愛山先生という宝の山を受け継ぐ~相伝の会
深川江戸資料館で「相伝の会 愛山・松之丞二人会」を観た。(2019・06・27)
神田愛山先生。二代目山陽の弟子で、松之丞の師匠である松鯉先生の弟弟子にあたり、いわば松之丞にとっては叔父の存在である。この会は愛山先生の持ちネタを教わる目的で開かれ、愛山先生がかけた演目を、次回の「相伝の会」で松之丞が披露することになっている。
僕が参加した会で言うと、これまでに「鼓ヶ滝」「本多出雲守の討死」「忠僕元助」などが伝承されてきた。松之丞がこの日に披露したのは「清水次郎長外伝~飯田の焼き討ち」。前回、2月28日に愛山先生がかけたネタだが、松之丞独特のリズムに乗って気持ち良く聴いた。
基本は松鯉先生が持っている読み物を中心にネタを増やしている松之丞だが、他の流派や、ときには落語からネタを仕込むなど、実に意欲的だ。最近では、三遊亭兼好師匠から「鮫講釈」を教わり、講談として頻繁にかけているのが目を引いた。彼にとって、講談の台本を受け継ぐ作業も、落語のネタをつけてもらう作業も、最終的には自分のなかで咀嚼して独自のエンターテインメントとしてアウトプットするので、ほぼ同様の位置づけなのかもしれない。
この日に愛山先生がかけた「鼠小僧次郎吉伝~汐留のしじみ売り」は、実に素晴らしい高座で、感動した。落語の世界でも「しじみ売り」を演る人がいるが、元々は講釈ネタを移植したものが多いが、それもその一つで、僕の中ではひと頃頻繁にかけていた志の輔師匠の「新版しじみ売り」がなじみ深い。
脱線するが、三三師匠が得意とする「万両婿」(「小間物屋政談」)も、講釈ネタで、おそらく親交の深い宝井琴調先生からつけてもらったと思われるが、この「万両婿」を最近、松之丞が頻繁にかけている。志の輔師匠も「小間物屋政談」として得意としているから、講談から落語へという構図は大変多い。
で、愛山先生である。ソフトな語り口から繰り出される鼠小僧の読み物は、淡々としていながら、実にドラマチックで、人情味があり、思わず涙を禁じえなかった。しじみを売る少年が喋る姉の悲恋物語が切ない。義賊と呼ばれる男たちの、少年への優しさも滲みる。さて、この読み物を次回の「相伝の会」で、松之丞がどのように演じるのか。今から、楽しみである。