野暮は承知ですがネ、不要不急が文化ちゅぅもんを耕すン。

vimeoの配信で「文蔵組落語会」を観ました。(2020・05・11~15)

確かに、落語は不要不急です。広く言うと、演芸は不要不急であり、寄席芸人は不要不急を担当する人たちですよね。だけど、この「不要不急」っていうやつが、文化を育てるんだと、今回のコロナ禍で改めて、思いました。どなたかが、「あってもなくてもいい商売、というけど、俺たちは、なくてもなくてもいい商売なんだよね」とおっしゃっていました。その商売こそ、日本の文化を耕す担い手なのではないでしょうか。

文蔵組は、橘家文蔵師匠がトリを池袋演芸場でとるはずだった、5月11日からの10日間興行が中止になった代わりに、10日間連続で落語会の配信をすると決めました。そして、これまでの会と違うのは、色物さんを原則入れていることです。これが素晴らしいのです。

正楽師匠の紙切りはもはや「人間国宝」になるべき“神技”です。アマビエの注文があっても、「え!?生ビール?・・・アマビエ?浜美枝じゃないの」と、すっとぼけた上でサッと切ってしまう。それも、「アマエビを食べているところ」と言って、洒落の利いた出来上がりを見せた。太神楽の仙志郎さん、スタンダードな傘の廻し分けと五階茶碗を狭いスタジオで披露しましたが、カメラのアングルを俯瞰で撮ることによって、新鮮に曲芸の素晴らしさを再確認しました。文蔵師匠の「あれ、本当に仕掛けとかないんだね」とシャレでおっしゃっていましたが、まさに鍛錬の賜物です。

米粒写経の漫才。松本清張原作の映画「砂の器」(1974年公開)の名場面のいくつかを“完全再現”と言って、居島一平さんが声帯模写と形態模写で表現してくれた。刑事役の丹波哲郎がまるで乗り移ったかのような、そして脚本が完璧に頭に入っている再現は、オタクとかマニアを超えて、研究者です。だけど、これを「洒落」とするところに寄席文化の粋がある。いくつかの「名場面再現」を観ただけで、「砂の器」の映画はもちろん、原作となった小説を本気で読もうと思いましたもん。好奇心をそそる、というのかな。それが文化を耕すことであり、それは「不要不急」ではありますが、改めて、世の中が平穏になったら、その「不要不急」ってやつを耕す作業のお手伝いを微力ながらできたらいいな、と思いました。

立花家橘之助師匠の浮世節。小圓歌から二代目橘之助を襲名されたときに、「すっぴん!」インタビューにご出演いただきましたが、音曲のテクニックもさることながら、つなぎに喋るお話しが話芸になっている。そいでもって、日本舞踊の師範ですよ。今は亡き志ん朝師匠の鶴の一声ではじまった毎夏恒例の住吉踊りのリーダーですよ。こういったこと全部が、不要不急なんですよね。コロナ禍で、改めて、「不要不急」の大切さを確認できたことは、、誤解を恐れずにいえば「収穫」でありました。安倍晋三にどれだけそのことがわかるかしれませんが、小泉進次郎も軽々しく「落語好き」とか言ってほしくないな(笑)。

5月11日(月)文太「雑俳」文蔵「青菜」正楽/紙切り 花緑「中村仲蔵」

花緑師匠と文蔵師匠は同期だって。同じ日に楽屋入り。九太郎15歳。かな文24歳。花緑いわく「今よりも楽屋がピリピリしていましたね」。当時のかな文は、九太郎を見て、「若くて吸収力があって羨ましいと思った」と。先代小さん(花緑の祖父)が高座を終えて楽屋で着替え終わると、「オイ、帰るぞ!」と前座働きしている九太郎に言う。ほかの楽屋にいる人たちも落語界の最高峰には逆らえないから、九太郎もしょうがないので、他の前座さんたちに申し訳ないが楽屋を出るのだと。

