ホンキートンク、ありがとう!寄席芸人、バンザイ!

鈴本演芸場で「ホンキートンク独演会」を観た。(2019・07・31)

漫才のホンキートンクがコンビを解消した。この独演会の翌日に落語協会から正式発表された。このことはすでに彼らから事前に演芸ファンには周知されていて、この独演会開催にあたってもそのことについては一切触れずに前売りチケットが発売されたが、一瞬にしてチケットは完売した。

テレビなどのマスメディアには、ほとんど出演していないから、演芸ファン以外には馴染みがないかもしれない。弾(47歳)と利(46歳)のコンビで、2003年結成、漫才協会主催の漫才新人大賞で2004年と2006年に優秀賞、2007年に大賞を受賞。2016年には国立演芸場花形演芸大賞の銀賞を受賞。落語協会に所属し、寄席の世界ではロケット団、ナイツ、宮田陽・昇とともに「漫才協会の四天王」と呼ばれた。常に新ネタを考え、定期的に勉強会を開き、古臭い先輩たちの高座とは一線を画す、まさに漫才の将来を背負って立つ存在だった。

しかし、利の妻が乳がんであることを公表、利もその治療のサポートに専念するため、活動を停止することを発表していた。名目上は「利の脱退」。弾は「ホンキートンク弾」として活動を継続し、新しい相方を探している。弾も漫才協会、落語協会には「天草ヤスミ」として籍を残し、「いずれまた、演芸に戻りたい」としている。一部報道によれば、「演芸に理解のない妻のわがまま」とか、「実は弾と利は不仲だった」という噂も流れているが、真相はわからないし、そんなことは知りたくない。ただただ、寄席で愉しませてくれた実力派の漫才がいなくなることは寂しい限りである。

で、この日のプログラム。というか、ホンキートンクが出る以外は、鈴本のホームページに、喬太郎、一之輔、ロケット団の名前があるだけで、あとは「多数、飛び入り参加あり」と記されていたので、紙のプログラムはなく、スタート。

柳家かごめ「からぬけ」

二ツ目だが、開口一番をわきまえた高座。マクラなく、スッと噺に入る。

三遊亭歌武蔵「支度部屋外伝」

「ホンキートンク、解散しないそうです」と意味不明の一言だけ発して、いつもの寄席の15分高座の漫談を喋ってさがった。(実際、後で「解散」ではなく、利の脱退で、ホンキートンクという名前は弾が引き継ぐことがわかるのだが。説明不足で、そのときはポカンとしてしまいました)

宝井琴調「浅妻舟」

画家・英一蝶と俳人・宝井其角の男の友情の物語を読んで、最後に「ホンキートンクに捧げます!」と言って高座を下がる。粋だ!

林家彦いち「遥かなるホンキートンク」?

琴調先生の一言で火がついたのか、最初から熱い!マクラ。「ここで俺が普通に『初天神』をやっても意味がない。その役は一之輔に任せた!」と言うと、袖から一之輔登場し「聞いてないよ!」に、「飴抜きで、団子だけでな!」。この後、何を演ろうかと、新作落語「遥かなるたぬきうどん」の冒頭、「ガシッ!ガシッ!」というピッケルの仕草を始める。登山するのは鈴本演芸場の若旦那、鈴木敦。山頂まで,この独演会「伝説のライブ」のDVDを届けるという使命を担うという改作を短く。寄席の若き改革者である鈴本の若旦那が、このホンキートンク独演会主催の陰にいることを匂わせ、嬉しかった。

ホンキートンク 漫才

きょうは、独演会だから2本!今まで寄席でかけてきたものを普通にやることが最後の俺たちのやり方と主張するような、楽しい高座。「ロケット団が解散するそうで」から、利の血液型。「O!」と言いながら、Aの形をやる定番を見るのもこれが最後か。オイ!小池、おっちょこちょこ、お茶の子カバカバ、スマホがかまぼこの板・・・。ここまでオープニングコントとして、ジャケットを羽織りのように脱ぎ、「ホンキートンクです!」という型もいつも通りだ。利のおばあちゃんが「平山あゆ」で、おじいちゃんが「平山かつお」で、その間に生まれた父親が「ヨシオ」。「短気だけど、僕、(バイトが)長期」。「港で言われている」(巷=チマタ)。ここから唄ネタ。マッチこと近藤正臣ではなく真彦の「ギンギラギンにさりげなく」を歌おうとして、延々と前奏が続くネタ。トシちゃんこと田原俊彦の「抱きしめてTonight」を歌おうとして、また延々と前奏が続くネタ。そして、嵐の「時期早々」を歌おうとして、吉幾三の「オラ、こんな村嫌だ~」と「俺ら、東京さ行ぐだ」になっちゃう。「ギザギザハートの子守唄」を歌おうとして、メロディーが「水戸黄門」になっちゃう。定番ネタの総ざらいで、爆笑の渦。そして、ここでもう、感傷的な涙が目に溢れてきた。

