込山豊男と畠山太郎 同期の絆は永遠に固く、美しい。そして、遊かりの“美魔女落語”に膝を打つ

YouTubeで「第21回文蔵組落語会」を観ました(2020・06・16)

橘家文蔵。本名・込山豊男。86年10月、二代目橘家文蔵に入門。88年3月楽屋入り、かな文。90年9月、二ツ目昇進、文吾。01年9月真打昇進、文左衛門。16年9月、三代目文蔵襲名。

三遊亭遊雀。本名・畠山太郎。88年2月、柳家権太楼に入門、さん太。91年10月、二ツ目昇進、三太楼。01年9月真打昇進。06年10月、落語芸術協会に入会し、小遊三門下、遊雀。

前座修行を一緒にして、いわば「同じ釜の飯を食った」同士の絆は固い。全く比べ物にはならないだろうが、僕にも、新人時代に一緒に同じ地方局に赴任し、右も左もわからないで、先輩に怒鳴られながら仕事のいろはを覚えた同期のSがいるが、何か悩み事があるとまず相談相手になってくれたのはSだった。32年間で何度、人生相談をしたかわからない。いつも親身になってくれた。ありがたい存在だ。

文蔵師匠と遊雀師匠も、協会は違ってしまっても、「込山豊男と畠山太郎」の関係で付き合っているそうだ。その絆に揺るぎはない。今回の文蔵組落語会では落語芸術協会からは真打では初の出演(宮治さんが、その前に出演している)。それも、遊雀師匠の弟子の遊かりさんも含めての出演。協会の垣根を超えた素晴らしい会だった。

遊雀師匠は、本名のことに触れ、亡くなった扇橋師匠に「芸名みたいだな」と言われたそうだ。「何も知らずにこの世界に入った」ので、「込山先輩が全部教えてくれた」。文蔵師匠を「芸人の塊」と称していた。酒も女も(笑)。そう振って入った「明烏」では、源兵衛と太助を「込山」と「黒田」に置き換えて演じていた。ちなみに、「黒田」はこの日の色物ゲストのストレート松浦さんの本名です。

この日、一番、目を見張ったのは、弟子の三遊亭遊かりさんの高座。まず、マクラで、正月に黒紋付を着て電車で移動していたら、その姿を見た宝塚ファンと思われる女の子が母親に「あの人、タカラジェンヌだよ」と言っていたエピソード。なるほど、ショートカットだし、男役のタカラジェンヌっぽいかも!

で、演目は「紙入れ」。これが俺の求めていた「紙入れ」だよ!と思わず、膝を打った。艶笑噺に分類されるけれど、あまり新吉と旦那のおかみさんのやりとりをきっちり聴かせずに、さらりと済ませてしまう演者が割と多いように思う。どうかすると、おかみさんが誘う前に旦那が戸を叩いてしまう場合もあって、「つまんないなぁ」と思っていた。遊かりさんは、おかみさんの「美魔女」ぶりを強調した演出で、美男の新吉とは惚れて惚れ合った仲、これまでも何回かそういう仲になっている体でのやりとり。着物を脱ぎ、緋縮緬の長襦袢一枚で布団にはいり、濡れ場ギリギリまで引っ張ったところで、戸を叩く音。これだよ!

同様に「宮戸川」の前半のお花と半七も、雷が鳴って半七の胸に思わず飛び込んでしまうお花。うなじから鬢付け油の匂いがツンと鼻をつき、白い脚がスッと伸びて思わずゴクリと生唾を飲む。くらいまでは演ってほしいのです。サラッとした芸が江戸前、とかいう考え方もあるだろうけど。教育上よろしくないので、「あとは本が破れてわからない」というのは、物足りないんだよね。好みの問題だと思いますが、それを女流落語家である遊かりさんが、「わざと芝居掛かり」で演じるところに、僕は落語の洒落というものがあると思うんです。リアリズムを追究した官能小説をやってくれとは思っていない。野暮と洒落の境界線をどこに設けるかは、演者ご自身の判断だと思いますが、あくまで好みの問題でーす。

ということで、三遊亭遊かりさんの美魔女落語に今後も期待しています!