再開、浪曲定席・木馬亭 待ってました!浪花節、人情の世界をたっぷり堪能
木馬亭で六月定席を観ました。(2020・06・01~5)
新型コロナウイルス感染防止防止の観点から、四月定席が3日から中止になった木馬亭。緊急事態宣言が解除になり、六月定席が定員数を54に制限し、アルコール消毒、入場者の検温およびマスク着用義務などを施した上で、1日から7日までの通常興行がおこなわれました。このブログで、3月23日に木馬亭50周年について書きましたが、今年がこういう社会情勢になったため、記念興行は来年に延期になりました。
さて、待望の初日。玉川奈々福さんの弟子の奈みほさんが初高座ということもあり、多くの浪曲ファンで開演時間から満席になった。曲師は沢村豊子師匠で、演目は「阿漕ヶ浦」。玉川一門に弟子入りしたほとんどの人は、この演目を最初に稽古する。紀州大納言光貞の三男、徳太郎は、13歳でヤンチャな「紀州の若様」として知られ、悪行三昧。「奉行もヘチマもない」と減らず口で、民衆は困っている。そこで、伊勢山田の奉行、大岡忠右衛門は、殺生禁断の阿漕ヶ浦で家来をつれて密漁する徳太郎を取り締まり、牢獄へ。翌日、「餅屋作兵衛の倅」ということでお白洲で裁かれ、「自分は徳太郎だ」というのを無視して、「紀州公の嫡男がそのような理不尽、暴挙をするわけがない。乱心か。なら、きょうは許す。心の餅をよく搗け。正気に戻れ」と懲らしめる。野放図な徳太郎に愛の鞭。後年、徳太郎が八代将軍吉宗になったとき、忠右衛門も大岡忠相として江戸町奉行となる。おめでたい話。「大当たり!」と心で僕は叫んだけれど、きっと厳しい師匠である奈々福さんは「まだまだ。これが第一歩」と思っているのだろう。まずは順調なデビューを飾ったこと、嬉しいです。
1日(月)「阿漕ヶ浦」奈みほ/豊子 「花の若武者 那須の与一」実子/ノリ子 「長兵衛 鈴ヶ森」孝太郎/金魚 「慶安太平記 牧野弥右衛門の駒攻め」奈々福/豊子 「三味線やくざ」舞衣子/秀敏 「天明白浪伝 八百蔵吉五郎」阿久鯉 「別れ涙の初舞台」こう福/金魚 「慈母観音」三楽/秀敏
実子、講談「扇の的」でなじみのあるネタ、浪花節だとこうなるのか!と。義経に名指しされた与一が母親の信心に支えられ、あっぱれな手柄を果たすのが気持ちよい。孝太郎、「鈴ヶ森」も、親孝行の力士・桜川を追い剥ぎから助ける幡随院長兵衛の正義感に感銘、男泣き。奈々福の第一声、「拍手がないと生きた心地しない。一人で歩くのではなく、お客様と歩くんだ」という言葉に拍手喝采!馬の名手である牧野の荒馬・堤鹿毛の乗りこなし、寛永三馬術の間垣平九郎の愛宕山と共通する馬との心のコミュニケーション!舞衣子、杵屋六三郎物語。兄弟子に嘘をつかれ、師匠のお嬢さんおみつとも別れて任侠の世界に入った仙三郎だが、名古屋の芝居小屋を覗いたのがきっかけで、代演で「勧進帳」を弾くことになる…。芸に生きる男の覚悟!
こう福、女剣劇の座長、藤野洋子の舞台に二階席から「待ってました!ヨウちゃん!」と声をかける男の子。楽屋に呼んだケンちゃんは死別した息子と同じ年格好。また浅草で会おうと指切りげんまんをするが…。女座長の野辺送り・・・。三楽、彫り物の名人・淳慶の息子の藤三郎は吉原通いで怠け者。実は20年前に救った捨て子で、ここまで育てたが勘当。藤三郎は六十六部となり旅する中である茶店に宿を借りるが、そこの主人は病床の妻を助けるために藤三郎の所持金を狙う、が、その妻は藤三郎の実の母。名乗って命請い。息絶え絶えの母を思って彫った観音像は将軍家の眼鏡に叶い…名人に二代あり!
4日(木)「伊東の恋の物語」すみれ/美舟 「木村の梅」綾那/みね子 「清水次郎伝 お民の度胸」奈々福/まみ 「杉野兵曹長の妻」琴美/みね子 「大岡政談 閉門破り」孝太郎/美舟 「臆病一番槍」いちか 「五郎正宗少年時代」勝子/みね子 「佐倉義民伝 宗吾郎妻子別れ」雲月/美舟
豊子師匠の弟子、曲師まみさん、奈々福さんの高座でデビュー。「入門して1年3カ月。曲師が育たないと浪曲は成り立たない」と、これから毎月、演目を決めて奈々福さんの高座で現場を経験させていくという方針だそう。「合格だと思ったら、屏風の裏から出てもらい、お客様にお目通りさせる」と言って、「お民の度胸」の名調子。お民が「石松はいない」と啖呵を切って、都鳥一家を退散させ、月灯りの元、空をを見上げ、一席終わると、奈々福さんはまみさんを手招きして、演台前に呼び、まみさんが客席に向かって頭をさげた。良かったね!
