続「筆おろしは、俺に任せろ!」 春風亭一之輔の心意気

一之輔チャンネルで「春風亭一之輔10日連続落語生配信」を観た(2020・04・26~30)

一之輔師匠との最初の仕事はまだ二ツ目時代、と言っても、「もう真打でいいんじゃない?」と囁かれていた、2011年5月26日の放送である。当時、僕は午後の14時から(月)~(金)で放送されていた、「つながるラジオ」で、毎日15分ずつ帯で流れる「ラジオなぞかけ問答」を他のスタッフと一緒に担当していた。11年度は毎月末にスペシャルとして70分に拡大、その月に放送で紹介した投稿の中から月間最優秀賞を選ぶ(これは以前からやっていたが、15分に収めていた)、さらに師範と特別ゲストを招いて、リスナーの投稿をネタに楽しくお喋りするという、ほんわかした番組だった。

師範は、天野祐吉さん、泉麻人さん、古今亭志ん輔師匠、神田紅先生の4人、この月番制は、「ラジオなぞかけ問答」が99年4月にスタートした「ラジオほっとタイム」(~08年3月)の名物コーナーで、その後継番組「つながるラジオ」が終了した13年3月まで、ずっと変わっていなかった。で、11年5月26日。師範は志ん輔師匠。ゲストに一之輔さんに出演いただいた。実に楽しかった。一之輔さんは、ちょうどその前の年にNHK新人演芸大賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞し、飛ぶ鳥を落とす勢い。この年の秋に翌年3月21日からの21人抜き抜擢単独真打昇進が発表される。ちょっと愚痴を言うなら、当時の上司が「一之輔って、知らないよ。先月の松本明子は良かったが」と嫌な顔をしていたが、いま、その元上司はどう思っているだろうか。

志ん輔師匠がいきなり、「あなたの大師匠・柳朝さんは、なぞかけが得意でキャバレーで稼ぎまくっていた」とプレッシャーをかける。一之輔さんも、先日、息子の保育園で保護者会があって出席したら、「なんか面白いことやって」と無茶ぶりされ、なぞかけをしたと。「ひまわり保育園とかけて、満塁ホームラン2本と解く。発展(8点)間違いないでしょう」とやったら、他の保護者の人たちがキョトンとしちゃって、何が面白いのか解説しなきゃいけなかったそう(笑)。

たまたま、月のお題が「トマト」だったので、志ん輔師匠が「お前の師匠の一朝さんは、トマトが大好き。それも丸ごとかぶりつかないと、というこだわり」と言って、一之輔さんに「トマト」でなぞかけを!と振る。一之輔さん、「トマトとかけて、2かける7と解く。ジューシーでしょう」。お見事!また、週のお題の「胸騒ぎ」で、リスナーからの「下手な落語家と解く。オチつきません」という投稿が気に入ったと一之輔さんがチョイスすると、志ん輔師匠がエピソードを披露。先代小さん師匠が寄席で「長短」を演ったときに、普通は「だから、言わなきゃよかった」でサゲるところ、それに加えて、「気の長短でございます」と言おうとしたら、「気のチョウチャンでございます」になっちゃった(笑)。また、リスナーの「レコードとかけて、親父の小言と解く。その心は、今では聞きたくても聞けません」という作品で、今でも師匠・志ん朝の遺影に毎朝、手を合わせている、生前より多く会話しているかも、という話にしんみり。

東日本大震災が3月11日。それから2カ月後だから、「寄席でも戸惑いながら高座にあがっている。笑うのは不謹慎みたいな空気がないかと心配になっちゃう」と、志ん輔師匠も一之輔さんも言っていた。まだ寄席が営業していたからいい。今は、新型コロナウイルスの影響で寄席は休業だものね。その放送で最後に発表された、月間最優秀賞は「アイスクリームとかけて、イケメン役者の初舞台と解く。その心は、1度上がるとドッと売れるでしょう」。あれから9年が経った。13年3月に「ラジオなぞかけ問答」は「つながるラジオ」の休止に伴い14年の歴史に幕を閉じた。こういうほんわかした番組こそ、現代に求められているような気がしてならない。

