追悼 志村けん コントには人間の喜怒哀楽が詰まっている

NHK総合テレビで「となりのシムラ5」(2016年9月本放送)とBSプレミアムで「志村のコント 探偵佐平60歳」(2018年1月本放送)を観た。

志村けんさんが今年3月29日午後11時10分、新型コロナウイルスによる肺炎のために逝去した。享年七十。ご冥福をお祈り申し上げます。

僕の思い出はなんと言っても「8時ダヨ!全員集合」である。1969年放送開始だそうだが、多分、僕が見始めたのは小学3年生、だから73年頃だろうか。まだ、メンバーに荒井注さんがいて、「なんだ、バカヤロー」や「ジス・イズ・ア・ペン」と言ったフレーズがよみがえる。調べてみると、志村さんは73年12月にメンバー見習いになり、74年4月から荒井さんと入れ替えで正式メンバーになっている。僕は志村けんさんのデビューに立ち会っているのだね!

僕の家庭は厳しくて、1台しかないテレビ(本当は室内アンテナで見る古い白黒テレビが残っていたが)のチャンネル権は祖父が握っていた。また、平日は夜8時就寝と決められていた。だが、「同級生の話題についていけないと可哀想だから、土曜は特別だよ」と言われて、「8時ダヨ!全員集合」を見ることが許された。「ビバノン音頭」で「宿題やったか!」「歯を磨けよ!」のエンディングが終わると、「キーハンター」のオープニングテーマを聴きながら、洗面台で歯を磨き、床に就いたのを覚えている。ちなみに、僕が生まれて初めて買ってもらったレコードは「ドリフのズンドコ節」だった。

ドリフターズでは、やっぱり加藤茶さんが最初は好きで、「やったぜ、カトちゃん!」「スンズれいしますた」「ちょっとだけよ~、あんたも好きね~」「うんこチンチン」など、今でも脳裏に焼き付いている。

志村さんに夢中になったのは、月並みかもしれないが、少年少女合唱隊の「東村山音頭」からだ。僕の叔母が東大和市に住んでいて、その隣町だったので、すぐに馴染んだ。一丁目から三丁目まで、歌詞だけでなくメロディやテンポが変わるのもすごい、と改めて思う。「カラスの勝手でしょー」、ヒゲダンス、桜田淳子との夫婦コント「私って駄目な女ね。あなたの妻でいる資格なんかないわ」。今、改めてそのパロディやユーモアのセンスに驚くが、小学生の僕にも大受けだったのはすごい。ジャンケン決闘の「最初はグー」も、これで僕たち小学生の間でジャンケンをするときの、きっかけフレーズとして定着した。有名な「志村、うしろ!」をはじめ我々小学生への影響力は測り知れない。「ドリフ大爆笑」や「バカ殿様」も見たが、あの公開生放送というスタイルがお化け視聴率の理由だと思う。

その後の「変なおじさん」の「だっふんだ!」のフレーズは桂枝雀の「ちしゃ医者」から取り込んだものだとか、「バカ殿」のキャラクターは歌舞伎の「一條大蔵譚」のパロディだとか、後年になって知り、そのコメディアンとしての天賦の才能と熱心な勉強と緻密な計算に舌を巻いた。サザンオールスターズのデビュー曲「勝手にシンドバッド」が、志村さんのアイデアが基になっていたという桑田佳祐さんのコメントを知り、また驚いた。すごい!

「となりのシムラ5」

(脚本:内村宏幸・平松政俊・藤原ちぼり・たかはC・徳野有美/志村康徳)

#1馴染みの店 #2蕎麦屋 #3親の真似

#4相談焼肉

部長(志村けん)に相談する部下のOL(吉岡里帆)の思わせぶりなフレーズ。「やっちゃえばいいじゃねぇ?とか言うんですよ」「私、好きな人としか、そういうことしたんくないんで」「若い男性に興味ないんです」「年上なら年上なほどいいんです」。これに、一つ一つリアクションする志村さんの表情が実に良い!