柳家喬太郎「ふくろうの夜」

高座返しを、落語協会納会が終わってそのままの浴衣姿の橘家文蔵が務める。出てきた喬太郎、「できるなら、前座の頃にやればよかったのに」。そして、「令和一番の笑いを!」と言って、7月の蔵出し興行以来頻繁にかけるようになった、この新作落語。主人公が事故で死んでしまい、NPO法人「未練解消プロジェクト」のふくろうの赤羽さんに誘導されながら、上野上空を飛び、下界の人間模様眺める。飲み屋を出た4人組が、次にどの店に行くか話していて、「一軒め酒場」というのはなぁ、と。何と、この4人はロケット団とホンキートンク。主人公は下界の気に行った人物に乗り移ることができるが、「倉本はなぁ。ロケット団の悪い奴だろ」。噺のサゲの赤羽さんの一言、「若けぇの、悔いの人生をな!」は、まさにホンキートンクの2人に贈られた言葉だ。カッコイイ!

中入り

柳亭市馬「俵星玄蕃」

これぞ演歌歌手!と着流し姿で、登場。カラオケとともに歌い出したのは、CDデビューした持ち歌。一番が終わって、ヤンヤヤンヤと楽屋にいた芸人たちが高座から出てきて(百栄師匠、玉の輔師匠、馬るこ師匠らもいた)締めるのかと思いきや、間奏に続けて二番を歌い出し、一同ズッコケるというお約束。さらに三番でもそれがあって、結局気持ち良くフルコーラス歌って、大満足で高座を下がる落語協会会長。それを唖然と見ている楽屋一同。ドリフコント顔負けの一幕に爆笑。

ロケット団 漫才

喬太郎師匠がメクリを出して、めくると、ロケット団。少年探偵団の出囃子で登場する、ホンキートンクの盟友二人。三浦が「遊平かおり以来ですか。漫才の解散は」。「1:9ですか、取り分は」「テープ回しているのか?」ほか、吉本興業の闇営業にからめた解散ネタで引っ張る。利の脱退はドリカムや純烈みたいなものですか。おぼんこぼん、Wモアモアをごぼう抜きですからね。弾の相方は宮迫で決まりでしょう・・・etc。こういう毒は、すべて愛あればこそ。最後は「おしまい!」と言って下がる。

春風亭一之輔「初天神」

彦いち師匠のリクエスト通り、「先輩には逆らえない」」と団子を買うところを。「アレ買って、コレ買ってって言わない約束だったろ!」「そんな約束していない!」。最後は父親が団子の蜜を舐めきるだけでなく、団子まで全部食べてしまい、串しかない状態に!そして、ロケット団同様に「おしまい!」オチ。

林家正楽 紙切り

まずはハサミだめし、「線香花火」。それに予め切ってあった「ホンキートンク」を添えて、「線香花火を見ているホンキートンク」。リクエスト1番は「ホンキートンク」。安酒場という意味だからと、「安酒場で飲むホンキートンク」。で、予め切ってあった「ホンキートンク」を添えて、「安酒場で飲むホンキートンクを見ているホンキートンク」。リクエスト2番は「スイカ割り」。これも「スイカ割りを見ているホンキートンク」。リクエスト3番は「ギザギザハートの子守唄」。これも「ホギザギザハートの子守唄を歌っているンキートンクを見ているホンキートンク」。で、「おしまい!」と言って、高座を去る。寄席の流れの見事さ。

ホンキートンク 漫才

これが最後の漫才。定番の星座。ふたご座と言いながら、カニのポーズ。「銀ブラ」「ヤムチャしてました」。トンコツラーメンネタ。ナイキとプーマ。「和製イチロー」「3年間マスクを譲ったことがない。プレーボール!」「一家の茶柱」。そして最後は幽霊からのカマキリ。楽屋一同が高座に上がり、オカマや蒲池法子ポーズまで何度も繰り返すエンディング。寄席の熱気は最高潮に!

いやぁ、本当に寄席は良いねぇ。

「表現の不自由展中止」とか、「闇営業問題」とか、やかましく騒ぐなよ。コンプライアンス、コンプライアンス、うるさいんだよ!マスメディアの笑いには限界がある。というか、本当の笑いは、そこにはない。本音の笑いがほしい。だから、寄席があるのだ。

ホンキートンク、ありがとう!寄席芸人、バンザイ!