継続は力なり コツコツと108回 「正太郎の部屋」が最終回を迎えた

珈琲家庭料理auntで「正太郎の部屋」最終回を観ました。(2020・06・25)

春風亭正太郎が、二ツ目に昇進したのが2009年11月。勉強会を毎月開けるような小屋はないかしらと探していたところ、中高と同級生だった西早稲田にある珈琲家庭料理auntのマスターTさんが「うちでやらないか?」と声をかけてくれた。ありがたい!と親友の好意に甘えて2011年8月から毎月1回の勉強会がスタートした。

正太郎さんと落語の出会いは、中学校3年生のとき。当時の国語の先生が落研出身で、「文化祭で寄席をやりたい。だれか、落語を演ってくれる生徒はいないか?」と声がけをした、その先生のことが好きだった小杉少年は、ちゃんと落語を聴いたことがなかったが、「わかりました。僕がやります」。図書館に行ってテープを借りた。「NHK落語名人選」、志ん生「火焔太鼓」文楽「明烏」などのベスト盤的なもの中から、円生の「死神」が面白くて、わかりやすいと思った。

テープを聴きながら、字起こし。同級生にわかりやすく、しかもだれないように、シーンを減らして20分くらいにアレンジして演った。受けた。そこから小杉少年は落語ファンになり、大学では落研に入り、卒業後は正朝師匠に入門。その姿をTさんは、ずっと見ていたのだ。

Tさんは正太郎が入門した2006年から、ソッと落語家になった同級生の高座を見守っていた。どこで調べてくるのか、寄席に限らず、前座として高座に上がりそうな会を見つけて、正太郎には内緒で行き、後ろの席から声もかけずに応援していた。それを正太郎も気づいていたが、付かず離れずの距離感を保ち、それはTさんの店での勉強会「正太郎の部屋」がはじまってからもそうだった。

1ドリンク付きで1000円。第1回は15人のお客様だったという。次第に正太郎の実力がついて人気が出て、毎回満席になるようになった。満席といっても40人ほどで、それが正太郎がまさに「勉強会」として毎月やる小屋にピッタリと望んでいた規模だったのかもしれない。そして、コツコツと108回。煩悩の数。最終回まで1ドリンク付きで1000円を貫き通した。

50回のときは小せん師匠を、100回のときはこみち師匠と小太郎さんをゲストに迎えた。しかし、会場を大きなところにするということはなく、そのままauntさんで、という考え方がいかにも、正太郎さんとTさんらしいやり方で、素敵な友情関係だと思い、羨ましい。

今回、最終回を迎えるのは、この二人にとって、ステップアップを図るタイミングがたまたま同時期だったからだ。正太郎さんは近い将来の真打昇進を見据えて、そしてまた、Tさんも場所を変えてご商売を大きくしようと考えている。3冊になった108回分の根多帳は、ともに成長してきた証なのかもしれない。素晴らしい。

