5月、遅いけれど「桜」が咲きました。祝!講談師・神田桜子、二ツ目昇進

落語芸術協会チャンネルで「令和2年上半期新二ツ目紹介」(2020・05・25)、もえよせチャンネルで「芸協オンライン二ツ目昇進披露」(05・01~05)、神田伯山ティービィーで「第1回オンライン釈場 神田桜子二ツ目昇進記念の会」(05・23)を観ました。

落語芸術協会は、2月21日から神田伯山襲名真打昇進披露が行われ、5月1日からは昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、桂伸三改メ伸衛門の真打昇進披露が控えていたが、このコロナ禍で秋以降に延期になった。真打だけではなく、金かん改メ三遊亭花金、あんぱん改め三遊亭小とりが3月21日に二ツ目に昇進したが、寄席が緊急事態宣言によって休業となり、ほんの僅かの日数しか披露の高座を務めることができなかった(ぎりぎり、24日に新宿末廣亭でお二人の披露高座を観ることはできたが。※4月5日のブログ参照)。

もっと可哀想なのは、5月1日から二ツ目に昇進した、三遊亭遊七さんと神田桜子さんで、1日も披露高座を務めることができなかった。さらに6月11日からは全太郎改メ昔昔亭昇、馬ん次改メ三遊亭仁馬、春風亭昇りんの3人が二ツ目に昇進するが、緊急事態宣言が解除されたので、寄席が再開して、披露高座を務められることを祈るばかりである。

そんな中、春風亭昇太会長がYouTubeで、6人の二ツ目昇進を紹介した。以下、抜粋。

先日は昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、伸三改メ桂伸衛門の真打昇進披露が延期になったことをお伝えしましたが、実はその陰に隠れてもっと可哀想な人たちがいます。この大騒動の中に隠れて、お祝いの高座もなく、自分のお部屋で自粛していた人たちがいます。入門して何が一番嬉しいかというと、前座から二ツ目に昇進するときと言われています。もろもろの雑用から解放され、自分の芸の道を一心不乱に進むことができるのです。(花金、小とり、遊七、桜子)この4人は残念ながら、ほとんどお披露目ができなかったので、今後、彼らの高座を用意します。是非、観ていただきたい。以上、抜粋。

この映像の中で、唯一の講談師、神田桜子はこのようにコメントした。以下、抜粋。

お初にお目にかかります、神田陽子の弟子の桜子と申します。どうぞよろしくお願い致します。5月1日をもちまして、二ツ目に昇進させていただきました。私が無事に昇進できましたのも、私は落語芸術協会と日本講談協会に所属していますが、こちらでお世話になりました師匠方、先生方、二ツ目の先輩、お囃子のお姉さん、前座を一緒にすごした仲間、そして応援していただいた皆さんのお陰だと思っています。残念ながら、二ツ目昇進披露が一日もないということになってしまいました。これも後ほど、いい経験になったと言えるように、二ツ目生活が送れればいいなと思っています。

実際に高座を観ていただけないというのは、大変残念なんですけれども、私は回りの方たちに恵まれていまして、初めてオンラインで披露目をするという経験をさせていただきました。大変ありがとうございます。また、寄席が再開されましたら、是非観にきていただきたいと思います。黒紋付をいつ着れるかわからないので、きょうは着てきました。明るく元気に、この状況をあまり悔やまず、良い方向に考えていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。以上、抜粋。

しっかりとした挨拶と抱負で、大変、真面目で、芯のある講談師であることを感じさせる挨拶であった。この中で「オンラインで披露目」という言葉が出たが、これは5月1日から5日まで、先輩の春風亭吉好さんが旗を振って、自分のYouTube「もえよせチャンネル」(2日のみFacebook)で遊七さんと桜子さんの興行を行ったことを指す。以下が5日間の内容。

