【プレイバック 思い出の高座】柳派の“先祖”談洲楼燕枝作「嶋衛沖白浪」に挑戦 柳家三三

ネット配信で「三三ライブ配信 四月は四週連続木曜日!今日も厳選一席」を観ました。(2020・04・16)

柳家三三師匠が冒頭、「今日は本来、『月例三三独演』配信版」「お囃子さんと二ツ目さんにご協力いただく番組でしたが」「『密』を避けるため」「私ひとりで一席の形でお届けします」「ご容赦ください」「m(__)m」と紙芝居方式でお詫びをしました。とんでもないことでございます。3月とは状況も変わってきているのですから、4週連続で師匠の噺を一席ずつ聴けるだけでも幸せです。先週9日は「五貫裁き」。この日は「茶の湯」でした。23日、30日も楽しみにしています。(Twitter「三三のひとりごと」アカウントをフォローすれば情報がはいりますよ。無料です)

この日は冒頭、噺家仲間とウェブ上で雑排を愉しんでいると言って、そのやり方を紹介。「洒落附おめでたい物事一切」と「折句附はなし」の2種類を説明してくれました。前者は、例えば「鶴」を頭にもってきて、普段使っている言葉を洒落るという遊び。来る→鶴に変えても、「鶴者はこばまず」はOKだが、「明日は必ず鶴」はNGだと。後者は「あいうえお作文の川柳版です」と。「は〇〇〇〇、な〇〇〇〇〇〇、し〇〇〇〇」で五七五を作ってくださいと。「はずかしい、などと思わず、洒落を言う」とか?わかりやすかったです。

さて、4月4日のブログでは「月例三三独演」の15年を振り返ってみましたが、その中でも印象に残っている、2016年7月から12月の6ケ月連続で談洲楼燕枝の「嶋衛沖白浪」を全12話で口演したことについて書きたいと思います。

【談洲楼燕枝】

1837年、小石川春日町の生まれ。56年初代春風亭柳枝に入門し、傳枝。61年真打昇進して柳亭燕枝。九代目市川團十郎と親交が深かったことから、85年、初代談洲楼燕枝を名乗る。柳派の頭取でもあり、自作の長編人情噺も数多く、三遊派の巨匠・圓朝と双璧をなした。「レ・ミゼラブル」を翻案した「あわれ浮世」なども。「燕之巣立実痴必読」、いわゆる燕枝日記は幕末から明治にかけての落語の貴重な資料となっている。奇しくも圓朝と同じ1900年没。

最初に取り組んだ「談洲楼三夜」のプログラムに師匠が書いた文章が柳派のご先祖・燕枝への敬意の念が伝わるので、以下抜粋。

数年前から漠然と「いつか談洲楼燕枝の噺ができたら」と思っていましたが、実現するとなると「ホントにいいのかな」なんて弱気になったり…。それでもここまでこぎつけたのは「柳派のご先祖さま」への思いと「案外興味深い噺だよ、これ」ということ。さて、三日間どうなりますか…。

※「嶋衛沖白浪」ザックリとしたあらすじ(矢部まとめ)

下総国佐原の穀物問屋の長男・喜三郎は恩義からわざと勘当され侠客の世界へ。悪質な借金取り立てをされていた芸者・お虎を救い、それがきっかけで恋仲に。二人は巾着切りの小僧や性悪の坊主、ワケありの博徒など小悪党たちと運命の糸でつながり、さらに様々な人物と絡み合いながらストーリーが展開していく。この5人がそれぞれに流罪となった三宅島で再会。島役人の騙して島抜けを企て、這う這うの体で銚子に全員無事漂着するが。最後は正義感の強かった喜三郎だけが畳の上で死ねたという波瀾万丈の人間ドラマ、大スペクタクルだ。

三三師匠はこれまでに3回通し公演をしている。

2010年11月16日~18日 三三談洲楼三夜@紀尾井小ホール(全6話)

2011年5月~10月 柳家三三六か月連続公演 嶋衛沖白浪@横浜にぎわい座(全12話)

