「寄席が恋しいです。だって寄席芸人だもの」 喬太郎師匠だけでなく、皆が同じ気持ちだよね。

文春落語オンラインで「柳家喬太郎独演会」(2020・05・02)と「落語のらりくらり」(05・03)を観ました。

「週刊文春」で一番好きな連載が「川柳のらりくらり」だ。毎週、喬太郎師匠がお題を出して、ハガキで投稿してもらい、選者となって、選んだ句に一言コメントをつける。なんでも、応募した川柳すべてに目を通しているそうだから、喬太郎師匠の生真面目な性格が現れてて、それだけでも好きなんだけど、選ばれた川柳がみんな、イイネ!って作品ばかり。それに師匠が愛のある、ときにはユーモアのあるコメントをつけるのだから、たまらない。

ちなみに、最新号5月7日・14日ゴールデンウイーク合併号の「川柳のらりくらり」は第804回。お題は「授業」。ちなみに、単純計算したら、16年近く続いているんだね。長寿連載。でも、週刊文春は林真理子さんはじめ人気エッセイも沢山あるから、一番ではないだろうけど。冒頭、師匠はこう書いています。

オンライン授業というのがあるそうで、アナログなオイラにはピンときませんが。(中略)長引くコロナ禍で、大学でもオンライン授業が増えていると聞きました。(中略)正直、どこまで続くかわからない。コロナが終息しても、いっそ授業はオンラインで…、ってのが当たり前になっちまうかもしれません。ご時世柄、オンラインの落語も流行っています。遅まきながら喬太郎の落語も、オンラインの話が進んでおります!以上、抜粋。

ついでに、掲載されていた川柳で僕が気に入ったのは、教科書をわざと忘れて君の横。師匠の一言コメント、「こらこら、ソーシャルディスタンス!」。特選は、人生を変えた授業を師は知らず。師匠の一言コメント、「ありがとうございました。我が師に、特選。」いいですよねー。デジタル時代でも、ハガキ投稿にこだわる師匠と週刊文春編集部。

過去、2回、「落語のらりくらり」が文藝春秋社屋で開催され、参加しました。参考までに。二楽師匠も出演。

2016年 4月26日 柳家喬太郎「午後の保健室」「竹の水仙」

2018年10月17日 柳家喬太郎「ウルトラのつる」「居残り佐平次」

で、今年、GWに文春落語オンラインで行われた2日間です。

5月2日(土)柳家喬太郎独演会。

(コロナ禍)以前から、1カ月に10日は酒を抜くことにしていたが、今はほとんど飲んでいないと。先月(4月)は4日しか飲んでいない。タバコも減っている。自粛生活も悪くないなぁ。寄席芸人だから、見事なほど、仕事がない!元々、髭は薄い方だが、髭生やし放題。先日、歌武蔵師匠と自撮り画像のやりとりしたら、同様で、歌武蔵師匠に「高橋是清ですね!」と突っ込んだとか。

お店で飲もうと思えば飲める。19時ラストオーダー、20時閉店。でも、それでやめられない。とことん酔っぱらうまで飲まないとすまない性格だから、逆に行かない。旅の仕事で、夜に飲んでホテルに直行すればいいから、ヘベレケになって、翌日が仕事にならないくらい飲んじゃう。

当たり前だったことが、当たり前じゃなくなった。昔を愛おしく感じる。我慢していると思うから、ストレスになるんで、楽しみを先延ばしにしているんだと思えばいい。有名な芸能の大先輩が、時代劇の撮影でカツラを被る。休憩時間ははずしていいけど、はずさない。一日の撮影がすべて終了して「お疲れ様でした!」となったときにはずすときの、「気持ちよさと言ったらない!」と。

自粛は一遍にやめるものではないと。そうしたら、またクラスターになっちゃう。徐々に解禁していこうと。ネタを思いつくんだけど、発表の場がない。「ソーシャルディスタンスをとるストーカー」とか、考えたんですけどね。自粛解禁イコール終わりではなく、コロナがインフルエンザくらいになったときに、仲間と飲みにいきたい。赤羽とか、大塚とか。キャーキャー言って、「(三遊亭)白鳥でーす!」って言って。「接待を伴う飲食店」という表現がいですな。先代三木助師匠にキャバクラに連れていってもらい、キャバ嬢に「落語教えて!」って言われたときに、「文七元結」や「芝浜」とか教えちゃって、延長(圓朝)料金取られたという定番のマクラをやって、「しゃべりたいんだよー、早くそういう日が来ないかな」と言って、「夜の慣用句」へ。

