【春風亭一之輔の寄席案内】ご祝儀の相場は?あなたが芸人だと思って、心がトキメク額!

一之輔チャンネルで「10日間落語連続配信 第二幕」を観ました(2020・05・21~25)

4月21日から30日の、鈴本演芸場4月下席夜トリの代替として、その日時で一之輔師匠が10日間連続ナマ配信をして、大好評でした。元々、テレビやラジオへの露出もほかの噺家さんより多いので知名度も高く、アッと言う間にYouTube登録者数は5万人を超え、毎回1万人近くの人がナマで視聴し、アーカイブも合わせると、1回分だけで6万視聴という数字をたたき出している。落語のこと、寄席の素晴らしさを普段なじみのない一般の方に知ってもらいたい、という一之輔師匠の熱い思いが伝わってきました。

今回はその第二幕。5月21日からの浅草演芸ホールのトリだった興行の代替。今回はナマ配信のみでアーカイブ対応なし(一之輔師匠の高座はアーカイブ対応あり)だけれども、色物さんに出演いただいたというのが大きいです。寄席の魅力は、落語ばっかりだと疲れちゃうから、手品や漫才や紙切りが入るんです、と寄席入門でおっしゃっていた。トリの前に上がるヒザの重要性についても言及していた。それと今回からシステムとして投げ銭(スーパーチャット)を初日から導入して、寄席芸人さんたちに還元していこうという心意気も嬉しいです。

ということで、第二幕がはじまる前に、一之輔チャンネルにあがっていた「寄席・落語の素朴な疑問Q&A入門編」が興味深かったので、アバウトに書き起こしてみました。

Q足は痺れないのですか?

A痺れるにきまってんじゃないか!ただ、皆さんが思うより落語って、結構動くんですよ。正座しているだけだと、そりゃあ痺れます。でも、僕達は膝立ちになったり、ちょっと軽く動いたりなんかして、後ろで足を交差して痺れを解いて喋ってる。15~20分だったら、痺れずに喋ることができます。30分くらいだと、その時の体調ですね。自分が元気か、そうでないかによって、痺れが変わってきます。太ったとき、瀧川鯉昇師匠が言ってましたが、1キロにつき痺れがくるのが5分早くなるという方程式があるようです。だうたい、私も賛成です。合ってると思います。

Qお給料はいくらなんですか?

A気になりますよね。落語家になりたいと思っているあなた、気になるでしょう。当然ですよ。…あるか、バカヤロー!給料なんかないよ、ホントに。冗談じゃないよ。歩合、歩合。喋った分だよ、みんな。一席喋ったら、いくら。二席喋ったら、いくら。って感じです。ただですね、前座さんという身分があります。入門して、見習い期間を経て、1年間ぐらい経ったら、前座という身分になります。前座は毎日、寄席で働きます。この寄席で毎日、着物を畳んだり、楽屋でお茶を出したり、高座で座布団をひっくり返したり、太鼓叩いたり、そういうことをすると、「定給」と言って、固定のお金を一日いくらでもらう、それはあります。これはお給料と言えば、お給料なんですかね。いくらだか、知りたいですか?教えるか、バカヤロー!言えないよ、こんなところで。少しです。これが言わない方がいいと思うんですけど…一日、コレ(人差し指一本出して)にゼロが3つくらいですね。聞かない方が良かったでしょう?そこから、二ツ目、真打と昇進すると、一席いくら貰えるという風になる、これが芸の道です。

Qメガネをかけて落語を演ってもいいんですか?

A私は普段、メガネをしないと見えないので、かけて生活していますが、落語を演るときは、はずして演ります。そうかと思うと、春風亭昇太師匠や桂文珍師匠とか、メガネをかけたまま落語を演る人もいます。これはなぜか、というのは当人に訊いてくださいとしか言いようがないんですけれども。なぜ、私がメガネをはずすかと問われれば、はずさないと曇る。やりにくい。メガネが段々ずれてきたりする。それを上げるのは億劫だ。あと、全員がメガネをかけているキャラクターになってしまう。八っつぁんやご隠居が全員メガネの人だと不思議なことになってしまうので、かけないで演ってます。要はすべてのキャラクターにあんまり色がつかないように、という意味もあると思われますね。だから、かけないで演った方がいいよ、と先輩方から言われたこともあります。そうかと思うと、メガネが顔の一部ですと、そういう人もいらっしゃいます。昇太師匠、文珍師匠も若い頃からメガネをかけていらっしゃいました。古くは橘家圓蔵師匠。メガネと言えば、圓蔵師匠という。そうすると、メガネをかけて落語を演る、アッ、昇太師匠が出てきた!文珍師匠が出てきた!圓蔵師匠が出てきた!お客様もわかりやすいですから。晩年の圓蔵師匠がメガネを取って人情噺を演っていたのを観たことがありますが、お客様がキョトンとして、誰なんだろう?この人、という感じになっていましたから、メガネって結構大事なんですね。かけている人には。でも、私はかけないで演ってます。

Q扇子や手ぬぐいはどうしているんですか?

