自称「配信芸人」は、古典落語の弱点を強みに変換して新たな落語を創作する天才 立川かしめ

お江戸日本橋亭で「ちょちょら組 立川かしめ二ツ目昇進落語会」を観ました。(2020・06・10)

「天才現る!」と言うと大袈裟かもしれません。が、立川かしめさんが今年4月1日から二ツ目に昇進し、彼の高座をこれまで全く聴く余裕がなかった僕が、このコロナ禍の中で、かしめ落語と出会ったことは「衝撃」でした。「何を今さら」と思われる演芸ファンも多いかもしれませんが、偽りのない正直な気持ちです。

一躍、配信のエキスパートとして注目されたのは、彼の一面でしかなくて、かしめさん自身の高座をいくつか配信で拝見して、その落語の才能に驚かされました。古典落語の盲点や矛盾点や弱点を一捻りも二捻りもあるオリジナルの演出で、逆に面白くしてしまう。その切り口の鋭さと技術力に舌を巻いた。まだ3、4席しか聴いていない「かしめ初心者」なので、抽象的なことしか言えないけれど、今後、センス溢れる「かしめ落語」は注目されると思いました。

簡単なプロフィールを。1989年名古屋出身。早稲田大学卒業後、4年間会社員を経験し、2015年に立川こしら師匠に入門。そのとき、落語史上初の前座名の命名権(1年限定)をヤフオク!に出品。アイドルグループ「仮面女子」が25万1000円で落札したことで話題になり、立川仮面女子。権利が切れた2016年10月に立川かしめに改名し、都内3か所の街頭ビジョンに告知PR映像が流れるなど、いかにも、こしら師匠らしい演出で注目される。

オフィスゾーイさんが企画・主催していた「前座四派の会」から、2018年2月に「ちょちょら組」なる“アイドル4人グループ”を結成。橘家文吾(落語協会)、柳亭信楽(落語芸術協会)、三遊亭ぽん太(五代目圓楽一門会)、立川かしめ(落語立川流)。で、その年に立て続けに信楽、文吾、ぽん太が二ツ目に昇進。かしめだけ前座の身分で活動を続けていたが、今年4月1日から二ツ目昇進し、今回のちょちょら組、第6回公演はそれを祝う形での開催となった。

「落語配信」の先駆けとして、かしめさんの師匠の立川こしらの存在を無くして語れない。かしめ二ツ目昇進と有料ライヴ配信の可能性をからめて、広瀬和生さんが週刊ポストに連載中の「落語の目利き」第120回で書いている。以下、抜粋。

4月2日の立川こしら独演会「こしらの集い」は、お江戸日本橋亭での定例会を急遽「関係者のみ立ち会いの無観客ライヴ」に変更、こしらの通販サイトでチケット代を支払った者に対してライヴ配信の視聴可能なURLを送る、という形で行なわれた。実はこしらは既に2月から新型コロナウイルス感染拡大を懸念して、会場に来なくても観られるように各地の「こしらの集い」の有料ライブ配信を初めていた。それを「無観客」に移行した形だ。開口一番はこしらの弟子、立川かしめ。これはいつものことだが、この日こしらはかしめにもう1席、トリの高座も務めさせた。4月1日に二ツ目に昇進しながら、15日に国立演芸場でやるはずだった昇進披露落語会が中止になってしまった愛弟子への、師匠の粋な計らいだ。

かしめの1席目は「つる」。隠居に聞いた「鶴の由来」を友達に話そうとして失敗するのだが、相手は「裏のお鶴ちゃん」のことばかり気にしていて、さらにお鶴ちゃんが出てきて意外な一言を…という改作。急転直下のサゲで呆然とさせるあたりは師匠こしらに通じるが、ひねくれた展開を飄々と聞かせるトボケた芸風に独特の魅力がある。(中略)こしらが高座にかしめを呼び寄せて「昇進の報告」トークを繰り広げた後、トリのかしめがあえて「転失気」を披露。極端な改作ではなく、珍念の内面に踏み込むことで、ありふれた前座噺に新鮮な魅力を与えた。この方向性は面白い。かしめにとって大きな武器になりそうだ。

