春風亭一花真打昇進披露興行「不動坊」「三枚起請」

上野鈴本演芸場の春風亭一花真打昇進披露興行三日目に行きました。
江戸曲独楽 三増紋之助/「饅頭こわい」三遊亭仁之吉/「千早ふる」入船亭扇辰/漫才 すず風にゃん子・金魚/「祇園祭」橘家圓太郎/「一眼国」林家正蔵/ものまね 江戸家猫八/「蛙茶番」春風亭一朝/中入り/口上/浮世節 立花家橘之助/「苦節二十年」笑福亭笑利/「都々逸親子」五明楼玉の輔/紙切り 林家楽一/「不動坊」春風亭一花
向上の司会は扇辰師匠。平成25年入門、30年二ツ目昇進。芸の精進のみならず、プライベートも充実し、馬生門下の馬久(現・馬好)と結婚、「楽屋の皆が悔し涙にくれました」。その後も甘んじることなく努力を重ね、NHK新人落語大賞を受賞する破竹の勢いを見せ、真打に昇進と紹介。前座・二ツ目の10数年より、真打になってからの方が噺家人生は長く、これからが勝負と言っても良い。可憐な花がさらに大きな花となるようにと𠮟咤激励した。
圓太郎師匠。大学時代は演劇をやっていたそうだが、一花の落語には「芝居っぽい」ところがなく、余計なことをせずに、「落語をきちんとやる」ことに徹しているのが良いと評価した。ここで一句。一花の幟はねたり天高く。
玉の輔師匠。「去年暮れの理事会で、一花がNHKの賞も獲って飛ぶ鳥を落とす勢いがある、若手のモチベーションを上げるためにも抜擢で真打に昇進させるのはいかがでしょうかと手を挙げたのは私です」と言って、全員から「それは一之輔だよ!」と突っ込みを入れられる(笑)。女性真打と言っても、女を売りにした、「可愛いでしょ」というところが全くない、「桃花やつる子のように」と附け加え、司会から「理事降格してもらう」と言われる(笑)。玉の輔師匠らしい口上が愉しい。
正蔵師匠。池袋演芸場で毎月行われる二ツ目勉強会でトリが一花だった。今までは袖で聴いていて「達者だな」とは思っていたが、客席に座って一花が出てくるだけで客席を一花の色に染めたところを目の当たりして、「この人は真打に相応しい人だ」と改めて思った、と。可憐な色がこれからどんどん濃くなっていくだろう。一朝師匠の背中を追い、後輩が一花の背中を追う。その一花の背中を押すのはお客様ですとお願いした。
一朝師匠。初めての女性の弟子をどう扱ったら良いかと思ったが、心配は無用だった。一を聞いて十を知る、何でも出来る。10人の弟子の中で唯一の江戸っ子。他の弟子は「いなか」もの、でも田舎を馬鹿にしているわけではない、「井の中の蛙」の頭文字を取った言葉で、「モノを知らない人間」のことを差すのだそうだ。悪い虫が付いたらどうしようと思っていたら、「私が油断している間に持っていかれた。良い婿さんで羨ましい」とも。真打になって安心してはいけない、生涯修業、「これでいい」と思ったらお終いだと益々の努力を求めた。
一花師匠の「不動坊」。三年前におたきさんが引っ越して来たときに一目惚れして、頭の中がおたきさんでいっぱいになった吉五郎は「おたきさんは実は自分の女房で、今だけ不動坊に貸しているだけ」と思うようにしたという発想が面白い。浮かれて湯屋に手拭いの代わりに褌を持って行っちゃうのも仕方ないよね。
湯船に浸かりながら、喜んでばかりじゃいられないとおたきさんとのやりとりを一人気違いでやるところ。「惚れて一緒になったんじゃないんでしょう。借金のために仕方なく嫁に来たんでしょう」…熱い涙を流して、「それでは私の心はうまりません」。最後は「おたき!」「あいよ!」と呼び合って、湯船にブクブクと沈んでしまう滑稽がとても良い。
おたきさんのことが好きだった同じ長屋に住む鉄さん、万さん、徳さんの三人の嫉妬から生まれる幽霊作戦も落語的で好きだ。特に万さんは最優秀主演賞。「せっかくだから」と言って、チンドン屋の衣裳で現れ、背中にビラを貼り、化粧までしている。アルコールを餡ころと間違えて、わざわざ隣町の菓子屋から瓶に詰めて買って来て、「せっかくだから、皆に美味しい餡ころを食べてもらおうと思って」。
徳さんに「バカ!ドジ!」と罵られた万さん。「どうせ俺はバカだよ。でも、俺もバカだけど、他人の家の屋根に昇っているお前もバカじゃないのか!」。泣きじゃくる万さんに折れて、徳さんが「お前もバカだが、俺もバカだ。皆、仲間だ!」と認めるところが最高に可笑しい。万さんはそれに呼応して、ウスドロのはずなのに太鼓を思い切りチンドドドン!と叩いて騒がしくなってしまうという…。愉しい高座だった。