A僕らは扇子は買いません。手ぬぐいも買いません。なんでかと言うと、全部万引きです…嘘ですよ!なわけないでしょ。真打披露というのがあって、真打になると自分の名前の入った扇子を作るんですよ。これ、五代目柳家小志んさんの扇子です。これを挨拶がわりに配るんですね。真打になりました、どうぞよろしくお願い致しますと、配る。それを私たちは頂くんです。それを使うんです。だから、買ったことないし、こう言ったらいけないかもだけど、家に腐るほどあります。腐らないけど。その中から、今年はこれを使おうかな、というのを1本、2本、使いやすいものを選びます。1年で2本くらい消費しますかね、開いたり、閉じたりすると、破れてくるので。扇子供養という行事があって、谷中の全生庵で、圓朝忌という、8月11日、そのときにお焚き上げで燃やします。決して、燃えるゴミの日に出したりはしません。意外とちゃんとしています。

手ぬぐいも一緒で、真打、それに二ツ目に昇進すると、自分の名前を入れて染めるんです。今、ここに持ってきましたけど、私が真打に昇進したとき、もしくはお正月に染め直す。一之輔という名前が入ったものを撒いたりします。お互いに名刺交換みたいな感じで、この手ぬぐいを使います。どうやって選ぶ?着物の風呂敷の中に、これくらい(10ほど)常時入れているんですけども。着物の色とか柄に合わせて、きょうは緑ですから、こういうのを着てると、どういうのがいいかな?って選ぶ。同じ同系色でこういうのも選んだりするし、ちょっと目立つように縞なんかを選んだりもしますね。この中で一番フィットするものを選んびます。これ、みんな落語家や講釈師の先生からの手ぬぐいです。使いやすいのがいいね。花柄とか、柄が細かいもの、落語の邪魔にならないですから。

Q落語家さんの手ぬぐいはどこで買えるんですか?

A売ってません!商魂たくましい人は独演会のロビーで売ってたりしますが、基本、落語家の手ぬぐいは売らないです。販売しない。売っているものは、多分、イベント用に別に作ったもので。手ぬぐいは挨拶に同業者やお世話になっているお客様にお渡しするというのが基本ですね。もし、ほしい場合は、お正月に楽屋に「誰だれさんにお気持ちを渡したいんで、いいですか?」と、従業員の方に聞いてもらえれば、そこで何某か、こういう金品(四角を指で作って)、お正月ですよ、お正月じゃないと噺家は手ぬぐいは持ち歩いていませんから。「一之輔さんに、お年玉をあげたいんですけど」と言ったら、行く!って。「今年もよろしくお願い致します!いつも見てます!」ってなったら、「じゃぁ、手ぬぐいでもどうぞ」ってことになるので。そういう生き物ですよ、噺家って。

Q羽織はいつ脱ぐんですか?

A大きなお世話だ、バカヤロー!羽織を着られるようになるのは、二ツ目になってからです。前座は許されません。紋付を着て、高座に上がることができます。いつ脱ぐか、基本的に決まってません。よく落語を聴き込んだ人が、スッと脱いだとき、本題に入るんでしょ、わかってんだ、みたいな人がいますが、わかってねー!そいつは!関係ねーんだ。こっちは、そんなこと。一理はあるんですけど、マクラを申し上げて、コンチワ!とか言いながら脱ぐ場合もありますが、別に脱がなくてもいい。ずっと着たまま通す場合もあります。高座上がって、頭下げて、いきなり脱いじゃう人もいます。それなら着てこなきゃいいんですけど(笑)。例えば幇間。人のご機嫌とって、ヨーヨーなんて言う。4月27日に「鰻の幇間」、演ってます、まだアーカイブに残ってます。見てください。お客様に失礼にならないように、羽織を着て商売をする。ドーモ!コンチワ!大将!羽織を着てないと、おかしなことになっちゃう。効果的に脱ぐ場合もありますね。例えば、私が演る「夢金」の中で、船頭さんが蓑を脱ぐシーンがあるんですけど、「寒いなー」と笠を取って、羽織を脱いで、雪をはらっているという体で、「寒くてなんねえや、お客様」という、蓑を脱ぐのを羽織で表す場合もあります。基本的にルールはありませんので、いつ脱いでもいい。

