10年続けた三題噺創作を経て真打に!~月刊少年ワサビ

らくごカフェで「月刊少年ワサビ」を観た。(2019・06・28)

三題噺をご存知ない方のために書いておくと、お客様からお題を三つもらい、それをもとに新しい落語を創作する手法、またはそれによって出来上がった作品。落語中興の祖・三遊亭円朝が「芝の浜」「酔っ払い」「革財布」で名作人情噺「芝浜」を作ったのは有名な話。現代で言うと、喬太郎師匠が「ハワイ」「雪」「八百長」であの名作新作落語「ハワイの雪」を作ったというのも、落語ファンでは伝説となっている。

柳家わさびさんは、この三題噺を取り入れた勉強会を10年前から毎月開いて、研鑽を重ねている。この日の会が、第123回。前月に選んだ三つのお題を基に創作した新作落語を発表する形式。その後に、その日にお客様から一つお題を書いてもらった紙を回収し、ボックスの中に入れて、わさびさん本人が5つのお題を無作為抽出。その中から、拍手の多かったお題3つに絞り込んで、また来月の勉強会で発表する。

この日は、「ドップラー効果」「ヘッドスパ」「大相撲」の三題で、「石頭時代」という落語を披露した。ドップラー効果は音だけでなく、視覚においてもあるということ。数年前に、大相撲の巡業中の土俵の上で地域の市長が挨拶をしている途中で倒れ、女性看護師が救護に当たったら「女性は土俵に上がらないでください」と注意アナウンスが流れたニュースが話題になったこと。ヘッドスパでは「悟空」というスパが人気で、ネット予約しても何万人待ちだということ。など、わさびさんが事前に創作のために調べたことをマクラに振って、本編へ。

固定概念や古い慣習にこだわっている「頭の堅い」救急患者が、名医の誉れ高いヘッドスパのドクターのところに次々と担ぎこまれ、患者は柔軟な考え方の持ち主になって帰っていく。末廣亭の真打披露興行夜の部の前売り券2500円は、昼の部に入れないが、普通に当日券で昼の部から入ると2800円で昼夜入れ替えなしで入れる。だから、前売り券を買った人は、座席に座れないで立ち見になる可能性もある。前売り券に300円足して、昼から入ることはできないのか?と訊くと、落語協会のT事務局長は「それはできない」とする件は、9月から真打披露が控えたわさびさんらしい。

実はその「名医」の弱点がドップラー効果で、大相撲の番付を見たら、急に気分が悪くなってしまう。番付が上位の力士の名前ほど大きく書かれ、幕下、三段目、序二段、序の口と番付が下がっていくと、名前の表記はどんどん小さくなっているからだ。最後のサゲはネタばらしになってしまうので、書かないが、実に緻密に計算された創作能力と、お題について徹底的に調べる研究熱心には舌を巻く。

この勉強会をスタートした当初はストーリーの構築ばかりに気を取られ、うまくいかなかったそうだ。原点に立ち返り、「子ほめ」や「味噌豆」などの古典の前座噺を分解し、噺の展開を分析したら、ある一定の法則を見出すことができ、以来、三題噺を作ることが自分の訓練となり、新作だけでなく古典のネタおろしなどにも大変に参考になっているという。なるほど、この日にかけた「井戸の茶碗」も、わさび味の効いたとても良い仕上がりだった。

この日に選ばれたお題は「定休日」「とりあえず・・・」「働き方改革」。さて、来月はどんな作品ができあがるのか。楽しみ。9月21日から真打に昇進するわさびさんは、この三題噺の会は今後も「ライフワーク」としてやっていきたいと宣言した。落語界のニューウェーブに大いに期待をしたい。