5月1日 吉好「たらちね」遊七「真田小僧」弁橋「狸の鯉」桜子「安政三組盃 繁蔵出世」

5月2日 吉好「ん廻し」桜子「五郎正宗孝子伝」小すみ/音曲 遊七「金明竹」

5月3日 吉好「アンケートの行方」桜子「ジャンヌ・ダルク」(二代目神田山陽作)昇輔「胴斬り」遊七「元犬」

5月4日 吉好「熊の皮」遊七「初天神」よし乃/太神楽 桜子「八百屋お七」

5月5日 吉好「ツンデレ指南」桜子「秋色桜」弁橋「饅頭怖い」遊七「かぼちゃや」

桜子さんは堂々としたネタばかりで、どれも時間の関係で「この後が面白い」で切ってしまったが、前座時代も熱心に勉強していたことがよく伝わる。

ゲストの桂小すみさんの昇進を寿ぐ「縁かいな」の替え歌(三遊亭弁橋さん作詞)が良かった。まず、前座編。前座修行がつらかろの着物畳んで皺つけて叱る師匠に頭下げ畳に頭つくデコかいな。二ツ目編。二ツ目昇進晴れやかに羽織袴の紋付と明ける年季のうれしさよ座布団返すは癖かいな。真打編。真打披露は賑やかで幟口上後ろ幕上がる囃子が三下り満員御礼めでたいな。ブラボー!

そして桜子さんのすごいのは、5月1日からネットラジオ番組を先輩二ツ目の春風亭昇輔さんと一緒にスタートさせたことだ。名付けて「桜前線上昇中」(毎週木曜深夜、これまで4回。28日深夜に5回目が配信される。詳しくは、Twitter公式アカウント「桜前線上昇中」で!)。ラジオ好きの二人ということで、自粛期間中になにかできない?同人誌的にやろうよ!「ちょっと本気が出てるラジオ」を目指そうということになったそうで、デジタル時代に即応した動きが素晴らしい。目的はもちろん、二人のことを知ってもらって、寄席に観にきてもらおう!というもの。

キャッチ―に入る勝手に作った架空のCMが面白い。この提供は一目上りでお届けします。ついに花魁と対面した若旦那、彼を待ち受ける試練とは、原作源兵衛、イラスト太助の最強タッグで贈る、ちょっとエッチなラブコメディー「明烏」第8巻、好評発売中!とか。第4回の放送「小すみ姉さんの無駄遣い」では、多彩な音曲師の小すみさんがCMを作った!お酒が一番、つまみは二番、三時のおやつは水カステラ~、水カステラって何?水饅頭?水に浸かってるカステラ?サバラン!鯖缶だって…それは違う!気になる!水カステラって何?誰か教えてください!気になる人は今すぐ落語「禁酒番屋」をチェクドアウト!多重録音でできあがった見事なクオリティ!こういう遊び心、これが芸人さんの魂です!

ラジオの中では、桜子さんの入門エピソードや前座修行なども語られている。2015年、神田陽子先生の門を叩き、16年楽屋入り。陽子先生には「芸協と日本講談協会の二足の草鞋。休みはない。お金もない。大変よ。戸塚ヨットスクールよ。耐えられる?」と言われ、少し二の足を踏んだ。会社勤めをしていたが、そこの社長さんがなんと、後押ししてくれたと。父は娘をどんなところかわからない世界に入れたくない。でも母は一度しかない人生だから後悔のないように生きてみなさいと父を説得してくれた。

前座時代の最初は、めちゃめちゃ怒られる毎日で、楽屋を出ると泣きながら帰った。楽屋入りしてすぐの末廣亭、昼は歌丸師匠65周年、夜は新真打披露。顔付されていない師匠がたくさんやってくる。他協会からも。偉そうなお客さんも来る。お茶を出す。温め?熱め?もう、キャパシティオーバー!挨拶する余裕もない。あいつ、何もしていない、役立たずと言われる。地獄だった。「いつ、やめてくれるの?」とさえ言われた。でもね、トータルで考えると楽しかった!と言う桜子さん、すごい!