上野鈴本演芸場の春風亭一花真打昇進披露興行四日目に行きました。
江戸曲独楽 三増紋之助/「やかん」柳家小太郎/「睨み合い」林家彦いち/漫才 すず風にゃん子・金魚/「親子酒」橘家圓太郎/「お菊の皿」林家正蔵/ものまね 江戸家猫八/「幇間腹」春風亭一朝/中入り/口上/浮世節 立花家橘之助/「七段目」桂吉坊/「加賀の千代」春風亭一之輔/紙切り 林家楽一/「三枚起請」春風亭一花
一之輔師匠の口上。師匠一朝が「女の弟子を取った」と聞いて、新手の美人局に遭ったのかと思いました(笑)。一朝が白内障を患ったときには、一花が甲斐甲斐しく手を引いてあげた。惣領弟子の柳朝や私がレーシック手術を勧めるも、師匠はなかなか首を縦に振らなかったのに、一花が「手術を受けてください。お願いします」と言ったら、あっさり受け入れて、手術後に一朝は「もっと早く受ければ良かった」。芸も良い、人柄も良い。そして、まだまだ伸びしろがある。これからも一花も二花も咲かせていってほしいと期待した。
正蔵師匠。吉例の理事会での新真打の挨拶。紋付袴姿の一花は緊張していたが、震えながらの第一声が「ケータリング、頑張ります」。間髪を入れず、喬太郎さんが「名を名乗れ!」。でも有言実行で、披露目の楽屋にはお酒だけでも、日本酒、シャンパンの白とロゼ、ビールは全銘柄が揃い、ハイボールや酎ハイ。お酒を飲まない人のために一朝師匠の好きなラムネも。実に気働きのできる新真打だと褒めた。
一朝師匠。一番手のかからない弟子だ、と。一番手のかかる弟子(一之輔)が横にいますけど。野田出身の一之輔と違って、一花は東京育ちで品がある。「いや、一之輔も可愛いよ。でも時々、憎らしく思うことがある…誰の口上か、わからなくなっちゃった」(笑)。真打になったからと言って、安心しては駄目。あれだけ「高座に上がるときは扇子と手拭いは忘れるな」と言ったのに…。そういう抜けているところがあるのが、また可愛い。ベタ褒めである。
橘之助師匠の高座。昔の名人の出囃子を弾いたのだが、先代文楽の野崎を弾いた後、志ん朝師匠の老松を弾く段になって、太鼓を叩く前座さんを袖から呼び込む。すると…出てきたのは、一花師匠!「あなたの披露目かもしれないけど、今の高座は私が主役よ」と言って、少し後ろの方に座らせるのも洒落がきいていて面白かった。老松に続いて、先代小さんの序の舞も弾いた。
一花師匠の「三枚起請」。新吉原江戸町一丁目朝日楼の喜瀬川花魁こと本名中山ミツに騙された三人の男の悲哀を滑稽に描くのが、まず愉しい。唐物屋の若旦那・伊之さんが「堅いものがあるから大丈夫」と見せた起請文が、棟梁が自分の持っているものと全く同じであることに気づくところ。そして、そこに経師屋の清さんが現れ、被害者が三人に増えたことが判明するところ。三人三様、怒ったり、呆れたり、悲しんだり。「元は品川にいたろう?歳は二十四。色白で、目の脇に黒子のある…」。皆、言うことが同じなのが可笑しい。
そして、三人で喜瀬川に掛け合いに行くところ。雌犬の後ろを雄犬が三匹追っていて、「あの三匹も起請を貰ったのかな」と言う伊之さんが面白い。そして、棟梁が代表して掛け合い、残りの二人は部屋の隅に隠れて、喜瀬川をやりこめる作戦。起請を煙管の中の掃除をする紙に使わせて、起請であることに気づいた喜瀬川に対し、「広告かと思った」とか、「何枚書いたら気が済むんだ」とか、責め立てるところ、痛快。
さらに、「水瓶のおまんま粒、出て来い!」「日蔭の桃の木、出て来い!」と言って、伊之さんと清さんと棟梁が揃って、喜瀬川が万事休すとなる。だが、ここで喜瀬川が急旋回を切って開き直るところが最大の見せ場だろう。「あー、そういうことかい。騙されたのが悔しくて、掛け合いに来た?打ちたいなら、私を身請けして、綺麗な体にしてからにしておくれ。女郎は客を騙すのが商売なんだよ!」。手練手管というけれど、起請文を何枚も書くのはルール違反だ。それを承知で騙す喜瀬川の気の強さには呆れかえるばかりだ。
最終的には「起請をドッサリ書いて、世界中の烏を殺し、朝寝をするんだい」の言い草を聞くと、「玄人の女と遊ぶ」という意味がよく理解できる。それは現代のキャバクラやらガールズバーにも通じるものがあるのかもしれない。それはともかくとして、騙される間抜けな男と騙したことがばれても開き直るずるい女の両方の人物造型がしっかりできている一花師匠の手腕に感服した。

