「月例三三独演」の15年 柳家三三の落語への情熱はいつまでも

ネット配信で「月例三三独演」(2020・03・13)「三三年度末総決算」(03・31)を観た。

※4月16日の「月例三三独演」も休止、ライブ配信が決まったと発表されました。なお、4月は9日、16日、23日、30日と「四月は四週連続木曜日!」と題し、19時からYouTube「三三のおすそわけ」でライブ配信します。詳しくはTwitter「三三のひとりごと」をフォローすると最新情報が得られます。ちなみに、9日は「五貫裁き」でした。

三三師匠が真打昇進した2006年末、年末年始の特番を数本まとめてPRするミニ番組制作を担当した。三三師匠が高座で、八五郎と隠居がやりとりしながらPRしたいという提案に、三三師匠には「面白そう!」と賛同いただき、「ヤナギヤサンザ?知らないなぁ・・・」と言うプロデューサーを口説いた。あれから13年余り。最近、そのプロデューサーとバッタリ遭遇し、「サンザ師匠って、すごい落語家だね」と言われた。自分を勇気づけてくれた三三師匠には感謝の気持ちでいっぱいです。

「月例三三独演」の3月公演は新型コロナウイルス感染拡大防止を鑑み、イイノホールからのネット生配信を実施。さらに、福岡イムズホール「毎年三月三十日は三三の日」中止を受けて、30日・31日の2日間、師匠ご自身が工夫を凝らし、配信された。

13日「月例三三独演」 「加賀の千代」/柳家三三 「舌打たず」/立川吉笑

お囃子教室/長澤あや他 「花見の仇討」/柳家三三

30日「三三年度末総決算」 「釜泥」/柳家三三 扇子と手ぬぐい 「妾馬」/柳家三三

30日「三三年度末総決算」 「道灌」/柳家三三 着物の着替え 「粗忽の釘」/柳家三三

不要不急の外出自粛が叫ばれる中、師匠の試みは実に意欲的で、無観客というやりづらさはあるだろうが、この社会情勢で噺家が何ができるかを、率先して模索している姿に心打たれた。ここに柳家三三の落語への絶えることなき熱意がある。

「月例三三独演」。スタートしたのは、翌年に真打昇進が決まった2005年5月。日暮里サニーホールだった。「道灌」「文違い」「五目講釈」。師匠が子供時代に落語に興味をもったきっかけである「文違い」をかけて、その思いを熱く語ったのが印象的だった。7月「加賀の千代」「千両みかん」「試し酒」。12月「壺算」「夢金」「睨み返し」を聴いている。

06年3月21日より真打昇進。6月に紀尾井ホールでおこなった真打昇進披露目の会に行っている。三之助「初天神」市馬「七段目」小三治「道灌」/口上/正楽/三三「茶金」。ちなみに、披露目の会は2日間で、前日には談春、小朝、鏡味仙三郎社中が出演している。口上には出演者のほか、〆治、喜多八、燕路、禽太夫と小三治一門の真打が勢揃いしていることが、いかに当時から期待されていたかがわかる。

そのときに配られた口上書きの小三治師匠の文章が興味深い。

三三が小田原の高校を出て、私の門を叩いたのは十三年前のことでございました。中学二年の時に、噺家になりたいと親共々のアプローチがありましたが、きちんと高校を出てからと申し渡しました。なにせまだ子供のこと、学校に行っている間に気が変わるだろうと突き放したつもりでしたが、効き目はありませんでした。(中略)最初に教えたのは「大きな声を出せ」でした。(中略)一年も経ったころ、次の注文を出しました。「大きな声はもうやめろ。そしてあとは落語らしくやれ」でした。以後この男には何も教えていません。そしてここまで来ました。私は驚いています。一方ならぬ思考や努力をして来たのでしょう。どうか皆さん、喝采をしてやってください。免許皆伝です。

(中略)三三に教える三つ目はこれしかありません。「落語らしくやれ」はもういい。あとは「人間として人間を語れ」です。が、どうすれば豊かな人間になれるのか、魅力溢れる人間になれるのか、残念ながら教えてやることは私には出来ません。何故なら私自身がいまだに分からずに毎日毎日もがいているのですから。柳家三三、これから先、どうなるのでしょう。楽しみでございます。

柳家小三治

その後の成長ぶりは、ご存じの通りだ。「月例三三独演」は06年お江戸日本橋亭、07年1月からは内幸町ホール。「甲越軍記」「寝床」「たちきり」。09年1月からは国立演芸場に。「宿屋の仇討」「文七元結」。12年8月から、現在のイイノホールへ。「悋気の独楽」「乳房榎」。

談春師匠が二ツ目時代から三三を買っていたのは有名な話だ。06年10月の談春七夜の開口一番に起用し、第六夜では「乳房榎」を三三「おきせ口説き」~談春「重信殺し」でリレーをやった。その「乳房榎」をイイノホールでの第一回「月例三三独演」にもってきたのも意識的だったのかもしれない。

08年6月には談春師匠の助言で、「三三三十三歳三夜三宅坂」を開催。初日「道具屋」「三方一両損」「山崎屋」仲日「道灌」「三軒長屋」「崇徳院」千穐楽「だくだく」「三味線栗毛」「笠碁」。そして、千穐楽には、談春師匠がサプライズ出演して「おしくら」を演じた。

08年の「月例三三独演」では、夏の強化合宿と題して、紀尾井ホールで7月「宗悦殺し」「死神」、8月「帯久」「唐茄子屋政談」、9月「髪結新三」「御神酒徳利」をかけたのも懐かしい。

10年11月16~18日に、やはり紀尾井ホールで「談洲楼三夜」と題し、「嶋衛沖白浪」を2話ずつ、全6話に取り組み、その様子を中心に「情熱大陸」で取り上げられたっけ。16年に「月例三三独演」で7月~12月の6回、2話ずつ、全12話に膨らませて演じたのは記憶に新しい。常に挑戦する噺家・柳家三三。その落語に傾ける情熱は絶えることがないだろう。