ほかにも目白エピソードは色々ある。小さん師匠が中入りの出番だったとき。後の出番の演者が楽屋入りしていない状態で高座にあがるときに、脱いだ羽織を放り投げ、次の出番が到着したときに前座がその羽織をさげて、「到着しました」という合図をする。小さん師匠は中入りなので、その必要はないのに、気の迷いなのか羽織を放った。しかし、誰も気づかずに、羽織はそのまま。で、高座を下りてきて、「バカヤロー!」とめちゃくちゃ激怒した。もう、楽屋中委縮しちゃって、立前座の扇ぱい(現・扇好師匠)はじめ、平謝り。でも、文蔵(当時かな文)だけは気づいていた・・・と今さらながらに告白(笑)。

末廣亭のすぐ近くのある桂花ラーメンに、小さん、九太郎、かな文で食べに行った。小さん師匠は何でも食べるのが早い。それより遅く食べるとしくじるから、一所懸命に熱いラーメンを猛スピードで食べたかな文。小さん師匠、「食いっぷりがいいな。もう一杯、食え」「あ・・・、ハイ!」。可哀想に思った九太郎は、「手伝ってあげるよ」。ホント、前座さんとは比べようもないだろうが、僕も社会人1年生のとき、「え!?」って、一般社会の概念や常識では考えられないことをいっぱい知り、経験してきました。それが今になってコンプライアンスだ、働き方改革だ、ちゃんちゃらおかしいですな。

5月12日(火)文吾「芝居の喧嘩」文蔵「化け物使い」仙志郎/太神楽 歌奴「御神酒徳利」

文蔵師匠、強面なのに、細かいフレーズに可愛さが出るのがチャーミングですよね。「金を出せば奉公人はいくらでも来る?」「来ないよぉー」とか、大入道に「地団駄を踏むのはやめなさい」とか、のっぺらぼうを「のっぺらちゃん」と呼び、「その溜まっているじゃない!」とか。仙志郎さん、傘の廻し分け、五階茶碗。演芸がわかっているカメラマンじゃないと、アングルやスイッチングのタイミングが難しいが、とっても良かったです。歌奴師匠は番頭バージョンで、鴻池でお嬢様を治癒させる、おめでたいバージョンが嬉しかったです。カカア大明神!

5月13日(水)きよひこ「うちの村」文蔵「夏泥」米粒写経/漫才 彦いち「という」

オープニングの文蔵×彦いち、「TBSラジオ」トークが盛り上がりました!これ聞いただけで、聴取率1位をずっとキープしているのが納得いく。こりゃあ、かないませんよ。文蔵師匠は昔からのTBSラジオのヘビーリスナーで、大沢悠里さんの「ゆうゆうワイド」はもちろん、「松尾雄治のピテカンワイド」、永六輔さんの土曜ワイド、マムシさん(毒蝮三太夫)のミュージックプレゼント、米粒写経のタツオさんの東京ポッド許可局、居島さんの「代読芸人おりしま1ページ」(「たまむすび」内)・・・。彦いち師匠は「久米宏 ラジオなんですけど」のレギュラーなので、もう、止まりません!

昔、「パカパカ行進曲」という土曜の番組があって、その日のテーマについて、電話で話してくれた一番面白かったエピソードのリスナーは3万円がもらえるという企画で、文蔵師匠は「こみやまさん」と名乗って、常連だった!「お医者さんで大失敗」とか、「乗り物失敗談」とか・・・全部、作り話だったんだけど、それで、バンバン一等賞を獲って荒稼ぎ。しまいには一週間前にディレクターから電話がかかってきて「来週もよろしく」。私はそれで洗濯機を買いました!と、文蔵師匠。だけど、ちゃんとTBSショッピングでね、と。アリサカさんという商品説明する人がいて、「つい買っちゃうんだよね」。シジミ習慣とか、洗濯槽快とか。いまは、爪みがきが気になっているんだ。

あと、彦いち師匠が、外出自粛期間中にできることはないか?考え、「前座マスク」なるものを製造、販売。たまたま、落語会が中止になった諏訪の主催の町工場の人が、レーザーカッターを持っていて、他の町工場の人たちも生地のポリエチレンを提供できる、俺は立体化する技術をもっている、パッケージ用の圧縮ができると名乗りをあげ、現場に前座のやまびこを派遣。受注担当がひこうき、梱包・発送担当がきよひこ。すでに4千パック売れたとかで、もう来週の発送でおしまいにするそう。相変わらず、アイデアマンですね!

