演芸の応援団「道楽亭」小さい小屋だからこそ、できたこと。それをネット配信で踏ん張った。

新宿にある道楽亭は、アルコールをともなうレストランバーというとカッコイイが、ほぼ毎日、落語会を中心に講談や浪曲の会、お笑いライブを主催し、終演後、希望者は別途会費で打ち上げに参加できる(打ち上げがない会もあるのでチェックは必要)、いっぱい入って50人くらいの小さな小屋で、狭小演芸空間と言った方がいいかもしれない。特徴は落語以外の講談や浪曲といった演芸にも力を入れていること、どこの協会の芸人かは問わず、フリーの芸人さんも出演することも多い。また、前座さんだけを集めて二席ずつ演ってもらうといった、演芸応援団長的な、ずぼらというか、鷹揚で、でも、心のあったかい席亭が経営するライブハウスだ。

寄席やホール落語などと同様、というか、小さなスペースに50人というのは、このコロナ禍では最も避けるべき「三密」の空間であるために、4月7日の緊急事態宣言以降、営業ができないでいた。さらに5月いっぱいまでの緊急事態宣言延長を受けて、席亭もついに動き、デジタルに詳しい、立川こしら門下の立川かしめさんの全面的バックアップで、無観客生配信道楽亭ネット寄席が5月9日「三遊亭天どん独演会」からスタート。きょう、29日「神田蘭・宝井琴鶴 草燃ゆる」で15回を数えた。あす以降も配信は続き、あと7回が予定されている。(まだ、続く可能性大)

そして、きょう(29日)、25日の緊急事態宣言解除を受けて、6月7日から本来の形であるライブを復活することをツイッターで席亭がつぶやいた。復活第1回は「集まれ、前座さん応援団 未来の名人を聴け!」。いかにも道楽亭らしい。出演は立川幸吾、三遊亭しゅりけん、柳亭楽ぼうの3人の前座。それぞれ、2席ずつ演るそうだ。ということで、きょうまでに僕が観た道楽亭ネット寄席6回について、記録を残しておきます。

5月16日(土)遊雀ひとり かしめ「金明竹」遊雀「野ざらし」ブラ坊「大安売り」遊雀「宿屋の仇討」

ネット寄席の影の立役者、立川かしめさん登場。先日、二ツ目に昇進したばかりで、その披露目もオンラインで行われ、口上にこしら師匠以外に、広瀬和生さん、春風亭一之輔師匠、三遊亭兼好師匠、三遊亭遊雀師匠が、ソーシャルディスタンスを保つため、入れ替わり立ち替わり登場してお祝いの言葉を述べていたのが面白かった。

で、この日の「金明竹」がめちゃめちゃ面白かった!与太郎が天才的に記憶力がよくて。でも、言い立ては爆笑モノの中身で、それもスラスラ言えちゃうの。逆に混乱したおかみさんが間違えちゃう。帰ってきた主人は「こういう類のバカなのか!」「こいつには音楽をやらせよう。数学?いや、音楽だろう」。バカと天才は紙一重というけど、まさにそれを逆手にとった、大爆笑の高座だった。

遊雀師匠もご機嫌で、かしめを絶賛し、自分もスマホで簡単に収録して配信できるYouTube、「スマホたてらくご UKJ」を始めたというマクラも愉しかった。調子のいい喉を聴かせて、途中に「金明竹」の言い立てまで入る「野ざらし」は幇間が訪ねてくる本来のサゲまでたっぷり。「宿屋の仇討」も、始終三人組がにぎやかで、こっちまで嬉しくなっちゃう。ありがとうございました。

5月17日(日)文菊乱れ咲き 文菊「権助提灯」「火焔太鼓」

二席とも文菊カラーがしっかりあり、面白かったが、それ以上に、二席の間の視聴者からの質問への答えが、とても「この人、噺家らしい!でも、現代にも通用する人!」という印象をもった。自粛生活は何をしていますか?無精でね。なんにもしてないのよ。なんにもしていなくてもいられるん。新しい発見をしようとか、そういうのはないんでね。答えにならないね。人間って、時間がないときは言い訳にするけど、いざ時間があると、やらないのよ。

