どこからお話ししましょうか 柳家小三治の魅力

日本橋公会堂で「柳家小三治独演会」を観た(2020・03・12)

小三治師匠いわく「今月最初で最後の仕事」だそうである。

で、ご存じの方も多いと思うが、この高座で師匠が喋った内容が詳細に新潮社のウェブ記事に掲載され、問題になっている。明らかに録音して書き起こしたもので、主催のいがぐみも、小三治事務所も許可どころか、全く知らされていなかった。16日に抗議をしたが、返事がないと先週の段階でいがぐみさんがツイートしていた。昨今の新型コロナウイルス関連の自粛要請の中で開催された独演会で人間国宝が何を喋るか、注目が集まる目算の悪質なルール違反の取材。大手出版社にあるまじき行為だ。

落語ファンとしては興味があり、僕はキーワードだけメモして、あとは記憶をたどって、このブログを書いていることをお断りしておきます。その分、不正確かも?と不安になったところは書かず、確かなことだけ書きました。

二上りカッコが鳴ると、小三治師匠はマスクをして高座へ。立って、客席を見回し、「マスクをしていないのは7人ですね。では、8人目になりましょう」と、座布団に座る。(コロナ関連で仕事がキャンセルになり)今年1月に直木賞を獲った「熱源」(川越宗一著)を読んでいると。アイヌの人々を描いた小説。「で、何を演るんだろう?と思われているかもしれないが、私の方が何ができるんだろう?です。忘れています、たいがい。商売と思っていないからね。世迷言?暇つぶし?」・・・「旭川の刑務所の仕事もキャンセルになりました」。

「無駄話をしていると、制御できない。早く終わってくれとだけ言われているので。えーと、リクエストありますか?でも答えられません」と断って「知らないのに、知っているふり・・・」と、「千早ふる」に入るか?と思ったら、脱線。

楽屋に弟子がいっぱい来ている。三三とか、三之助とか。「トム・ハンクス」という名前が突然出てきた。奥さんが新型コロナに感染したことが報じられたからか、と思ったら、トム・ハンクス主演の「キャスト・アウェイ」の話題に。固有名詞はなかなか出てこないので、袖のマネージャーに時々助けを借りながら。

メモなので、小三治風に書きます。「印象的なのはね、飛行機が落ちて、無人島に漂着するんです。そこにあった・・・バレーボールを可愛がるの。血を分けた子どものように。そこにはウィルソンと書いてある(メーカー名)。そのボールが海に流れてしまう。そして、心から泣くのです。ウィルソン!と叫んで。でね、(コロナ感染の)奥さんの名前が(リタ)ウィルソン。いい話なんですって!みんな、病気だよ!」。フフフ、小三治師匠らしいです。

「知らないと言えない知ったかぶりはよくないが、もっと良くないのが、知っているのに知らないふり。記憶にございません、ってあったでしょ。それで、知らないのに知らないふりをするのは一番よくないです」と、ようやく「千早ふる」へ。小三治ワールドですね。これで、中入り休憩。18:30開演、20:30終演と入り口に書いて貼ってあり、もうすでに20時を過ぎていたので、あとは「小言念仏」かな、と思っていたら・・・さにあらず!

先日、朝日賞を受賞して、「今月から朝日新聞をとるようになった」と。で、泥棒のマクラに入った、と思ったら、田中角栄から安倍首相の話題になり、「以前からオリンピックなんか、やめろ!そんなことやっている場合か!」と言っていたと。開会式で落下傘が下りたり、ジェット機が上空を飛んだりするのが嫌い。「何なんですか、あれ!」。「駈け出したり、飛んだり跳ねたりするのは大賛成なんですけどね」。要は派手な演出など不要。純粋なスポーツが観たい。御意!

話が元に戻り、「これまでは読売(新聞)をとっていた。朝日?と聞くと、共産党の新聞でしょ?という人がいるけど、それは赤旗です。でも、落語の仕事で赤旗まつりにも行ったなぁ。ポスターに小三治と名前が出ていると心外でしたがね。純粋に訊いてくるなら、右翼でも左翼でもなく、普通の人間です。人間に興味をもって(この仕事を)やっているだけ」。「ウチの女書記長(マネージャー)がドキドキしながら聞いていますよ」。

オリンピックの話に戻り、「無観客でやればいい」。「これみよがしに、俺のところには金がある。立派な競技場を作れるっていうのがね。火(聖火?)で焚火でも、焼き芋でも、バーべーキューでもやればいい」「利権が嫌。運動は好きなんですよ。徒競走とか、クラスで一番遅かった。家族は剛蔵(小三治師匠)が走るのを見るのが嫌だった。一生懸命走る顔が嫌だったみたい。早く走る方法とか、研究したんです。でも、早くならなかった」。「でもね、高校のとき、成果がちょっと出た。100メートルを、15秒ちょっとで走れた。いつもは18秒くらいかかるのに。うれしかった。がんばればできるんだと」

「で、この世界に入りました。名前が残るというのはすごいことです。きょうは、よく来てくれました。うれしいです。明日死んでも忘れない。死なないよ!」と、笑い飛ばし、「日本橋浜町・・・」と「転宅」をたっぷり。21時終演。いがぐみさんと小三治事務所が、アルコール消毒や体温測定、マスク着用励行、体調のすぐれない人には来場せずに払い戻し対応するなど、あらゆる感染拡大防止を講じていただき、感謝申し上げます。

※なお、4月3日に予定されていた柳家小三治独演会@赤坂区民センターは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、6月4日に延期になったそうです(立川企画より連絡あり)