108回分のネタを列挙します。

1湯屋番、お見立て 2つる、地方営業風景、厩火事 3浮世床~本・将棋、紺屋高尾 4寿限無、マキシム・ド・のんべえ、蛙茶番 5たらちね、星野屋、尻餅 6初天神、六尺棒、宿屋の富 7金明竹、反対俥、猫の皿 8牛ほめ、家見舞、宗論 9狸札、長屋の花見、壺算 10宮戸川、佃祭 11権兵衛狸、船徳 12化け物使い、千両みかん 13引越しの夢、マキシム・ド・のんべえ、湯屋番 14桃太郎、棒鱈、目黒のさんま 15看板のピン、妾馬 16堀の内、尻餅、佐々木政談 17子ほめ(挫折バージョン)、のっぺらぼう、宿屋の富 18ふぐ鍋、初音の鼓、転宅 19時そば、にわか泥、厩火事 20元犬、反魂香、粗忽の釘 21つる、花筏、ちりちてちん 22たがや、明烏 23平林、星野屋、佃祭 24転失気、猫の皿、鰻の幇間 25船徳、目黒のさんま 26たらちね、引越しの夢、三方一両損 27道具屋、釜泥、ねずみ 28寿限無、ふぐ鍋、干物箱 29金明竹、尻餅、五目講釈 30悋気の独楽、看板のピン、お見立て 31寄合酒、片棒、雛鍔 32牛ほめ、芋俵、愛宕山 33もぐら泥、野ざらし、そば清 34鰻の幇間、井戸の茶碗 35桃太郎、壺算、青菜 36のっぺらぼう、ちりちてちん、茶金 37たがや、権助魚、千両みかん 38子ほめ、不動坊火焔、佃祭 39幇間腹、にわか泥、火焔太鼓 40時そば、堪忍袋、ねずみ 41宿屋の富、夢金 42寄合酒、代脈、蒟蒻問答 43強情灸、転宅、雛鍔 44堪忍袋、宮戸川、錦の袈裟 45花見小僧、三方一両損 46百川、ちりちてちん 47元犬、青菜、百物語(小太郎・作) 48蛙茶番、鰻の幇間 49初音の鼓、お菊の皿、佃祭 50明烏、妾馬、ゲスト小せん「千早ふる」 51宗論、権兵衛狸、唖の釣り 52ふぐ鍋、替り目、夢金 53尻餅、野ざらし(サゲオリジナル)、死神 54茶金、子別れ(下) 55道具屋、風呂敷、佐々木政談 56金明竹、片棒、崇徳院 57強情灸、反胎俥、愛宕山 58酢豆腐、井戸の茶碗 59千両みかん、甲府い 60お菊の皿、ちりちてちん、厩火事 61五目講釈、駆込み寺、青菜 62目黒のさんま、親子酒、品川心中 63三方一両損、抜け雀 64ふぐ鍋、六尺棒、鰍沢 65化け物使い、芝浜 66棒鱈、初天神、転宅 67明烏、ねずみ 68長屋の花見、持参金、茶の湯 69茶金、三枚起請 70釜泥、錦の袈裟、船徳 71かぼちゃ屋、大山詣り、粗忽の釘 72強情灸、片棒、鰻の幇間 73引越しの夢、反魂香、ちりちてちん 74堪忍袋、祇園祭、お見立て 75初音の鼓、四段目、片棒 76野ざらし、蔵前駕籠、品川心中 77金明竹、宗論、芝浜 78釜泥、悋気の独楽、宿屋の富 79狸札、雛鍔、子なさせ地蔵 80十徳、長屋の花見、寝床 81たらちね、たがや、愛宕山 82青菜、百川 83六尺棒、家見舞、佃祭 84大山詣り、千両みかん 85祇園祭、唐茄子屋政談 86花色木綿、宿屋の仇討 87星野屋、粗忽の釘、錦の袈裟 88牛ほめ、もぐら泥、死神 89看板のピン、部長の娘(昇々・作)、芝浜 90佐々木政談、夢金 91棒鱈、風呂敷、時そば 92道具屋、反魂香、抜け雀 93強情灸、町内の若い衆、三枚起請 94百川、子は鎹 95桃太郎、かぼちゃ屋、鰻の幇間 96大工調べ、船徳 97佃祭、井戸の茶碗 98元犬、七段目、茶の湯 99犬の目、権兵衛狸、ねずみ 100湯屋番、芝浜 ゲストこみち「徳ちゃん」小太郎「百物語」 101転宅、鼠穴 102粗忽の釘、二番煎じ 103釜泥、うどんや、鰍沢 104長屋の花見、鼻ねじ、三方一両損 105金明竹、強情灸、蒟蒻問答 106祇園祭、明烏 107そば清、大工調べ 108堪忍袋、文七元結

最終回は、これまで若手のコンクールで何度か受賞歴のある「堪忍袋」と、「勉強会らしく、これから大きくしていきたい」と振って「文七元結」をこの「正太郎の部屋」で初めてかけた。春風亭正太郎の第二章がまもなく聞こえてくるようだ。