湯呑みの中は酒ですか?うまいね!白湯ですよ。これが酒なら、こんなにいい商売はないよ。お茶はね、水分を吸ってしまうんで、よくない。中にはポカリスエットっていう人もいます。お子さんが生まれたそうで、イクメンですか?古臭い男性社会に育ったけど、(亭主関白的な考え方みたいな)そういうの、ドブに捨てました。女性のサポートに回らないといけない、ようやく気付いたん。寝かしつけ、夜に授乳したり、こういう家庭的なことやってると、「芸人としていいの?」と思うときもあるけど。過去には浪花の春團治師匠みたいな人もいたけど。やっぱり女性には頭が上がらないん。洗濯、掃除、前座修行でみっちりやってますから。

噺家になってよかったことは?噺家は顔が崩れていないと駄目。それで人様に懐に飛び込むん。どうしてこんなに(容姿が)綺麗に生まれちゃったのか、最初のうちは辛かった。師匠(圓菊)は「何、気取ってんだ!自由が丘で育ちました、学習院を出ました、みたいな顔して!」って、ただ座っているだけでイライラされてました。自分を否定してくれたことがあったからこそ、「道」を探すようになった。師匠のおかげです。でもね、芸に色気は大切でね。男は女を、女は男を意識する。ご婦人にどう見られるか。怖いね。自分ばかり意識すると、それは無粋になるし。いやぁ、芸は奥が深いです!

5月18日(月)龍玉ひとり ブラ坊「小町」龍玉「お直し」「やんま久次」

龍玉師匠の渾身の二席に聴き入った。「お直し」は志ん生師匠の印象が強いが、その古今亭の芸を受け継ぎ、きちんと自分の落語にして、男女の色恋の性みたいなものが垣間見えた。きのうの文菊師匠ではないが、結局は男は駄目で、女がしっかりしている、そういう価値観で落語は成立しているし、現代社会も実際にそうだと思う。ひょんなことからご法度の牛太郎と花魁が恋仲になるが、それを見た旦那が寛大で、花魁を遣り手に雇って共働きを認める。その人情で、真面目に働けばいいものを…男は駄目だねぇ。千住で女を買い、博打場に通うようになる。ついには、最底辺の蹴転(けころ)、羅生門河岸に。女房は覚悟を決めて、嫌な酔っ払い客に線香の数を増やそうと、嘘八百の甘い言葉を並べて気を持たせるが、牛太郎の亭主が悋気を起こす。ついには夫婦喧嘩。仲直りして、惚れ合った仲は修復するけど、やっぱり、男はだらしがないなぁ。しっかりした女房に感心しちゃう。昔も今も変わらないね。

「やんま久次」は雲助師匠で聴いたことがあるが、弟子の龍玉師匠では初めてだった。以前に、神田伯山先生になる前の松之丞さんと一緒に「殺人研究会」、さらに「大江戸悪人物語」をシリーズで演っていたことがあったが、実に悪党の噺はいいですね。番町の旗本・青木久之進の次男坊、久次郎は背中にヤンマの彫り物をして博打場を出入りする遊び人。金がなくなると、たびたび実家に無心、いや強請りといった方がいいかもしれないくらいに罵る姿に困り果てる父・久之進を見るに見かね、剣術指南の大竹大助が「この場で腹を切れ。でなければ、わしが素っ首を斬り落とす」と言い放つ。「お前は侍の血が流れておらんのか!お前の孝の字は烏か、鼠か!」。窮地に追い込まれた久次。だが、母親が「改心するので、助けてあげてくれ」と手を差し伸べ、大竹も落ち着くが。結局、命を助けられた久次だが、翌日にはケロッと「俺は生きたいように生きる」とまた悪の道へ戻る…。なんとも救いようのない噺だが、魔術にでもかかったかのように、龍玉ワールドに深くはまってしまう、その話芸。素晴らしい!