桜子の名前は、楽屋入りが4月1日だったから。履歴書を芸協の事務所に、陽子先生と提出しに行く地下鉄の中で、「さくら、桜子、どっちがいい?」と訊かれた。私は陽子先生の「子」がほしかったから、迷わず「桜子」を選びました、と。楽屋で誰がねじまげたのか、「桜子、18歳、楽屋入り」という噂でざわめいた。昇輔さんが言う。確かに年齢不詳だったし、誰も疑わなかった。ようやく、最近になって20歳以上に見られるように。スーツを着ていると、就活生に間違えられ、成人式シーズンには振袖を勧められたりするとか。

でも、すごいでしょ!講談師の真打披露を前座時代に4回経験しているんだよ。鯉栄先生、紅葉先生、蘭先生、そして伯山先生。今の前座は1回も真打披露を経験せずに二ツ目になる可能性高いんだよって、すごい誇らしげで素敵だなと思った。私の前座修行は歌丸師匠ではじまり、伯山先生で終わるはずだった…、末廣亭、浅草、池袋はできたけど、国立ができず、もっと悔しいのは日本講談協会の伯山先生の披露目ができなかったこと、と。頑張るつもりだった、と。

5月1日から池袋、11日から浅草、21日から末廣亭の予定が全部消えた。でも、陽子先生は「落ち込まないで明るく振舞いなさい」と。二ツ目の披露目をやっていない、ということが「ネタ」にできるまで、頑張りたいという決意表明がうれしかった。

で、23日に神田伯山ティービィーで「第1回オンライン釈場 神田桜子二ツ目昇進記念の会」が配信された。うれしかった。冒頭の伯山先生のメッセージ。以下、抜粋。

ここは上野広小路亭という思い出深いところからやらせてもらうことになりました。懐かしいですよ。ここが初高座の場所で、入門志願に行ったのもここで。定席と言って、日本講談協会の定例の会が月2日あるんですけど、必ず上野広小路亭でやっているんですね。今回、なぜここを使わせていただいたかというと、桜子という私の後輩、伯山ティービィーで何回か、その(楽屋での)動きが評価された、「お茶、通ります」「兄さん、ありがとうございます」「先生、ありがとうございます」と言っているのを観た視聴者の評価が高かったというのがありまして、何か隠れファンみたいのがいて。前座、二ツ目、真打。下働きを終えて、二ツ目になる。真打になるときより嬉しいと言われているんですけど。その二ツ目になれたのに興行が打てない。そこで、前座のときに頑張ってもらったので、力になれれば嬉しいと思い、桜子に話したら、「ありがとうございます」という返事で、今回は私と桜子さんと師匠の陽子先生、それに私の師匠の人間国宝の松鯉の4人で、高座をやらせて頂いて、一週間限定の配信をすることになりました。以上、抜粋。

この後、伯山先生は、投げ銭システムを導入したことの意味の大切さを訴えた。自分が「畔倉重四郎」とか「中村仲蔵」とか「グレーゾーン」とかを無料でやって、演芸のお客様に一部、ほんの一部、ネットは無料が当たり前、投げ銭で金儲けに走るのか、と言う人がいるが、本来、こういうものは有料でやった方がいいという考えを示したのが意義深い。有料でやっている人の足をひっぱっちゃいけないと。だから、この収益は4人の出演者で分けるのではなく、ほかの日本講談協会の人たちに、特に前座さんや後輩を助けてやりたいと付け加えた。その上で、兼好師匠までもがTwitterをはじめた、というのを皮切りに著名な噺家さんが、このコロナを機にデジタルに関わってきていることを語っていて、時代の寵児である伯山先生がそう述べていることに頷いた。

「桜子が変則的ですけど、こういう形で二ツ目昇進に弾みがつけば嬉しい、色々な皆さんに観て頂いて、注目されるといいですね」と締めくくった。

神田桜子「秋色桜」神田伯山「狼退治」神田陽子「応挙の幽霊画」神田松鯉「名人小團次」

三人の先生の素晴らしさはもちろんだが、桜子さんの、それに負けないくらいに堂々とした立派な高座が印象に残った。菓子職人の六右衛門の娘、お秋の出世譚に聴き入った。七歳にしてその才能が宝井其角の目に留まり、父親に内緒で俳句を学ばせるとめきめきと腕をあげる様子。上野の山で詠んだ「井の端の桜あぶなし酒の酔い」が宮様のお気に召し、ざっかけない父・六右衛門が慌てる姿。さらに、柳に寄せる車のお題で詠んだ「青柳や車の中のこぼれ米(よね)」で褒美を授かり、宗匠・秋色となって「俳句指南」と看板を出し、裕福な暮らしができるようになって、親孝行しても決して偉ぶることのなく、親を立て、敬う、お秋の心持ちが心に沁みた。

桜子さん、応援します!