で、春風亭一之輔チャンネルによる10日間連続落語配信の後半です。

26日「らくだ」

この配信は夜8時10分スタート。大河ドラマ「麒麟がくる」がライバルです!と。土曜昼に再放送あるし、何なら録画して見てください。この配信もアーカイブはあるけど、ナマで聴くことが重要!と。寄席がもし休業していなかったなら、自分は鈴本20:10上がりだったことにこだわるのがイイネ!寄席にアーカイブないからね。投げ銭システム(スーパーチャット)ができた、いくらでもいいんです、「志」だから。イイネ!ずっと表で飲んでない。トリ10日間興行だったから、毎日、前座さんとか誘って飲んでいたはず。今はこれが終わると、まっつぐ、家に帰り、缶の生ビール1、2本に焼酎1杯でおしまい。早くうまい酒が飲みたいなぁ、と。で、麒麟を意識したのか、駱駝へ(笑)。

27日「笠碁」

雨。テンションが上がらないと。志村けんさんが亡くなったので、所属事務所のイザワオフィスが「だいじょうぶだあ」を公式YouTubeでアップした話題。その心意気を讃える。26日の「サザエさん」の放送でクレームが出たそう。ゴールデンウイークで動物園に家族揃って行ったというアニメが流れ、「外出自粛なのに、けしからん!」という声だそうだ。このご時世に、と言うが、テレビが家具調、普段から着物を着ている、フネさんはかっぽう着、酒屋が勝手口に御用聞きにくる、我々とは違う世界の住人なのに。サザエさんがAmazonで酒を注文したり、距離をとってトイレットペーパーを買ったり、そういうのは嫌。カツオがYouTubeで「だいじょうぶだあ」を見て、パイノパイノ体操をみんなでやっていたら、波平さんが帰ってきて、「コラ!カツオ!タラちゃんに変なものを教えるんじゃない!」なんてね。

4月27日は一之輔師匠にとって特別な日。2001年4月下席、末廣亭昼の部に出演していた一朝師匠が、「東京かわら版」で14時上がりなのを確認して、入門志願しようと、楽屋口で出待ちした。就職氷河期。ロスジェネ世代。同級生も苦労していたが、一之輔の場合は違う。卒業したら、すぐに落語家になるため、入門しようと、大好きだった一朝師匠に狙いを定めていたのだ。21日、自分の思っていた方向と逆へ。22日、今度は昨日と反対の方向へ。失敗。23日は雨だったので諦めた。24日は師匠が休演だった。25日、「なんか声をかけそびれ」、26日は誰かと一緒に出てきたので声かけられず。

そして、27日。ついに「弟子にしてください!」。一朝師匠が「刺されるかと思った」という形相。「バルコニー」という喫茶店で話す。アイスコーヒーを頼んだ。「親御さんは?」「承知しています」「じゃぁ、会うから一緒に連れてきて」。5月1日、上野広小路の「風月堂」で、向こうは師匠と一番弟子の朝之助(現・柳朝)。こっちは、父と母と自分。2対3。フィーリングカップルみたいと。で、そのまま履歴書を持って、協会へ届けを出してくれた。一之輔師匠は今年、噺家生活20年目に入った。

28日「鰻の幇間」

投げ銭システムはやめた、別に儲けようという了見ではない、と。すみだ水族館で緊急開催する「チンアナゴ顔見せまつり」について。水槽のチンアナゴは、臨時休館で人間の存在を忘れ、砂の中に潜ったまま顔を見せなくなってしまい、飼育員が健康状態を確認できなくなってしまった。そこで、在宅の人たちと双方向カメラでオンラインでお互いに顔を見せ合って、これまでの姿に戻ってもらおう!という心意気。そこと共通するものが一之輔にあるのかも。これまでの寄席に戻るつなぎだよ!落語を忘れないで!って。

