「むふふ」なユーモア 桃月庵白酒のスピリッツ

なかのゼロ小ホールで「白酒むふふ」を観た。(2020・02・26)

桃月庵白酒師匠の高座の魅力のひとつに、マクラがある。小三治師匠のようなその日の気分で徒然なるままにという随談のようなものも愉しいが、その時節を捉えた社会のニュース、トピックス、ゴシップなどを白酒師匠らしい皮肉にくるんだ笑いにするのが大好きだ。

よく毒舌二人会みたいなキャッチコピーで、一之輔師匠や兼好師匠との組み合わせで落語会が開かれることがあるが、その「毒舌」やらは、この三人の師匠を比べても、それぞれに味わいが違って、むしろ「毒舌」ではないようにも思う。白酒師匠の場合は、サラッと大胆なことを言って、後に引かない。これも江戸前の古今亭の系譜なのだろうか。わかる人にわかればいい、これをみんなにわかるようにしちゃうと野暮とお考えだと思う。この日も、翌日に安倍首相の「自粛要請」が出る前というタイミングで、コロナ騒動の中のクルーズ船のことをサラッと「苦笑」にしていて、センスが光る。この独演会「むふふ」シリーズも2010年からはじまっていて、今回が第22回。「むふふ」という言葉に、師匠のユーモアのスピリッツがこめられている気がした。

調べてみたら、僕はそのうち17回伺っている。データベース的に記します。

2010・11 「禁酒番屋」「宿屋の仇討」

2011・04 「寝床」「井戸の茶碗」

08 「明烏」「妾馬」

11 「火焔太鼓」「木乃伊取り」

2012・02 「幾代餅」「二番煎じ」

09 「山崎屋」「宿屋の富」

2013・08 「千両みかん」「らくだ」

2014・09 「付き馬」「甲府い」

2015・05 「宗論」「錦の袈裟」「不動坊」

10 「粗忽長屋」「首ったけ」「抜け雀」

2016・01 「徳ちゃん」「風呂敷」「うどんや」

05 「馬の田楽」「今戸の狐」「干物箱」

09 「鰻の幇間」「死神」

2017・09 「徳ちゃん」「笠碁」「明烏」

2018・06 「厩火事」「寝床」

09 「文違い」「妾馬」

そして、なぜか僕の都合がつかなかったのだろう、2019年は伺っていなくて、今回、久しぶりに。「幾代餅」と「花見の仇討」。ご覧のように、ほとんどネタのかぶりがない。それはたぶん「むふふ」の根多帳があって、それを見て決めているのだろうし、ネタの豊富さを言いたいわけではなく、そのすべての落語に白酒師匠らしい「ちょっとした皮肉の笑い」がこめられているということだ。

「幾代餅」を搗米屋の職人・清蔵と花魁の純愛の人情噺として演じる噺家さんが大概だが、師匠は親方夫婦に、清蔵の身分違いの恋煩いを腹を抱えて涙を流して大笑いさせ、以降も滑稽噺のテーストにしている。また、幾代太夫が「来年三月に夫婦なる」約束をして骨抜きになった清蔵がボーッとしてしまい、「シャンガツー」と花びらを一枚一枚ちぎって、挙句には「ワンダフー(ル)」。スティービーワンダーか!

「花見の仇討」も、巡礼兄弟役の六ちゃんと勝っちゃんのコンビが、敵に巡り合って、刀で斬りつける演技の稽古の様子も、もともと花見の座興で仇討を考える馬鹿馬鹿しさが主眼の噺だが、それを幼稚園のお遊戯会のようにすることでデフォルメする。「親の敵!」のセリフを本番では「山のマタギ!」と言わせてしまうのも、皮肉にさらにエッジが効いている。

「むふふ」シリーズは、毎回、ミュージシャンやお笑い芸人をゲストに迎えているが、今回は冗談音楽の下八。下田卓さんとハッチハッチェルさんのコンビだ。ビートルズの「シー・ラブズ・ユー」を真面目に歌おうとすると、なぜかアリスの「チャンピオン」になったり、子門真人メドレーをやります!と言って、「およげたいやきくん」と「ガッチャマン」が行ったり来たりするだけだったり。このユーモアは、白酒師匠のスピリッツと通じるものを感じた。