Qご祝儀はいつ渡せばいいか、相場はどれくらいか

Aどのタイミングで、どこで渡すか、難しいですね。いつ、というのは直接、渡したいということでしょ?楽屋に「渡したい」と言えば、通してくれます。どれくらい?あればあるほど、ですよ。上限はないです。下とかは言えないでしょ。あなたが芸人だと思って、心がトキメク額!コンマリ的な。こんだけ貰うと心がときめくよな!というような。お気持ちですよ。いつでも待ってますんで。よろしくお願いいたしまーす。

5月21日(木)林家正楽/紙切り 一之輔「あくび指南」

「やっぱり、ヒザがあって落語、いいですね!」と。ちなみに、正楽師匠、ハサミ試しで「馬」と「相合傘」を、視聴者のチャットからの注文で「アマビエ」「鯉のぼり」「甲子園」「團十郎襲名」。コロナ禍関連が3つ。夏の甲子園も中止になったし、團十郎襲名披露興行も延期に。アマビエなんて、今回初めて知りました。

一之輔師匠、朝ドラ「エール」に飽きてきたと。古関裕而がいつまでも応援歌を作らない!ドラマの制作ストックは6月までだそうで、大丈夫でしょうか?寄席はどうなんでしょうね。浅草トリの代替としての配信。浅草演芸ホールはね、「動物の森です」。(自分が客だった)四半世紀前は、夜の部が終演すると、街の明かりが点いていない。野良犬とホームレスしかいない。賑やかになりました。堅苦しくない。寄席でも行こーじゃねーか!というお客さん。(口演中に)トイレ行く人、「失礼!」も言わず、本能に忠実。携帯を止める気がない。平気で出ちゃう。「面白くないよ!」って言う。自分に素直なんですね。スーパーで魚や肉を買うときに入れる薄手のビニル袋をずっと擦らせてシャカシャカ音を立ててる。噺家を鍛えるために、入り口で配っているのか?という。いろんな人が集まるから寄席なんで。いいんですよ。

高校時代、平日昼に行くと、客が本当にいなかった。なんでここに来ちゃったの?というような人がいた。プロ野球ニュースの珍プレー好プレーの外野席でチチクリあっているカップルみたいな。これで生きているんだ!すごいな、芸人!って思いました。高校に落研があって、ゼロだったけど、部室があった。で、顧問の先生に頼んで、高木君を誘って、俺が覚えて高木が聴くという日々。ブルペンのみの野球部みたいな。

定年を迎えて、昔、落研だったおじさんたちに招かれて、落語を教えにいったことがあった。上から目線で、「誰の弟子?」とか訊く。ちゃんと調べて呼べよと。圓生師匠の「文七元結」をCDで覚えて演るんだけど、私がここはこうした方がいいとアドレスすると、「でも、圓生さんはこう演ってた」と。おさらい会開くと、開口一番から「芝浜」「文七元結」「子別れ」と続いて、一応、トリは指導者である私が演るんですが、どんどん押してきて、「持ち時間7分で!」。「子ほめ」やって大爆笑とりました。お稽古ごとのマクラから「あくび指南」に。

5月22日(金)江戸家小猫/ものまね 一之輔「天狗裁き」

一之輔師匠と小猫先生は同学年。ほかに、安室奈美恵、松たか子、市川海老蔵がいると。髭の濃い小猫先生は、きのうまで「ボー、ボーでした」(これは一之輔チャンネルの予告動画みてる人しかわかりません)。タスマニアデビルの鳴きまねやって、「子供たちには受ける。信じることが大事」と。アフリカに実際に行って習得したヌー、最近ちょっとコロナで話題になったアルパカ、ヤギと羊の鳴き声の違いなど、さすが全国の動物園をくまなく訪ね、飼育員さんと友達になるという研究熱心がなせる業!