5月21日(木)百栄 ボクの部屋 ブラ坊「町内の若い衆」百栄「ツッコミ根問」「寿司屋水滸伝」(柳家喬太郎作)「鼻ほしい」「露出さん」

百栄師匠、最近の配信落語で言うのが習慣になった、前座さんの格言「オール・フォー・ワン」、寄席の格言「ノーペイン、ノーゲイン」が橘右近師匠の書で寄席に飾られているという嘘のギャグから。こういう百栄師匠らしいツカミのユーモアセンスが大好きです。

「ボクの部屋」というタイトルで、道楽亭でずっと独演会をやっている師匠。名前の由来は、道楽亭のある新宿二丁目で働いていたことがあり、そのお店の名前から。男ばかりの、ある一室に待機していると、お客さん(男性)がやってきて、「あの子がいい」と指名された人間が、お客さんと一緒に部屋を出て行く。そして、美味しいモノを食べさせてくれたり、面白いところに連れて行ってくれたり・・・そのあとのことは言えません!(笑)。

「浮世根問」を百栄ギャグ満載にした「ツッコミ根問」、喬太郎師匠の作品である「寿司屋水滸伝」も完全に「これって、自作?」と思っちゃうくらいの高座。そして、古典の「鼻ほしい」も百栄カラーがよく出た噺、最後は出ました!久しぶりの「露出さん」!これは後世に残る名作落語となること間違いない!だって、柳家わさび師匠が習いたいと言ってきて、ネタ下ろしした高座を観ましたが、すごいよかった!「露出さん」ができるキャラクターの噺家さんは限られているけど、逆にできる噺家さんは鉄板ネタにできるクオリティーの高い新作だと思います。

5月23日(土)玉川太福の男はつらいよ 太福「不破数右衛門の芝居見物」「男はつらいよ第14作 寅次郎子守唄」

この日は、太福さんの師匠・玉川勝太郎さんが亡くなった命日。ちょうど13年になるそうです。不慮の事故だった…。入門願いに行ったのが、3月。喫茶サニーでの第一声は、忘れないと。「よく、俺を選んだな」。そして、何が何して何とやら~、何から何まで何とやら~、俺のを真似してやってみろ!と言われるんだが、できない。高い声と低い声、両方できるようになるための稽古。できない。何が何だかわからない~。「ま、声は大きい方だな。じゃ、飲みに行こう」。そのまま、お酒をごちそうになった。

木馬亭で自分の口演を吹き込んだテープを太福さんに渡し、「コレを覚えろ」。大概、玉川一門は「阿漕ヶ浦」から入るのに、なぜか「不破数右衛門の芝居見物」だった。太福さんがお笑い志望だったということを配慮したことだったのかもしれない。その上で、「この先を作ってこい!」という宿題も出された。放送作家を夢見て上京し、コントなどをやっていた時期もあった太福さんへの愛情がたっぷりと感じられる。

「男はつらいよ」全作の浪曲化に挑戦している太福さん。本当は、日本橋社会教育会館で5月16日に口演予定だった、「男はつらいよ第14作 寅次郎子守唄」を何と!オンライン配信でネタ下ろし!九州唐津で、赤ん坊を残して女房に逃げられた男を可哀想に思い、その赤ん坊を引き取って、柴又のとらやに帰ってきた寅さん。皆はビックリするが、そこは下町人情で我が子のように、さくらや博も面倒をみる。そこへ、逃げられた男と逃げた女房の踊り子が申し訳ないと柴又へ。せっかく愛情が湧いてきた赤ん坊を本当の両親に引き渡すときの、なんとも寂しい表情が、寅次郎、いや渥美清と太福さんが重なるんだなぁ。

