春風亭一花真打昇進披露興行「親子丼」(くまざわあかね作)

新宿末廣亭の春風亭一花真打昇進披露興行八日目に行きました。

「牛ほめ」三遊亭歌ん太/「ん廻し」鈴々舎美馬/粋曲 柳家小春/「壺算」柳亭こみち/「猫の皿」春風亭柳朝/奇術 伊藤夢葉/「マキシムド吞兵衛」五明楼玉の輔/「一眼国」林家正蔵/紙切り 林家楽一/「強情灸」春風亭一朝/中入り/口上/漫才 笑組/「熱血!怪談部」林家彦いち/「めがね泥」春風亭一之輔/太神楽曲芸 鏡味仙志郎・仙成/「親子丼」春風亭一花

一之輔師匠の口上。一花に対し、客席から「浅草橋!」と掛け声がかかるのを受けて、「いいですね。僕は千葉の野田出身。野田!って、この後の高座で掛けないでください」(笑)。一花より少し兄弟子の一刀が今回の抜擢昇進で抜かれた形となり、関係がギクシャクするのかなと心配したが、その必要はなかった。披露パーティーで率先して手伝い、最後の一花の挨拶のときには一刀が号泣し、心の底から「嬉しかった」と言った。お互いの信頼関係が出来ている。一門全員が仲が良いのは、師匠一朝の自由な教育方針があったからだと思う、と。そして、「もう柳家の時代は終わりました!」と冗談を飛ばしていたのがとても良かった。

玉の輔師匠。つる子、一花、あんこで「おきゃんでぃーず」というユニットを組んで活動していたが、一花のすごいところは、つる子目当てのお客様のハートを鷲掴みにして、「一花もいいな」と虜にしてしまうところだ、と。披露目が始まって、きょう初めて髪を切った一花を差して、「QBハウス、1200円です」と笑いを取りにいくのも愉しい。

正蔵師匠。「一花抜擢単独真打昇進」が理事会で決定した顛末を、毎度の口上で自分が提案したかのように「嘘をつく」玉の輔師匠に対し、「来月から二ツ目降格です」(笑)。一花の高座は清々しい、人柄がそのまま高座に表れていると絶賛した。

一朝師匠。照れくさそうに「この子は可愛い」。田舎者の一之輔と違って(笑)、気遣いができて、頭が良い。高座の「出」だけで、面白そうと思わせるオーラがあるとも。自然にいいものを持っている。これは噺家にとって、もってこいの資質ですと褒め、今後のさらなる精進努力に期待した。

一花師匠の「親子丼」は、くまざわあかね先生の作品。とっても良い。夫に早くに先立たれたヤマダリナは、小学校4年生の息子ケンタに内緒で婚活をしていた。息子がいることを婚活相手の男性タノシタさんにもつい、言いそびれていたが…。母親リナの息子への気遣い、息子ケンタの母親に幸せになってほしいと思う健気さ、そして婚活相手のタノシタの優しさ。胸がキュンとなって、涙をこぼしてしまった。

ケンタが母親は会社の飲み会と言いながら、男の人と会っているのではと察する。そして、お母さんが独りぼっちになるのは淋しい、僕がいるから条件が悪くなる、彼氏を作ってほしい、作らないなら僕が生涯面倒をみるとまで言う。気を遣われる母親として息子に無理をさせていると思うほどつらいことはないだろう。

タノシタは婚活を一生懸命やっているが、その情熱が逆効果になるのか、何度も振られている。だから、リナから「話がある」と言われたときも、また振られるのかと思ってしまう。「僕って鈍いんですよね。一人だけ盛り上がってすみません」と謝るタノシタさんに共感する僕がいる。

リナは自分には息子がいるんだということをちゃんと伝えようと考えた。ずっと会っているのは、好きだから。悪くない。優しいし、男らしいところもある。だからこそ、騙すようなことは出来ない。言わなくちゃ、言わなくちゃと思っても、なかなか言えないでいたときに、携帯に「ケンタが階段から落ちた」という母親からの連絡。リナはタノシタに「ケンタが階段から落ちたんです!ケンタは私の息子です!」と言って、自宅に急行した。

ケンタは心配のいらないケガで安心した。だが、こういうことが起きるのも、私が男の人と会っているから…と自分を責める気持ちになってしまい、思い切り泣いた。そこに居酒屋でリナが忘れたハンカチを届けるために、追いかけてきたタノシタがいた。そして、タノシタは「これを渡したら、帰るつもりできました」。これに対する、リナのタノシタにぶつける謝罪が胸を打つ。

申し訳ありません。もう、お別れだと思います。小4の息子がいます。ケンタと言います。最低ですよね、隠したりして…。その話をしようと、大切なお時間をいただきました。申し訳ありませんでした。

そこに、ケンタが現れる。「おじちゃん!この人、お母ちゃんちゃうねん。おばちゃんやねん。おじちゃん!結婚したって!」。クラスで流行している吉本新喜劇で覚えた関西弁のケンタの言葉を聞いたタノシタは即座にこう言う。「良かったら、三人でご飯を食べにいきませんか。ちゃんとヤマダさんのことが知りたい」。

タノシタがケンタに訊く。「何が食べたい?カレー?ラーメン?ハンバーグ?鰻?」…。ケンタは間髪いれずに「親子丼!」。「親子丼はおじさんも好きだ」。するとケンタは「うちにおいでよ。お母さんの作る親子丼が一番美味しいんだ」。

母子の夕食の場面でケンタが「カレーより、親子丼が食べたい」と言っていた。そして、リナとデートしているときにタノシタが「今、親子丼にはまっている。ランチでよく食べている」と言っていた。その伏線を回収する見事なサゲ。一花師匠は、こういうほっこりした人情噺がとても良い。