一之輔師匠、小猫先生の祖父の三代目猫八師匠が出演していた人気テレビ番組「お笑い三人組」で共演していた当代の金馬師匠に触れ、「昭和4年生まれですよ!戦時中に12歳で落語家になったんですよ!」と。先日、BSフジの「クイズ脳べるショー」で、80オーバー大会があって、ロミ山田さん等と一緒に金馬師匠が出ていて、出場者全員が天然ボケで面白かったそう。

先日、山口で独演会があり、宇部のときわ動物園に案内された。レジェンドと呼ばれる長老の飼育員シラスさんが色々説明してくれた。ペンギンのカッタくん、と言えば思い出す人もいるかも。動物園の中のサルも全員、シラスさんの言うことは聞く。まさに、レジェンド。そのシラスさんが、「小猫さんは熱心だね」と感心していたそうだ。

5月23日(土)柳家小菊/粋曲 一之輔「猫の災難」

小菊師匠、コロナで給付金がもらえるからと落語協会から案内がきたけど、パソコンとか苦手でしょ、でもそういう人のための特設会場を設けてくれて、懇切丁寧に教えてくれて有難かったと。ただ、職業区分のところで、「製造業」でもない、「販売業」でもない、「サービス業」でもないでしょ、そしたら、分類不可能というのにされちゃった、って。そうだよね、そういう分類不可能な人がコロナ禍で随分困っているのだと思います。

弱虫がたった一言小さな声で捨てちゃいやよと言えた晩。師匠・紫朝の十八番で、私の商売豆腐屋でござい、水攻め火攻めを厭わねえぞ、油攻めとは情けなや、親たちゃ在所でまめでいる~。一山二山三山越え、奥にさいたるミヨツツジ、いくら色よく咲いたとて、主が通わにゃ仇の花、サノヨイヨイ。まさか炭坑節とは思わなかったでしょう?深川くずしも、よござんした。丸髷に結われる身をば持ちながら粋な島田やホントにそうだわねチョイト銀杏返し取り手も恥ずかし左褄でもね。この最後の「でもね」がいいでしょ?って。イイです!

5月24日(日)三増紋之助/江戸曲独楽 一之輔「短命」

いつも元気な紋之助師匠、こっちも元気になる!でも、久しぶりの高座で、いつも以上に汗をかいていました。いつもはトトロの綱渡り、この日はコロナ禍ということで、アマビエがクルクル回っていました!

一之輔師匠、最近引っ越したときの冷蔵庫収納騒動マクラ。見積もりにきた某引越し業者の営業(仮名タシロ)がいい加減で、カタログを見ながらこれまでより大きめの冷蔵庫を選んでいたら、「大丈夫!楽勝で入りますよ」。後日、引越し業者のアンちゃんが来たら、「この冷蔵庫、入りません」「でも、営業の人が楽勝って言ってたよ」「またか、タシロ。今月で2回目だ」と舌打ちしたとか。しょうがないので、知り合いの大工に相談したら、「任せてくれ!吊ればいい」。窓を外して、なんとか入れたが、サッシがベコベコ。「任せろ!」と、板金屋が元通りに。さらに、頼んだ冷蔵庫は右開きだったのに、左開き。不便。オイオイ!と思ったけど、かみさんいわく「不便だから、開ける回数も減らせる。節電になる」と。タシロという試練を神様が与え、見事に克服した川上一家に乾杯!

5月25日(月)アサダ二世/奇術 一之輔「蛙茶番」

オープニング、アサダ二世ならぬアサダ五世が登場。三遊亭ふう丈さんが、宴会余興用のカツラをかぶり、黒メガネをかけての扮装。楽屋内では評判のアサダ先生の物まね。「きょうはちゃんとやりますよ」のお決まりフレーズ含め。一之輔師匠と漫才風にやりとりしているところへ、本物のアサダ二世先生登場!で、配信だからということもないんだろうけど、ホントにちゃんとやっていた。トランプ、紐、スカーフ・・・こんなにネタがあるじゃん!とビックリ(失礼)。そこを話芸で費やす高座が、先生の魅力なんですよね!

一之輔師匠、青学初等部で落語を演ってくれと頼まれた仕事エピソード。「きょうは師匠のお手伝いをさせていただきます」と挨拶にきた小学生。随分と着物姿が板についてるなと、顔を見たら、以前にBSの「落語小僧」という番組で共演した小学校6年生。前座働きもしっかりしていて、背筋がシャンとしている。開口一番の「転失気」も青学の小学生たちがひっくり返るくらいに笑わせ、さすが。「本職になっちゃえ!」と言った。

終演後、校長室で先生と談笑していたら、先生が「ちゃんとご挨拶したのか?」というのに応え、「市川團子と申します!」って、中車の倅さんじゃん!すっかり、勘違いしていたことに気づいた。同級生の金太郎(現・染五郎)もやってきて、「初めて落語を聴きました。面白かったです!」って。道理で背筋がしシャンとしているわけだ!ということで、素人歌舞伎の噺「蛙茶番」に。

ということで、後半も楽しみ!