マドンナの十朱幸代演じる看護婦・木谷京子に恋した寅さんだったけど、京子の所属するコーラスグループのリーダー・大川と知り合うと、その大川も京子に惚れているというじゃないか。寅さんは本心を明かさずに、口下手な大川に恋愛指南。その甲斐あって、実は口下手だった父親が理想のタイプだった京子のハートを射止めて、プロポーズ大成功。複雑な気持ちだが、笑顔で旅に出る寅さんの表情もまた、太福さんに重なる。タコ社長含めた多彩な登場人物をコミカルに描き分ける上手さはもちろんだけど、「寅さんシリーズ」全体に流れる人情と哀愁が玉川太福の浪曲にフィットするのだなぁ。

次回は8月15日、第15作「寅次郎相合傘」の予定とのこと。無事に開催され、拝聴できるのを楽しみにしています!

5月26日(火)小助六・貞寿 ご陽気に 貞寿「真柄のお秀」小助六「藁人形」「両国風景」貞寿「石川一夢」

オープニングトークの、貞寿さんの「変な夢を見た」というのが面白かった。コロナがまだまだ収まらず、文化庁は芸人を学校に派遣する試みを始めた。分厚な募集要項に、若手の講談師にコロナを忘れてもらう読み物を推奨し、思い出させる読み物は駄目、新作ではなく古典が良い、人が死ぬのは駄目とか書かれていて。義士伝は死ぬから駄目かな?とか、出世譚だったらいいだろうとか、考えているうちに出囃子がなってしまう。高座に上がると、客席は宇宙服のようなものを着た生徒たちでいっぱい。もちろん、飛沫対策として口はガードしてあるので受けているかもわからない。拍手もミトンみたいな手袋しているから、バサバサ。何、これ?笑い声もない!表情が見えない!やりにくい!と思ったら、目が覚めたと。きょうはその夢でやろうと思った読み物を!ということで、講談師出世譚が。

小助六師匠、元遠州屋の小町娘だった花魁お熊の悪戯遊び。からかわれていることも知らずに、なけなしの20両を捧げた願人坊主の西念の気持ち、悔しさがよく伝わってきた。「両国風景」を過去に聴いた記憶が僕にはない。香具師をからかう酔っ払いの愉しさがいいですね。

貞寿先生、「真柄のお秀」もトリネタでいいんじゃない?というくらい、たっぷり!姉川の合戦で有名な真柄十郎左衛門真隆の誕生の発端って感じ?というより、十郎左衛門の父親・真柄刑部が宿屋の女中のお秀の丈夫一式の大女であるところを買って、気まぐれでプロポーズしちゃったっていうのが可笑しいですよね。この女に子供を産ませれば、武道に長けた立派な武士になるのではないか、確かに正しい考えだけれど。それを本気にして、お秀の方が気に入られようと化粧を入念にして、女のほうから夜這いに行くなんて!笑いが取れる、でもちゃんとした出世譚。お見事!

「石川一夢」、以前にやはり、貞寿先生で聴いたことがあるけど、いい話ですよねぇ。身投げしようとしている男女を止め、事情を訊くと、その男は自分の先輩の講談師の息子であることが判る。古着屋の豊富屋のお花とは10両の借金を返済すれば一緒になれるという。そこで一夢は伊勢屋萬右衛門から自分の十八番の「佐倉義民伝」をカタにして10両を借りる…それだけでも、心沁みるじゃないですか。でもね、一夢の「佐倉義士伝」を聴きたい!という釈場に集まった町人が事情を聞いて、皆でお金を出し合って、なんと10両をこしらえちゃうんですよ!それって、現代のクラウドファンディングじゃないですか!コロナで困っている芸術や芸能に携わる人たちを助けようじゃないか!という心意気に通じるじゃないですか!今も、昔も、人情は変わらないってことですよ。

ということで、演芸を支えるのは、演芸を広めて、理解を求め、こういう芸能は残さなきゃ駄目じゃねえか!と、演芸ファンのみならず、一般の人たちにも思ってもらう!これしかないよね!そういう意味で、コロナがきっかけかもわからないけど、もっともっと演芸の魅力を広めなきゃ!と思う次第です。