小泉進次郎が「ゴミの回収員へ、メッセージを書いてゴミ袋に貼って労おう」と発案していたが、ちょっと待て!と。その(回収員)立場だったら、どう思うか。相当急いで作業している。読む余裕があるか。子供の原稿用紙5枚くらいの作文だったら、「ヨシ!頑張るぞ」ってなるかね(笑)。

29日「お見立て」

落語のオチ(サゲとも言うが)についてマクラで喋る。落語を初めて聴くお客様はオチを聴いて、「え!これで終わり?何なの、これ!?」と思われるかもしれませんが、落語なんてこんなもんです。オチは終わりましたよ、という合図のようなもの。面白くなくてもオチ。ましてや、オチが一番面白いなんてない。その後はどうなるの?続きは?・・・そんなの無いし。身も蓋もないこと言うけど、だいたいが作り話ですから。実際にあったわけではないので。子ども頃から聞いているおとぎ話みたいなもんで、突っ込んだらキリがない。

「桃太郎」、サルやキジがお供になりますか?そいつらにやっつけられちゃう鬼って。「かぐや姫」、ジブリ映画は詳しくなくて「天空の城ラピュタ」あとは「風の谷のナウシカ」くらい?サルが出てくるのは「母を訪ねて三千里」?区別つかない。でも、好きなのは「かぐや姫の物語」。これは好き。姫がどんどん成長して、立って歩きだすところ、「姫!頑張れ!」って家族で応援しちゃう。で、おとぎ話の竹取物語、翁が光ってた竹を切るでしょ。何センチか、ずれていたら、危ないよ!血がドクドク出て、首のない赤ちゃんが。「浦島太郎」、助けた亀の背中に乗って海中へ行っちゃうのよ。乙姫様がゆっくり遊んでいってくださいって。タイやヒラメの舞踊りって?「そろそろ、帰る」って言ったら、プレゼントに玉手箱渡されて、「開けちゃだめ」って?開けたくなるじゃないですか。で、開けたら、Fin。おじいさんになりました。教訓って何?人は信じちゃいけないってこと?

「鶴の恩返し」、もってのほか。鶴を助けて逃がして、いいことしたなぁと思っていたら、綺麗な女の人が現れて「一緒に住んでいただけないでしょうか」「喜んで!」。「覗かないで」って、奥で機織りして、お金にしてくれた。でも、覗きたくなるのが人情。で、覗いたら、「覗かないでって言ったじゃない!」って、いなくなっちゃった。鳥類は勝手だね。恩返しが回りくどいよ。羽をバコバコ抜いて、機織って換金して、入金しろ!って話ですよ。「猿蟹合戦」。おむすびと柿の種を交換しますか?早く芽を出せ柿の種って、桃栗三年柿八年ですよ、8年かかるものを、僕におくれと言いますか。で、猿に殺された蟹。子蟹の仇討ちの助太刀をするのが、臼、蜂、栗、そして牛の糞!臼は無機物、動かない。牛の糞に何ができるのか?排泄物に助けられたいですか?私は否です。

