本寸法に面白い 春風亭正太郎
西早稲田アントで「正太郎の部屋」を観た。(2020・03・06)
※4月7日に予定されていた「正太郎の部屋」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、中止になりました(正太郎事務局のツイッターより)
春風亭正太郎。2006年4月正朝師匠に入門、11月楽屋入り、とある。僕が転勤で長野から東京に戻ってきた04年の2年後だ。僕のサラリーマン生活のちょうど半分を終えたころに、正太郎さんは噺家デビューしているんだね。開口一番で高座にあがったときに、「達者だなぁ。落研出身?」と思って調べたら、明治学院大学落研だった。そう、師匠・正朝の後輩だ。「その縁で入門したんだね。落研出身は、まずその色を捨てなきゃいけないと言われるけど、楽しみだね」と、生意気にも妻と話した覚えがある。
その後はあまり気に留めていなかった。2009年に二ツ目昇進。今こそ二ツ目に光が当たっているが、当時はそうでもなかったので、ほとんど覚えていない。僕の記憶にあるのは、2015年の北千住、談春師匠30周年落語会での「反対俥」、巣ごもり寄席の「棒鱈」。翌年の橘蓮二プロデュース「焦点」での「佐々木政談」、シブラクの「船徳」。
でも、強烈に「この人、好き!いい!面白い!」と思ったのは、2017年の喬太郎師匠と一緒に欧州公演に行ったときの、壮行会での「引越しの夢」、凱旋公演での「河豚鍋」。というか、落語もそうだが、会の進行ぶりや、喬太郎師匠とのかけあいトークが実にうまかった。
そして、縁あって、2018年度に担当番組の「すっぴん!」の「ひざウチ!ふにオチ!」という情報コーナーのレギュラープレゼンターとして粋歌さんと二人交代で隔週毎日出演いただいた。その情報処理能力のすばらしさ、リポートする内容以外に、その日のおたよりテーマに沿って近況や最近の面白エピソードを喋る軽妙洒脱な話しぶりに舌を巻いた。
2011年6月から毎月、同級生が経営するカフェで勉強会「正太郎の部屋」を開いているが、僕も虜になり、18年から行くようになった。去年、その会に5回行ったのを含め、ネタを22席聴いた。11月が100回記念だったが、キャパ30人くらいの規模の会場を拡大せずに開催、こみち師匠と小太郎さんをゲストに招き、サラッと「湯屋番」と「芝浜」を演ったのが正太郎さんらしい。
終演後に希望者だけ残り、懇親会をやるのだが、これが愉しい。正太郎さんはその日の演目について伺うと、自分の了見をちょっとだけ喋ってくださる。落語ファンの素人が質問するのは失礼だし野暮なのは百も承知だが、嬉しいものだ。「夢金」の本来(?)のサゲ「股座を掴んで100両~」について。「子別れ」の熊さんの女房や子供に対する裏切りを、簡単に許せるものなのか。「佃祭」の次郎兵衛さんの弔いの悔やみでの素直な与太郎には泣ける。「鼠穴」の兄を夢の中とはいえ、あんなに嫌な奴に描きたくない・・・等々。
そして、今回は「鼻ねじ」「長屋の花見」「三方一両損」。「鼻ねじ」、上方の珍しいネタに挑むのが嬉しい。「長屋の花見」は、店子連中が貧乏花見を楽しんでいる様子が好きだと。「三方一両損」の江戸弁は、去年7月の「正太郎百貨店」でネタおろしした「大工調べ」(通し)同様、啖呵が実に鮮やかだ。順当にいけば、来年春に真打になると思われる。ますます楽しみ!