米粒写経がすごかった。とりあえず、定番の「行ったつもりで都道府県」、スタッフからの「福島県」のリクエストに応え、福島の歴史と地理をきっちり押さえたガイドを言い立てのように喋る居島さん、すごい。で、三島由紀夫の割腹自殺を軽くやって、「砂の器」の再現へ。ちゃんとやると2時間以上かかるので、名場面をダイジェストでやり、そこにタツオさんが知識のない人にわかるように軽く説明を加え、もう気分は1974年野村芳太郎監督の映画「砂の器」の世界へ。

今西刑事(丹波哲郎)の聞き込み、ホステスから「カメダがどうした、カメダは相変わらず、とか言ってました」、「強い訛りがありました。東北弁の」という証言を得るシーン!もう、丹波さんが乗り移った、居島さん。「人の名前か、土地の名前だな」・・・東北?秋田県に羽後亀田という土地があることがわかるが。

被害者は三木謙一(緒形拳)という名前であることが判明。その養子の彰吉によれば「父はお伊勢参りから帰ってこない」。岡山の在である。捜査は暗礁に乗り上げたかのように思えたが…。国立国語研究所を訪ねると、東北弁が他の土地で使われていた可能性はないが、と桑原教授。が、「音韻の類似」というのがあります、と。言葉の響き。日本列島の地図を広げると、東北地方のズーズー弁と同じ色に塗られた土地が一か所だけ!島根県出雲地方!

早速、今西(丹波)と吉村(森田健作)は出雲へ。ガード下の屋台で飲む二人。地元の古老(笠智衆)に出逢う。カメダはない。ただ、「亀嵩」という地名があった、カメダカ。語尾がはっきりしない言葉を喋ることがある。これだ!地元島根県警で警察官生活何十年という、三木謙一が被害者だ。殺された彼だけが知っている真実がある!

立身出世をして著名な音楽家になった和賀英良、婚約者(山口果林)の父演じる佐分利信に、居島さんは乗り移る!「砂の器」「獄門島」「日本の首領」との演じ分けをするが、マニアックすぎてわからない。けど、面白いの!僕の記憶は和田勉演出のドラマ「阿修羅のごとく」のお父さん役。加藤治子、八千草薫、いしだあゆみ、風吹ジュンの四姉妹。リアルタイムで見てました!

それで、和賀が実は犯人の本浦秀夫で、その父が本浦千代吉で加藤嘉!緒形拳、いや三木に世話になった過去を告白する場面が堪らないそうで…。もう、さっそく、DVD買っちゃいましたよ!とにかく、最高でした!

そのあとに上がった彦いち師匠、思わずウィキペディアで「居島一平」を検索してしまったと。両親とも朝日新聞で、お父さんはあさま山荘事件の記事を書いた記者だそう。おじいちゃんは元軍人。2・26事件の包囲軍にいたとかで、小さん師匠は反乱軍の方だから、敵対してたんですねーと。今年2月18日渋谷らくご「しゃべっちゃいなよ」(新作ネタおろしの会)で、彦いち師匠が「無観客寄席」をかけていて、僕もそれを拝見していたのですが、まさかここまでになろうとは!本人もビックリしていると。ちなみに、噺家が次々と倒れ、仕方なく前座が圓生を襲名するという…。また、ナマで聴きたいですね!