なぜ4人目が牛の糞か?考えたんです。舞台は田舎ですよ、相当に訛りのきつい。まず、子蟹は誰に手伝ってもらうか、考えた。蜂と栗に頼んだ。囲炉裏にいた熱くなった栗が猿に攻撃し、冷やそうと水を求めた猿が水甕にやってきて、待機していた蜂は刺す。で、猿は牛の糞で足を滑らせる。で、臼が猿の頭部に直撃、死にますか?猿は機敏、反射神経でいくらでもかわせる。もし、足に落ちていたら、逆に蟹をボコボコにしますよ。本当に猿を殺れるのは、奴だ!と子猿が考えたのは力のある牛ですよ。「何かあったら頼りにしてくれ」とブイブイ言わせていた。で、頼んだ。猿退治作戦決行の日。牛は蜂や栗よりランクが上だから、彼らに「牛を迎えに行ってくれ。9時半現地集合な」と伝えた。「なんでウスを迎えに?」「なんでアイツのことを?」とブツブツ言いながら行くと、案の定、臼は「頼まれてない。でも、力になれるかわからねえが、助太刀いくべ」と快諾した。一方、牛のほうは「迎えに行くと言っていたのになかなか来ねえな」と待ちくたびれた。「しょうがねえ、自分で行くか」と現場へ。

単独やってきた牛にビックリする蟹。「一人で来たのは、どういうこと?遅いな、蜂と栗」。そこへ、臼を連れて蜂と栗が。「ウス?」「だって、ウスを迎えにと言ったべ」「ウスじゃねえ、ウスだ!」「だから、ウス!」「ウスじゃねえ!ウス!」。で、牛が「よく間違われるんだ」と怒って、モーッと帰ってしまった。怒った牛は下っ腹に力が入ったのでしょう、ウンコを垂れていった。その牛の糞が「オラでよければ、仲間になるべ」と4人目になった。それが私の仮説です。良かったら学会に発表してくださいと(笑)。で、訛りつながりで「お見立て」へ。

30日「花見の仇討」

千穐楽。9日間は、らくごカフェからの生配信だったが、この日は席亭のご厚意で鈴本演芸場から。メクリがヒザの小菊となっている高座に、前座の与いちが上がり、高座返し。寄席の雰囲気…。「鈴本でやっているからって、来ないでね!7億3千万人くらい、来ちゃうから。三密は守ろう」と洒落で注意喚起。9日間の配信を観て、色々な人が色々なことを言うと。「真っ直ぐに古典を」と意見する人に言いたい、「小言は言うべし、酒は買うべし」。この10日連続配信をやったのは、いの一番に「しゃべりたい!」という気持ち。その次は、週に落語を3~4日聴くような「気の触れた人」が、ナマが聞けない。平和な時代は毎日のように聴いていたのに、こういう状況になると、「別に大丈夫かも」と気づいてしまう。落語なんて無くても生きていける。不要不急。我々はそれでおまんまを食っている。でも、不要不急が文化を生むんですよ。だから、「つなぎ」でやっているんだと。

覚えていて!という気持ち。色々な芸人さんが有料、無料含めて色々なことをやっている。三三兄さんの配信(19時~20時、同じく無料のYouTube配信)をさっきまで聴いていたけど、こういうちゃんとした芸を忘れないでほしい。だから、「初めて」という方も、是非(コロナ禍が収束したら)寄席へ足を運んで、ちゃんとした芸を聴いてほしいと。(人間国宝の)小三治師匠までが配信した。配信落語界は動いていると、熱く語った。

長くなってすみません。「春風亭一之輔10日連続落語生配信」は千穐楽が終わっても「春風亭一之輔チャンネル」でアーカイブとして残っているので、是非聴いてみてください。それで、落語って面白い!と気づいてくれたら、コロナ収束で寄席再開の暁には足を運んでみてください。不要不急ですが、いいですよ。一之輔師匠もライブが一番とおっしゃっていましたが、寄席の魅力はフラッと時間のあるときに立ち寄り、もう帰らなきゃと思ったら帰れる、そんな思いつきでいいんです。トリを目当てに行くのも選択肢ですが、何気なく立ち寄り、自分の好みを見つけてみる、もしくは、ちっとも面白くなかったという日もあるかもしれない。でも、2度3度通ううちに癖になる芸人がいるかもしれない。心に余裕がある贅沢な趣味かもしれません。こんな薦め方は時代遅れかもしれませんが、バラエティーショウと思って楽しむ寄席、良いです。