#5決まりなんで

#6二人きり

息子と娘が今夜は家に帰らないと連絡があり、「ふたりだけって、タカシが産まれた15年前以来?」と、戸惑う夫(志村けん)と妻(岸本加世子)。話題もないので、テレビをつけると、ライオンが交尾している映像に「妊娠しにくいため、1日に50回ほど行為を続けます」のナレーション。チャンネルを変えると、今度は「夫が元気で、週3回なんです。おかげで子供は5人いますが、まだ次の子がほしいと言うんです」という中年女性のインタビュー。またチャンネルを変えると、「離婚の原因は夫のセックスレスでした」という女性の告白。久しぶりに夫を誘う岸本、戸惑いながらも徐々にその気になっていく志村。阿吽の呼吸、見事!

#7娘の相手

娘が付き合っている男性を家に連れてくるという。訪れたのは身長195センチでアフロヘアの外国人・ジョージ(副島淳)。カナダ出身で日本文化に惚れて留学しているという。「お口にあいますかどうか」「どうぞおかまいなく」「すぐおいとましますので」と流暢な日本語が飛び出し、戸惑う父親(志村けん)。庭の盆栽を見つけて「五葉松ですね」「瑞祥でしょうか」「赤玉土を使っていますね」と専門用語に、さらに戸惑う志村。「お茶の淹れ方も娘さんから教わったんです」と、父親に日本茶を淹れ・・・。こんな礼儀正しい男性と娘が結婚するなんて!

最後のコントに、さだまさしの「秋桜」が薄っすらと重なり、ジーンとした。

「志村のコント 探偵佐平60歳」

(原作:樋口有介「探偵木野塚佐平だ」 脚本:内村宏幸・平松政俊・戸田幸宏/志村康徳)

警察官を定年退職した木野塚佐平(志村けん)は、私立探偵になると言い出した。事務所を借り、トレンチコートをまとい、バーボンを飲み、葉巻を加え、英字新聞を読む。形から入る。「美人秘書が必要だ!」と募集広告を出す。「容姿端麗、年齢20代~30代、胸囲86センチ以上、身長160センチ以上」。でも、3日経っても、一件も問い合わせなし。

事務所に観葉植物を運んできたアルバイトの女子大生(伊藤沙莉)がその状態にあきれるが、志村の心理をズバズバと推理するのを見込まれて秘書というか、探偵助手に採用される。ようやく最初の依頼が来たかと思ったら、同じビルに住む日本金魚愛好家協会の会長(堀内敬子)が金魚新聞に公告を出してほしいと頼みにきただけ。だが、胸の谷間を強調し、細い足を組み替える色気ムンムンな彼女の言いなりで、広告費8万円を出すはめに。

初めての依頼が来た。世田谷に住む女性から誘拐犯の捜索だ。だが、誘拐されたのはアズマニシキという金魚。ただ、依頼主がなんと昔、「女子高生ブルース」でデビューし憧れの的だった元俳優の高峰和子(高橋惠子)。早速、助手を連れ、自宅へ。誘拐されたのは2年連続金魚のキングオブザイヤーに輝いた「大将」、1000万円するという。聞き取り調査を開始。

第一発見者のお手伝いさんが実はハーバード大学に通っていると和子が言っていた息子タカヨシは、医学部受験に3年失敗し、6年ひきこもりで自宅にいると。犯人は息子だ!と単純な志村に、助手は「裏で操っている真犯人がいる!」と推理。タカヨシに訊くと、出会い系サイトで知り合ったアヤちゃんに頼まれたと告白。指定された場所に行くと、いたのはアヤになりすましていたチンピラ48歳と子分たち。狙いは1000万円じゃない、大富豪が2億で買いたいと言っているんだよ!と。乱闘。志村は意外にも活躍。銭形平次なみに500円玉を投げつけ、チンピラ連中を撃退した。

と思った矢先、金魚新聞の巨乳が現れた。「8万が2億に化けたわ」。ピストルをつきつけられ、助手は渋々、発泡スチロールに入った金魚を手渡す。だが、巨乳が中国人大富豪に金魚を渡そうと、中を開けると、そこにはおもちゃの金魚が!助手がホンモノとすり替えていたのだった。問題解決!喜ぶ和子。

推理小説のようで、喜劇仕立て。原作の面白さ、脚本の見事さはもちろんだが、志村けんのコメディアンとしてのとぼけた味わいが光る。脇を固める俳優たちも巻き込む上手さもある。DVD-BOXとかで発売されないかなぁ。

人間の喜怒哀楽を笑いに包んで届けてきた志村さんは、山田洋次監督の映画で主役が決まっていたという。惜しい人を亡くした。合掌。