なんじゃこりゃ!な音楽の略歴が魅力に 音曲師・桂小すみ

神楽坂アートサロン香音里で「邦楽器と洋楽器の弾き語り 桂小すみ」を観た(2020・03・20)

桂小すみが、2019年度花形演芸大賞銀賞を受賞した。おめでとうございます!去年3月下席から音曲師として高座デビューして1年。お囃子の松本優子という方が演芸ファンには馴染み深いかもしれない。14年務めた落語芸術協会の寄席のお囃子さんから転向し、17年末に桂小文治門下へ。およそ1年間の前座修業を経ての高座デビューだった。

読売新聞記者の長井好弘さんが東京かわら版3月号の連載「今月のお言葉」で母校・横浜翠嵐高校で講演した際の略歴が出てきたとして、以下のように紹介している。

<吹奏楽部でフルート・ピッコロ、大学で三味線・尺八に出会う。音楽の教員を目指していた大学在学中ウィーン国立音楽大学に国費留学し、ミュージカルを専攻(中略)。三味線弾きを志してからは江戸文化へ「留学」。> なんじゃこりゃ。和洋の音楽修業が交互に出てくる摩訶不思議な、でも魅力的な経歴だ。

18年夏に「神田松之丞がいざなう怪談の世界」、20年正月に「神田松之丞がいざなう講談の美学」(いずれもNHKラジオ)で、小すみさんが出演されたが、タダモノではなかった!夏には「怪談牡丹燈籠」にちなんだ「萩と露」を作曲し、演奏。正月には、あの宮城道雄「春の海」(通常は琴と尺八で演奏)を、三味線と唄で演奏。唄の歌詞は万葉集からもってきたのだという!

12年に亡くなった三味線漫談のレジェンド・玉川スミ師匠に「あんたの高座を見ないと死ねないよ」と言われ、それは実現しなかったが、その「遺言」を胸に高座に満を持してデビューした。スミ師匠直伝の「越後獅子」の替え歌、「種尽くし」は、今や寄席の高座の定番となり、今年1月6日の「すっぴん!新春おめでた演芸会」に生出演いただき、披露してもらった。そのときには、ホイットニー・ヒューストンの代表曲「I will Always love you」のメロディーラインを三味線で弾き、そのサビの歌詞と「めでためでたの若松様よ」の「花笠音頭」を入れ小細工にして唄うという高座も披露。小すみさんいわく「これは、去年開発したものです。歌詞が七七七五になるんですよ」と言っていた。まさに、天才現る、である。

で、この日の会は、ピアノと三味線を交互に弾きながら、邦楽と洋楽の違いや共通点を面白く解説してくれて、音楽の通信簿が悪かった僕にも大変に興味深く聴くことができた。

元々、「人間になる」ためにあるものとして、音楽、踊り、医学、祈りの四つが古代からあったという。仏教の世界では、山に喩えると、人間が6合目。それより下が修羅。「俺は優位だ」と言いたい。その下が畜生。恥を知らない。さらにその下が餓鬼。モノを欲しがる。そして地獄がある。人間の上にあるのが、天上界や菩薩。仏教に詳しい人だと正確さに欠けるだろうが、小すみさんの説明はとてもわかりやすく、だからこそ音楽があるのだ、という説得力を感じた。

都々逸。一番彼女が好きなのは・・・信州信濃の蕎麦よりも わたしゃぁあなたの傍がいい、だそうだ。だだ口に出して唱えるだけでも素敵なのに、これが三味線にのるとすごくいいのよね。隅田川さえ竿さしゃ届く なぜに届かぬこの思い。こりゃまた、いいね!ヤンヤ、ヤンヤ!

この2つの都々逸を、ジャズの名曲「テイク・ファイヴ」の三味線にのせて、唄うと、これがまた全然雰囲気が違って、最高!小すみさんは、寄席でも「ゴンドラの唄」の演奏のアンコにガーシュインの「Someone To Watch Over Me」を入れたり、「伊勢音頭」とマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」をミックスして「マライヤ・キヤリー」にしたり。ちなみに、木遣りの洒落なんですが(笑)

邦楽では「六段の調」「春の海」と並んで3本の指に入る「花の雲」。通称「助六」。今年5月から予定されている海老蔵改め團十郎春猿襲名でも、成田屋十八番「助六所縁江戸桜」が上演されるときに出端の唄として河東節で旦那衆が演奏するけど、その基(?)になった「花の雲」を演奏。♪鐘は上野か浅草か ゆかりの色の鉢巻きも 江戸紫や伊達姿 堤八丁衣紋坂 大門くぐる助六に 煙管の雨が降るように~。もう、しびれちゃいます。で、後日ネットで調べると、歌舞伎の助六の河東節は置唄になっていて、傘差して~からはじまるらしい・・・また、鐘は上野か浅草かは、芭蕉の句らしい・・・とか、「音楽苦手!」と思っていた僕が興味を持って調べちゃうくらいに、面白いお話をしてくれるんですね。

あと、面白かったのが、出囃子の「前座の上り」。まず、三味線で弾いてみて、これはおなじみ!と思わせて、今度はピアノで弾くと、実につまらない。それは単音だから。これをハーモニーで演奏すると、今度はピアノ演奏が実に綺麗に聴こえ、お見事!と言いたくなった。それは邦楽の楽器は雑音が多いのが魅力なんだと。尺八は吹いて出る音だけじゃなくて、漏れる息の音を含めて音楽だと。そこがフルートと違うところだと。なるほど!だから、邦楽は自然とハーモニーになっているのね!(小すみさん、間違って解釈していたら、ごめんなさい。)

長くなって、スミマセン。最後に、ガーシュインの「The Man In Love」という曲は、「いつか好きな人が来るに違いない。そうしたら、彼に尽くしたい。いつかしら?何曜日かしら?」というメッセージなのだけれど、小唄の「さのさ」を続けて聴くと沁みる。♪紺の法被にね 書いてある 火消し小頭と書いてある あの花は粋な花だよ よその花 いくら火消しの小頭でも 恋の炎は消されまい~。

30人ほどのお客様の中には音楽に詳しい方もいらっしゃって、邦楽が地声、洋楽は裏声、声帯の使い方が違うという、小すみさんの説明に、「ファルセットは?」という専門的な質問が出て、それをわかりやすく答える小すみさん。僕には難しくてわからなかったけど、素敵!と思った。最後に、お客さんと一緒に名曲「エーデルワイス」を合唱してお開き。僕は小学校時代に和訳の「エーデルワイス」を音楽の授業で習って歌った記憶しかなくて、「ハミングでいいですよ」との配慮に甘え、英語で歌う人たちにまじって、鼻歌でごまかしておりました(笑)