すみれ、頼朝と八重垣姫の恋を、慎太郎とおみのの恋に重ね合わせる。綾那、「人の命は金では買えぬ」と、大久保彦左衛門が「たとえ、家康公が木村重成の武勇を讃えた大事な桜と名付けたとはいえ」と命を張って、家光にご意見番としての稔侍!琴美、「軍人の遺族でも甘えてはいけない」という杉野の遺言を生涯、貫き通した明治の女性の鑑。高等学校教師の資格を取るために勉学に勤しみ、海軍軍人としての夫の立派な働きを思いながら、子供の唄う軍歌にむせび泣く…。
孝太郎、知恵伊豆さえ見抜けなかった天一坊の策略に、大岡越前だけが悪相と疑い、ご法度とされていた直談判で再調べに持ち込んだ執念!勝子、桶屋の倅、五郎は鍛冶屋・行光親方の仕事に興味津々。弟子にしてやろうと、父・和六に話すと、五郎は孤児で、養子にしたと明かす。18人の弟子の中で一番優秀だった五郎に預けられた、死んだ母から「お前の父親は刀鍛冶だった」と渡された白鞘の短刀は実は行光の作だった。それを知った行光の妻おあきは…。雲月、佐倉の5万の民を救おうと、宗五郎は妻に離縁状を渡し、泣き叫ぶ息子も振り払って江戸へ単身、直訴に行ったが…。天下の法は曲げられず、男泣きする姿に共感。たとえ身が朽ちようとも、宗五郎の墓には花や線香が絶えないという。
5日(金)「江戸の初雪」千春/みね子 「継母の誠」綾那/みね子 「清水次郎伝 お民の度胸」雪絵/貴美江 「心に灯を」月子/明 「不破数右衛門の芝居見物」太福/みね子 「大名花屋」あおい 「稲川次郎吉」舞衣子/明 「竹の水仙」孝子/貴美江
千春、近江家の跡取りとして、養子に迎えた銀蔵だが、賭場に出入りする遊び人で勘当、女将さんが娘おきぬを女手ひとつで育て、借金返済のため親子の縁を切って婚礼に出すが。そこに、ひょっこり現れた銀蔵。親として座る席があるのか?おきぬも「母さんが可哀想」と婚礼を抜け出す。押し入れに隠れた銀蔵。おきぬと母親の会話を聞く銀蔵の心中は?綾那、前日の「木村の梅」に続き、良かったぁ。幼い頃から手癖が悪い善吉に手を焼く母・おたつ。歪んだ了見を直そうと、お稲荷様の鳥居に括りつけるなど躾を厳しくする。さらに、日本橋伊勢屋宇兵衛に奉公に出す。ある日、番頭がやってきて「旦那が呼んでいる」、さては悪さを?と思いのほか、「働きが良いので暖簾分けさせたい」と。これからは母さんに恩返しをと言う善吉の手を取る母おたつ、嬉し涙の8年目!
雪絵、前日の奈々福の「お民の度胸」とは違う演出で興味深い。「清水次郎長伝」を映画化したマキノ雅弘監督作品を、作家の大西信行さんが浪曲化したものだそうで。様々なエンターテインメントが交流するのは、今後もあるべき姿だと思う。去年の周防正行監督「カツベン!」のように。月子、アンパンが15円の頃の保育園の先生の人情なのだけれど、現代の言葉で「保育士」と言い換えていることと、保育園に払う保育料の違いで扱いに差別があるという設定に若干の違和感があった。
太福、いつものようにユーモラスな義士伝を。舞衣子、落語「関取千両幟」もしくは「稲川」でおなじみの噺だが、浪曲にするとまた一味も二味も違っていいですね!乞食の着物を羽織っため組の親方の心意気が節にのって、より強調された。途中の相撲甚句もいい。今度、この度、豆腐屋きたよ、そこで豆腐の申すには、わしより因果なものはない、火責め、水責め、逢わされて、一丁二丁の刻み売り、あとは残りのおからまで、一文二文のつまみ売り、親はどこよと尋ねたら、親は畑で豆でおる~。孝子、開口一番、「10年ぶりくらいの気持ちがする」と。ちょうど出演予定だった4月3日から公演中止になり、2か月ぶり。「今まで気が付かなかった芸のありがたさを噛みしめている」という言葉にジーンときた。左甚五郎旅日記、落語と比べて演出も違い、これまた面白いです!甚五郎が全く嫌な奴に見えないし、宿屋主人もそれほど間抜けに描かない。滑稽ではあるけど、みんな人間味ある人物として描いているから、落語とは味わいが違ってよいのかもしれない。奥が深いぞ、浪花節!
7日間興行のうち、半分も行っていないから、生意気なことは言えませんが、浪曲、素晴らしいです!木馬亭、素晴らしいです!中入りはさんで、8席あるけど、短くても20分弱、長いのは40分近くあり、ほとんどマクラを振らずに演題を言って入るので、「たっぷり」感が、落語中心の寄席とは違う意味で魅力あります。なんか、3人か4人くらい、トリが唸っている印象で、満足度が半端ないです。また、1席講談が入るのもいいですね。今回、僕は神田阿久鯉先生、田辺いちかさん、神田あおい先生と3人の高座を聴きましたが、これまた、トリをとってもいいんじゃない?という充実の高座でした。
まさに、浪花節だよ人生は!来月も楽しみです!