伝えることが大切だ。若いってすばらしいな」。それを聞いた田沼は音楽教師の後を追いかけ、バンド参加を再び説得。あっさり、説得される音楽教師。これで、文化祭での演奏は決まった。

文化祭前日。前川さんが佐藤に言う。「まさか、バンドとか、やってないよね。佐藤君に限ってそれはないよね。私、バンドとか苦手なの。鳥肌立つ。あぁ、良かった。文芸部、楽しかった。私は佐藤君の詞が好きだった。下手にメロディーに乗せない潔さが好き。バンドなんかやったら、絶交よ」。佐藤は悩んだ。

そして、文化祭当日。フィナーレのステージ。佐藤はボーカルとして立っていた。

♪18切符握りしめ クロスシートにチケット・トゥ・ライド シャイなハートがシェ―キング・ハイ 何も言い出せないまま 俺の気持ち知りながら 離れ離れさファーラウェイ お前は行っちまったよ 遠い町へとランナウェイ 東北本線、北へ

上野赤羽大宮 お前を追って 小山小金井自治医大 関東平野は続く ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!関東平野 ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!無駄に広い ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!関東平野は続く もうまっぴらさ

お前と俺の間に 関東平野は横たわる まるで天の川だよ 関東平野は 東北本線、北へ 地面の下に秘めていたぜ 真っ赤な関東ローム層 俺の心を引き裂いて みせるぜ関東ローム層 ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!関東平野 ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!無駄に広い ヘイ!ヤ!ヘイ!ヤ!関東平野は続く もうまっぴらさ

歌い終わった佐藤が「前川さん!好きだ!」。「告白?ごめんなさい。きのう、言ったよね。バンド嫌いだって。メッセージ、何も伝わってこなかった。さようなら。転校しまーす!」。「待ってー」という佐藤の声がいつまでも虚しく響く。

演じ終わった後、駒治師匠は「関東平野の歌」をバックにロールテロップを流す。佐藤:古今亭駒治 前川:古今亭駒治 田沼:古今亭駒治 ビル/先生/ビルの父:古今亭駒治 チャーリー:チャーリー・ワッツ(友情出演) 脚本・演出:古今亭駒治 「関東平野の歌」作詞:古今亭駒治 作曲:古今亭駒治 編曲:古今亭駒治(ポヌーキャニオン) 監督:古今亭駒治

いあー、もう傑作です!駒治落語の真骨頂である、青春の甘酸っぱさ。そして、歌詞は鉄道愛にあふれ、20歳までミュージシャンの夢を持っていたという駒治師匠のギター演奏。さらに、落語にエンドロールを流す斬新さ。コロナ自粛期間中に傑作が誕生した。