時間と空間を観客と共有するライブでこそ、春風亭一之輔の魅力は何十倍にも膨れる

有楽町よみうりホールで「春風亭一之輔のドッサりまわるぜ」を観ました。(2020・07・04)

7月1日からは都内4軒の寄席すべてが、観客数を半分以下にするほか様々な新型コロナウイルス感染拡大予防策を講じて、営業を再開した。ホール落語も一旦発売したチケットを払い戻した上で半分以下の席数で再発売するとか、開催日の一カ月程前から発売しないとか、昼夜公演にしてお客様を半分に分けるとか、大きなキャパシティの会場に移すとか、さらに一部は配信も混ぜた「ハイブリッド」、はじめてこの言葉の意味を知りましたが(≧▽≦)、あぁそれで電気とガソリンの両方を使い分けて走る自動車をハイブリッドカーと言うんだ、みたいなこともありつつ、主催業者の方たちが手探りで落語会を開く姿に頭が下がる思いだ。

お客様の前で落語を喋りたいという噺家さんの思いと、やはりナマで落語を聴きたいよねという演芸ファンの思いを叶えるべく、とりあえずは利益を後回しにしてでも(いや、それで干上がっては申し訳ないのですが)落語会を開こうという動きがあることに感謝と敬意を表したい。この日のよみうりホールも満員だったら1100人入る会場だが、500人程度でチケット販売し、ソーシャルディスタンスを保った配席、そしてフェースシールドを装着したスタッフによる検温、アルコール消毒、換気、マスク着用義務など厳重な感染予防対策の上に開かれた。

それに応えるかのように、私服姿の一之輔師匠がフェースシールドを装着し、弾けるような笑みを浮かべて、ステージに登場。オープニングトークから、お客様におしゃべりできる喜びに満ちていた。真打昇進以降、毎年、夏におこなっている全国ツアー公演「ドッサりまわるぜ」(通称ドサ回り)だが、本来だったら今年のこのよみうりホールは9か所目だったのに、「きょうがツアー初日です!」と叫んだ。「小満ん師匠が言っていました。『コロナは我々のずっと先輩だから、逆らえないんだよ』。香盤で言うとどれくらいですか?と訊いたら、『圓朝よりちょっと下』と。そりゃぁ、逆らえません!」。

先日は長崎県のホール落語に行ってきたが、キャパ300のところ、150席限定にしての開催。主催のMさんは着席禁止という紙を座席に貼るのが嫌だったので、「落語家さんの名前を貼っておきました」。最前列の真ん中に「小三治」とか、「一朝」とかの名前があって演りにくい!「さん喬」と「権太楼」の名前が隣り合っていて、「少しは考えろ!」と思ったとか。

一席目のマクラでは、自粛期間中に自宅では任天堂のゲーム「Switch」を家族で夢中でやっていた。今、大流行の「どうぶつの森」。しっかり「1人1日30分」というルールを作って、女房と子供3人が回しっこ。たぬき開発という会社に無人島に連れていかれ、旅費という負債を返済するべく奮闘し、さらに自分の家を建てるなど発展していくのだそう(やってたことがないので、一之輔師匠の言っていたことからイメージしていますが)。自分のキャラクターを設定するのだが、せっかくだから自分にないキャラにしようと、金髪でおさげ髪の黒人女性で「パパミ」と名付けたとか。スローライフを楽しむゲームだが、「メルヘンチックなカイジ(賭博黙示録の漫画)ですな」と表現していたのが、一之輔師匠らしい。

お客様の前で演る喜びは落語本編にも、反映。旦那の義太夫があることを長屋の連中に知らせに回った繁蔵に、「小池屋の百合子ちゃんは?」「エジプトへ留学したそうです。主席で卒業する予定だそうです」「そうか。頑張り屋さんだね」「ピラミッドの上でお茶を点てています」。皆、旦那の義太夫が嫌いだから断っていることが判明すると、「『女帝』は読んだよ!」(笑)。義太夫を語っている場面では、「自粛警察」がやってきて、「こんな密なところで何やっている!」。すると、旦那の義太夫が「自粛警察」に直撃して、卒倒。「ザマーミロ」(爆笑)。

ただギャグで表面的な笑いを取るだけではない。一之輔落語の「寝床」は進化していた。義太夫を人前で語りたい旦那の傷ついた心の内面にグッと入りこんでいる。「仕事がないのに、仕事を作って断られるのがつらいんだよ。そうやって気を遣われているのがつらいんだよ」「上手くないし、というか、下手なことは自分でもわかっているし・・・」とひきこもり状態になった旦那に、番頭が寄り添う。「確かにあんたは下手だ。下手かもしれないけど、義太夫が好きなんだろ?心の底から愛しているんだろ?下手だっていいじゃないか!好きなら。十分だよ。俺たちはそれが聴きたいんだよ。上手い奴でも義太夫を愛していない奴なんか、聴きたくないんだよ。聴かせてくれよ、あんたの下手な義太夫を!」。なんか、僕の心に響いた。もちろん、番頭は口から出まかせなんだけど、旦那を説得する力のある台詞だ。これで旦那も立ち直った。「なんで、タメ口なんだよ!」とツッコミを入れながら。

二席目の「富久」も、酒でしくじったことは、よーくわかっているのに、どうしても酒に目がない幇間・久蔵の喜怒哀楽、人間っぽさ、もっと言うと、人間の弱さが沁みた。それを包むような旦那の温かさも沁みる。

時間と空間を観客と共有するライブでこそ、一之輔師匠の魅力は何十倍にも膨れる。コロナ禍が過ぎるのをお互いに辛抱しつつ、こういうライブの真髄に思い存分浸れる日を待ちましょう。