質問コーナーというのがあって、事前に募った質問から、まず選んだのが「彼女の束縛がひどいです。どうにかしてください」。回答は「彼女さん、思い当たる節あります?もっと縛ってやりましょう!我慢すればするほど、喜びは大きくなるものです」。なんかねー、隠れメッセージみたいで良かった。「自粛終わったら何したいですか?」という質問には、自粛解禁=自由=何やってもいいではない、と断った上で「ひとりカラオケ」に行きたい!と。鶴光師匠の♪うぐいすだにミュージックホールが歌いたい!「今は何、やっていますか?」には、手ぬぐいでマスク作っています、内側にフィルターに本当なら不織布ならいいんだろうけど、無いから、代用で台所用の三角コーナーを使っている、と実際に懐から取り出し、見せてくれました。

喬太郎師匠、最後に「一番好きだった質問」と言って、「最近、どうですか?」。イイネ!

喬太郎「井戸の茶碗」/仲入り/喬太郎「夜の慣用句」/質問コーナー

続いて、5月3日(日)落語のらりくらり 喬太郎・二楽二人会

ちなみに、二楽師匠は「川柳のらりくらり」の連載の「紙切りカット」を担当している、寄席の紙切り芸人さんです。毎週、お題に沿った紙切りが、これまた素敵です!

喬太郎師匠、一席目のマクラで、川柳のお題で心掛けていること。投稿を募集して、集まった作品を選び、出稿して印刷され発売になることを考えると、2か月前にお題が発表になる。だから、流行りものはなかなかできない。だから、「二楽が紙切りにしづらいお題」(笑)。

「ステイ・ホーム」。ちまちましてみる、のがいいのではと提案。普通は度量を大きくとか、懐深くとか、言われるけど。ちまちま。ちょっと楽しいですよ。住み慣れた我が家で、普段いないところにいてみる。テレビの後ろのスペース。テレビをちょっと動かして、ちょっとしたスペースから部屋を眺めると、新鮮ですよ。埃に気づいて、掃除しよ!とか。リビングルームや自室で飲むのではなく、玄関先で飲む。缶ビールとつまみを持って、靴の前で飲む。つまらない!それも発見です。夫婦の間でも、一緒にいる時間が長くなると、些細なことで喧嘩してしまう。普段にない角度から見てみる。スカートをたくしあげて、股座からご主人を見てみるとか。お客さんいないと、言いたい放題だな!キョンキョンだよー!だって楽しいんだもん!楽しそうな喬太郎師匠を見ていると、こっちも幸せになれる。で、春風亭昇太作「夫婦に乾杯」へ。

高座返しは、二楽師匠の弟子であり、息子の八楽さん。二楽師匠、ハサミ試しは、いつもの桃太郎。お客様がいないので、注文とれないから、事前に募ったと、リストを見ながら切る。横綱の土俵入り、お花見、武者人形と3つ切った。そして、八楽を呼び込む。親子二人で対になるものをということで、二楽師匠がバルタン星人、八楽さんがカネゴンを切った。さすが!

喬太郎師匠、二席目。「噺家は世情の粗で飯を食い」と言うが、思いついても高座がないからなぁと。もし、寄席がやっていたら、みんな、コロナ、ソーシャルディスタンス、自粛ネタをマクラにふるんでしょうね。「どうやって過ごしてます?」と訊かれるけど、(強制的に)自粛は終わらせるものではないから。喪に服すとは違うでしょう?いつやめたらいいか、わからない。緊急事態宣言期限が終わったからと言って、野放図に遊べるわけじゃない。モヤモヤするから、一人カラオケ行きたいんだよ。昨日も言ったけど、鶴光師匠の「うぐいすだにミュージックホール」。♪スポットライトに照らされて、そろりそろりと帯を解く、ドラムのソロに波立つバスト~と歌う。でも、きのう、風呂で思い切り歌って、気が済んだ。

