わさびと粋歌、新時代を担う新作落語の新星~寄席井心亭

みたか井心亭で「柳家喬太郎の会」を観た。(2019・06・26)

三鷹市は文化活動に力を入れている。とりわけ、落語に対する肩入れは都内のどの市町村よりも群を抜いてすごい。そのうちのひとつ、寄席井戸亭は1995年から毎月開かれている、日本家屋の畳敷きのスペースを利用した落語会で、収容人数はおよそ100人。濃密な高座を楽しむことができる。

1998年からは、喬太郎、志らく、たい平、花緑が年3回ずつ月番を務めることでフィックスされ、もう20年以上経つのがすごい。この日は第290回。花緑以外はスタート当初は真打ではなく、二ツ目だったが、いまや押しも押されもせぬ花形スターとして落語界で活躍しているのだから、この顔付けをして、今も現場で気配りしている三鷹市芸術文化財団の職員の森元氏の手腕はもっと評価されていい。

この日は喬太郎師匠の月番。ゲストに、柳家わさびと三遊亭粋歌。どちらも二ツ目の中では有望株で、わさびは9月に真打昇進。粋歌は現在の女流落語家の中で個人的には一番面白いと思っている。二人とも現代を鋭く切り取った新作落語で標準が高く、円丈~SWAの流れに続く第三の波的な新作落語の担い手として大いに期待している。

喬太郎「転失気」

わさび「臨死の常連」

粋歌「夏の顔色」

喬太郎「母恋いくらげ」

わさびは、10年間、毎月、らくごカフェで「月刊少年ワサビ」という勉強会を開催。客席からもらったお題の中から無作為抽出した3つの言葉を使って落語を創作、翌月の勉強会で発表している。いわゆる「三題噺」を創る訓練を120回続ける中で、イマドキ落語とも呼べるヒット作品が生まれてきた。この日にかけた「臨死の常連」は、「地獄の門」、「立会い出産」、「紅葉狩り」の三題から2016年11月に発表されたもので、しょっちゅう臨死体験をするが、ポイント制がある地獄で、せっかく稼いだポイントを情け深さゆえに、他人に譲渡してまう・・・という、最後は心温まる、なんだかハートウォーミングな噺。

粋歌も、せめ達磨という新作落語のユニットに所属し、落語を定期的に創作しているが、この日の「夏の顔色」は本人も「納得のいく自信作」と言っていた通り、現代の世代間の価値観のずれと思い込みを見事に描いた作品だ。ポイントは自分が生まれ育った故郷に妻と息子を連れて里帰りする男が抱く故郷へのノスタルジーと現代ネット社会のギャップ。70を超えたであろう両親が、その夢を壊さないために、スマホやi-Padを隠し、日課のインスタアップを我慢したり、Wi-Fiを切ったり、アマゾンのダンボールを片付けたり。嫁も息子も田舎のスローライフを満喫した演技をする。現代社会の合わせ鏡としての彼女の新作落語は面白い。

喬太郎師匠は、現在の新作落語のリーダであり、奇才の落語家であり、落語協会の理事でもある。その師匠が、この二人の高座を実に頼もしく感じていた様子が客席にも伝わってきて、落語界の未来に期待を膨らませる落語会だった。