5月14日(木)文太「陳宝軒」宮治「権助魚」フォークシンガー小象/唄 文蔵「らくだ」

宮治さんはすごいです。文蔵師匠がツイッターで、「落語協会の二ツ目よ、おちおちしていると、お客をどんどん芸協にもっていかれるぞ。宮治は上を喰ってやる!という気持ちで高座に臨んでいるぞ!」と書いていたけど、まさにチャレンジ精神、サービス精神旺盛な高座は愉しい!

小痴楽師匠の結婚披露宴エピソード。ビデオメッセージを届けてくれたのは、落語ディーパーでおなじみ、イクメンとしても有名な俳優Hさんが、家族愛について奥さんと子供3人で語っていたそうで。昇太師匠の新婚生活の妄想も面白い。「俺、家に帰りたくないんだよ。もう一軒行こうよ」と誘われるんだけど、帰宅したら、もうデレデレなんでしょうねぇ、お相手はペット関係の企業の御令嬢ですから、犬なんかとじゃれついて、奥様ともじゃれついて…と。でも、二ツ目ゲスト出演は10日間のうち、自分だけ、それも芸術協会からも自分だけという配慮をちゃんとしている。気配りの人でもあるのが素晴らしいです。

5月15日(金)文太「黄金の大黒」文蔵「ちりとてちん」橘之助/浮世節 歌武蔵「お菊の皿」

歌武蔵師匠が3年先輩だそうで、文蔵師匠が24歳で楽屋入りしたとき、18歳。「よく馬券の買い方とか教わりました」と。実家のお寿司屋さんだったそうで、文蔵師匠も寿司屋で働いたことがあり、寿司屋の符丁で会話していたと。「新宿のワリは?」「ゲタメ」(よくわかりません)。文蔵師匠の高座のちょっとしたフレーズがカワイイ。「鯛と鰻と私」とか、「5人揃って台湾戦隊チリレンジャー」とか、「前衛舞踏集団みたいだね」とか。

橘之助師匠、久しぶりに化粧したと。二人とも入門時からロクなもんじゃなかったと。歌武蔵は、私の次の次の弟子。「身長と体重が貴乃花と同じ」と言ってたから、「中味が違うんだよ!」。「痩せなさい。70キロ台になったら、私のことをどうしてもいい」と冗談で言ったら、「医者に無理だと言われました。骨だけで70キロあると」。文蔵は、色々あるよ。初席は島田のカツラをかぶるんだけど、鈴本と浅草の掛け持ちだったので、かな文が「私、運びますよ」と言うので、お願いしたら、夜、上野の丸井の前にボックスから出たカツラが置いてあった。一緒にいた白鳥と飲みにいっちゃったとかで。ホームレスがかぶったという話もあり、ロクなもんじゃない!今では立派に更生したね、と。

三遊亭わん丈さんが飛び入り参加で、笛を担当。太鼓は文吾で、出囃子オンパレード。先代文楽「野崎」、志ん生「一丁入り」、圓生「正札付き」、志ん朝「老松」、小さん「序の舞」、そして先代圓歌「二つ巴」。そのあと、たっぷり初代の十八番「たぬき」。さらに「両国風景」で締める。寄席ではなかなか聴けない高座、ありがとうございました。

歌武蔵師匠、五月場所は中止。おそらく七月場所は名古屋でなく国技館でやることになるでしょうと。三月の無観客場所、面白かった。力士が身体を叩く音、行司の「勝負あり!」の声は歓声で消えちゃうけど、クリアに聞こえた。解説の北の富士勝昭さんの発言も。「(山盛りの塩を撒くことで有名な)照強、お客さんいないんだから、いつもより半分の塩でいいのに」、「(土俵際に倒れ込んだ力士に)普段だったらお客さんがクッションになるのにねぇ」。噺も、お菊さんが井戸から出るところで、鳴り物入りでクドキがあるのが良かった。でも。「それも女の…性ですね」のセリフの「女の」が終わったところで、鉦が鳴る段取りなのに、文太?がしくじって、催促したのが可笑しかった。ライブは愉しいね!