立ち食いそば。ソーシャルディスタンスの見地から憚れる。だから、無性に食べたくなる。文春さんがお弁当出してくれたんだけど、そこのお店の揚げ物とか、極普通のカレーがうまいの。普通のものが懐かしい。有難いと思わせてくれる。なんでもないのがいい。どうせ、立ち食いそばだろ?こんなもんだ。不味くて当たり前、というのがいい。最近はおいしくなっちゃって。かき揚げがサクサク。昔はお好み焼き?というような、粉っぽい、汁に浸してもふやけるまで時間がかかる、口に入れるとモソっとする。コシという概念がない蕎麦。お湯?というような汁がいいの。あと、バタークリームのケーキが食べたい。生クリームなんて、昔は王室の食い物だった。ビフテキって昔は言っていた。それが立ち食いですよ。ナイフ入れると割れるバタークリームケーキ。上に、合成着色料のバラがのっていて。

当たり前の日常を失うと、懐かしくなるんだね。コンビニの蕎麦だって美味しい。レジでレンジでチンしてもらわず、自宅でチンする。カレーうどんか、かき揚げそば。それに、おにぎりにしときゃいいのに、意地汚いんだね、唐揚げ弁当を買っちゃう。最高!カロリーめちゃくちゃ高いのに。たまらないのよ!コンビニごはんも、なま冷たいのがいい。なま温かいんじゃないの。喋るのが楽しいんだよ!飛沫、バンバン飛んでるね。飛沫テスト、なんちゃって!どのみち、日本人は麺類が好き!と「そば清」へ。

最後は質問コーナー。喬太郎師匠と二楽師匠は「ソーシャルディスタンス」を保ちながらの対談。「二楽さんの好きなところは?」に、喬太郎師匠。当初、お父さんであり、師匠である先代正楽が前座修行のために、噺家の師匠の一門に入れようと考え、息子に「お前はどの師匠がいいか?」と訊いたところ、「さん喬師匠!」と答えた。それは結局実現しなかったが、もし、さん喬一門に入っていたら、喬太郎、二楽、左龍、喬之助の順番だった。だから、親近感あり、楽屋入りした頃から「ニラちゃん」と呼んで、友達付き合いしていると。へぇー!

「好きな『富士そば』の店舗は?」に、全部好き。「富士そば」であればいい。ただ、思い出の「富士そば」というと、SWAで活動していた頃、赤坂レッドシアターで公演があり、打ち上げの〆に「富士そば赤坂見附店」に行っていた。「富士そばジャンケン」というのがあって、負けたメンバーが全員の分を奢るシステムで、彦いち師匠が負けたとか。二楽師匠は末廣亭の角の「富士そば」だと。某師匠(絶対に名前は言えない!)が、打ち上げはそこで、「きょうはお前ら、好きなもの、何杯食べてもいいぞ」って。初日、仲日、千穐楽。全部、富士そばだった。

難しい質問は困るねぇと。これからの落語界の展望とか。とにかく、「寄席が恋しいです。寄席芸人ですから」と。人生の半分以上を寄席で過ごしているわけで。新作を創っても哀しくなるんだよね。♪着てはもらえぬセーターを涙こらえて編んでます~の心境。甲子園という目標を失った高校球児。闘う土俵を失った大相撲の力士。モチベーションがあがらない。お客様の前で演るから、噺が弾む。

僕ら寄席芸人は「一番あとの商売」。そこにしがみついている。こういう非常時に何もできない。でもね、楽しいことって必要なんだな、と思ってくれたらいい。当たり前のことと思えていたことを失っても、この商売をやってていいんだと、わかった時期。演芸がこの世にあってもいいものなんだ。衣食住足りての演芸。だけど、演芸があると、衣食住も愉しくなる。商売に上とか、下とか、ないんだよ、と力づけてくれた。

でね、こうやってオンライン落語やっていると、これは「無観客」じゃないと。気づいた。(機材トラブルや音声、映像のダウンなど)ご批判をいただきながら、目に見えない1000人のお客様と一緒に作っている気がする。このお客様はスタッフかもしれない。つながっているんだと。ありがとうございました、と結んだ。

いやいや、こちらこそ、ありがとうございました。緊急事態宣言は5月31日まで延長になりました。ますます、オンラインで我々を力づけてください。そして、いつか、寄席に明るい笑い声が響く日を待ちわびています。師匠!よろしくお願いいたします。