2016年7月~12月 月例三三独演 嶋衛沖白浪@イイノホール(全12話)

初演全6話のときは、島抜け5人の船が銚子に漂着したところで終わっている。そのときも、「実はこれで終わりではない」と最後に「その後の粗筋」を付け加えた。翌年にそれ以降をにぎわい座で演じているところをみると、プログラムに「案外興味深い噺だよ、これ」と本人が書いているように、取り組んでいるうちに自身がこの噺にのめり込んでいった様子が伺える。※当時、TBS「情熱大陸」で、この取り組みを中心に三宅島取材も含めたドキュメンタリーが放送された。

全12話にしたときには、途中に小三日月僧・庄吉が喜三郎に巾着切りの現場を取り押さえられ、改心して義兄弟の契りを交わして別れるエピソード、湯島根性院の性悪の納所坊主・玄若が強請りの男を殺めた罪を住職になすりつけたが露呈し島流しになったエピソード、この2つを三宅島での再会の伏線としてそれぞれ独立した話として加え、第8話がいわゆる島抜けで、5人の船が銚子に漂着するところまで。9話以降が漂着後の5人のストーリーに。

僕なりに1話ずつ、ボディコピーのようなものを作ってみた。

①佐原の喜三郎、任侠の世界へ。運命の女性、芸者お虎と出会う

②馬差しの菊蔵が逆恨み。喜三郎は芝山の仁三郎宅へ乗り込む

③少年巾着切り庄吉を取り押さえ。改心させて義兄弟の契りを結ぶ

④坊主玄若、住職を強請る男を悪用し甘い汁。その男殺害で流罪に

⑤お虎、花魁・花鳥に。喜三郎そっくりの梅津長門と出会う

⑥金策に窮し物持ちを殺害した長門を逃がし、花鳥は吉原に火を放つ

⑦喜三郎、お虎(花鳥)と三宅島で再会。三日月小僧庄吉とも。

⑧納所坊主玄若も参加、島抜け。嵐と幽霊と格闘するも銚子に漂着

⑨お虎と喜三郎、菊蔵を討ち、念願果たす。金に困り美人局をするが

⑩そこに浪人・春木道斎、登場。その正体はなんと梅津長門!

⑪女中お峰は梅津長門が殺めた物持ちの娘だった!密告でお縄に

⑫長門、花鳥は張り付け獄門。喜三郎は牢から解放、畳の上で死す

その後、三三師匠は2017年5月~10月連続で、大阪、名古屋、福岡で「たびちどり」と題して、6回12話の同様のスタイルで地方公演している。

講談の連続物と同じような感覚で、「その次はどうなるの?」と聴き手を噺の世界へ引き込むストーリーテラーぶりは、以前から「年枝の怪談」や「髪結新三」などで十分わかっていたが、この「嶋衛沖白浪」で、その才能をいかんなく発揮した。

「東京かわら版」2010年8月号の「今月のインタビュー」で、「三三談洲楼三夜」について師匠は次のように話している。以下、抜粋。

今年(1010年)はほとんどネタおろしをしていないので、何かを自分に課さないとと思っていました。(中略)普段は心にひっかかっていくる噺をしゃべりたいという感じなのですが、日々の中で、あれ、この場面ってあの落語のあの場面と同じじゃん!って思ったとたんに、今まで見向きもしなかった噺を急に面白く感じたりします。逆に以前、あれほどやっていたのに、できるでしょ?って言われても、もう筋もよくわからない…ぐらい忘れてしまうこともあって、それで自分に負荷をかけなくてはいけないと思ったのが11月の会(「三三談洲楼三夜」)です。以上、抜粋。

その後、「清水次郎長伝」の動物パロディ版である三遊亭白鳥師匠作「任侠流れの豚次伝」全10話通し口演でも、その才能を再び認識することになる。何年後になるか、わからないが、いずれまた柳家三三による「嶋衛沖白浪」再演が実現する日をじっと待っている。