なお、4月15日、かしめは無観客の国立演芸場から昇進披露口上を無料配信。三遊亭遊雀、三遊亭兼好、春風亭一之輔らが口上を述べ、爆笑のうちに門出を祝ってもらった。以上、抜粋。

広瀬和生さん、ありがとうございます。僕はまず、かしめさんが配信の技術的な部分を一手に引き受けている道楽亭ネット寄席で、5月16日三遊亭遊雀独演会での開口一番で「金明竹」を聴いて、度肝を抜かれた。与太郎は上方からの使いの者の言伝をリズムとメロディを一発で把握し、逆におかみさんの方が間違えるという斬新な演出。帰ってきた旦那は「こういう類のバカなのか!こいつには音楽をやらせよう。数学がいい?いや、音楽だろう」というフレーズツボにはまった。続く28日、同じ道楽亭ネット寄席の古今亭駒治独演会では新作落語「ばんかい将棋」を披露。主人と何度対局しても負けてしまう奉公人が、15年後に現れて勝負に挑み、今度は逆に奉公人が主人に勝ち続けると…という、爆笑の一席。改作、新作いずれにも感性の鋭さと表現力の上手さが光っていた。

あと、これは僕のメモがどこかに取っ散らかっちゃったので、どこで聴いたのか、不明(多分、道楽亭ネットだと思うが)だけど、「寿限無」は傑作だった。和尚の並べる、ゴコウノスリキリ、グーリンダイ、パイポなどの名前を何も言わずに聞き、和尚から「訳を訊かないのか?」と突っ込まれると、「わかりますから。でも、食う寝る処に住む処、寝るのと住むのは普通一緒じゃないですか?」。「訳はわかっているのか?」「人間、衣食住が大切ということですよね」「わかっているんだ」。殴られて言いつけにきた子どもに、母親は「パイポは3回!」と、もう1回言い直しさせたかと思うと、彼女は「ジュゲ助」と呼び、父親も「パポイー」と愛称で呼んでいる!そいでもって、「コブが引っ込んじゃったぁ」で終わったかと思うと、「ここまでが名前なんです!かくばかり親が思うぞ、から、コブが引っ込んじゃったぁ」までで、ものすごく苦労してきたことをカツアゲしている男に訴えるやりとりにつながり、噺がどんどん展開する!目にウロコ!

そして、緊急事態宣言が解除になり、お江戸日本橋亭で、かしめさんが出演される落語会「ちょちょら組」がある、それも二ツ目昇進記念の会というので、おっとり刀ででかけた。「アイドルグループ」としての4人のメンバーによるフランクな口上がはじめにあり、トリでかしめさんが高座に上がると、開口一番、「配信落語家です。2か月で100回以上、演りました。先月は高座の数が最高記録に達し、1日2席は喋っている勘定になった。だけど・・・落語は、やっぱり、ナマに限る!」と。

披露したのは「大工調べ」。棟梁の政五郎が、すぐに簡単にキレてしまうキャラクター設定で、因業大家とのやりとりの初っ端から啖呵を切りそうになり、何度も大家に「まだ、早いだろう」とたしなめられる始末。なのに、ここ!というタイミングで、啖呵をきれなくて、大家から「今だろ、今!キレるべきところでキレずに、どうする?ここで堪えてどうする?ここで怒らずに、いつ怒る?」と、啖呵を催促されるのが、実に可笑しかった。

立川かしめさん、僕のチェックすべき噺家のリストに入れさせてください。是非、これから、その類稀なるユーモアセンス天賦の才を発揮する高座を楽しみにしています。

ちなみに、4月15日に予定されていた立川かしめ二ツ目昇進落語会@国立演芸場は、改めて11月25日に開催されるそうです。楽しみにしております。