代官山夜咄 鈴々舎美馬「死神婆」林家つる子「絹の糸」

配信で代官山夜咄、鈴々舎美馬「死神婆」を観ました。

港区女子だったリンがホストのレイヤに三千万円貢いだ。最後は風俗嬢までやり、サラ金に一千万円借りて、ボロボロになった末に、「醒めた」という一言で捨てられた。お腹にはレイヤとの赤ん坊を身籠っているというのに…。「死ぬしかない」と思って、富士の樹海へ行くと、真っ白な着物を着たお婆さんに出会う。死神だった。「お前はまだ寿命があって死ねない。呪術師になって稼げばいい」と言って、呪文を教えてくれた。

「呪術師リン」のアカウントでXに投稿すると、昏睡状態で余命宣告された妻を抱えた男がすがるように助けを求めて来て、リンは教えられたように呪文を唱えると、患者は酸素マスクをはずして、起き上がり、元気に喋りはじめる。奇跡のようだった。依頼者は御礼に一千万円をくれて、リンは借金を返すことができた。

故郷の父親から連絡が来る。「お母さんが癌であちこちに転移し、そう長くない」と聞き、リンは駆け付けた。生憎、死神は枕元にいた。だが、リンは助けたい気持ちから、母親の寝ている方向を180度転換し、死神を足元にして、呪文を唱えた。死神から言われていた禁じ手を使ったのである。母親は助かった。だが、案の定、死神がリンに前に現れ、「やっちまったね」。

霊安室のようなところに連れて行かれ、寿命を表す蝋燭をリンは自分のモノと母親のモノと取り替えてしまったと教えられる。死神は新しい蝋燭を差し出し、自分の今にも消えそうな蝋燭の火をそこに移すように言う。だが、リンはこのチャンスを拒んだ。ここからが美馬さんの創作のすごいところだ。

借金は返せた。母は助かった。それで十分だ。死にたいわけでもないが、同じくらいに生きたいわけでもない。私も十分悪かった。ツケを払わないといけない。リンはそう考えた。

死神は「早くしないと消えるぞ。必ず後悔するぞ。本当にいいのか」と訊くが、リンは悟っていた。そして、リンの蝋燭の火は消えた。だが、リンは死ななかった。「命を二つ持っていたね。その子がお前の身代りになったんだ。感謝するんだな」。「ごめんね」とリンがお腹を触って言うと、死神は一喝する。

何、言っていやがる。元からそのつもりだったんだろう。お前がやろうとしたことは、そういうことだよ。命の重さを理解しな。そして、沢山後悔して、反省しろ。ただ、もう死神は見えない。生き方はわかったか。人間とは死ぬ覚悟をするのは案外簡単なんだ。生きる覚悟の方が難しいんだ。この子とは時が来るまで私が一緒にいてやる。そのときが来れば返してやるよ。私は死神だからね。お前がちゃんと生き直す、それまでの人質ってやつさ。だから、必死に生きな。達者でな。

死神婆はリンに命の尊さを教え、一生懸命に生きるように諭した。そして、身籠った赤ん坊に対しても優しさを示した。2年前のNHK新人落語大賞決勝から一回りも二回りも進化した「死神婆」を聴かせてくれたのが嬉しかった。

配信で代官山夜咄、林家つる子「絹の糸」を観ました。

柳田格之進の武士の誇りを保つために、娘の絹は吉原の大見世、松葉屋に五十両で身を沈め、振袖新造の糸として働くことになった。そして、もうすぐ尽き出し道中が控えている葵が糸の教育係となる。

遊女の朝顔がもうすぐ身請けされると喜んでいたのに、引受人が病気となり、身請けは破談となった。だが、朝顔は好きな人に会いたいと大門から外に出る、いわゆる足抜けをしてしまい、それが発覚。行燈部屋で吊るされお仕置きに遭っているところを糸は見てしまう。葵に「ここは地獄だ。好きな人に会うこともできない。なんで、皆は黙って何も言わないんですか!」と訴える糸。葵は「外からモノを見るように好き放題なことを言いやがって。私たちはここで暮しているんだ。おまんまを食べさせてもらい、綺麗な着物を着せてもらっている。私たちにとっては外の世界の方が地獄なんだよ。私は花魁になってみせる。お前にとやかく言われる筋合いはない」と諭す。

すると、糸は切り出す。「どうか聞いてください。私の父は柳田格之進という武士です。浪人はしていても、武士の誇りを忘れない人です。それが、五十両を盗んだ嫌疑をかけられ、武士の一分にかけて自害しようとした。その五十両を拵えるため、私は父の身代りになって、この吉原に骨を埋める覚悟で来たんです。勝手なことを言ってすみませんでした」。そして、「父は決してそのようなことをする人ではない。必ず嫌疑が晴れると信じています」と言うと、葵は「あんたも武士だね。皆は嫌々ここに来ている。でも、あんたは自らここへ来た。あんたは一番の武士だ」と讃え、「お金が見つかれば、迎えに来てくれるだろう。私も願を掛けるよ」。

松葉屋の花魁、瀬川が近江屋と囲碁の対局をすることになった場面は印象的だ。百五十両を賭けた勝負。近江屋が優勢で、「負けを認めろ」と瀬川に迫る。これを見ていた糸は「一つだけ抜け道がある。瀬川花魁が気づくか…」。瀬川に合図を送った。それに気づいた瀬川が打った一手で形勢が逆転し、果たして瀬川は近江屋に勝利した。以来、糸は瀬川に気に入られ、度々囲碁の相手をするようになる。父が好きだった囲碁を糸が嗜んでいたことが功を奏した。

やがて、仕官が叶った柳田からの遣いが松葉屋を訪ね、糸の身請けを申し出る。女将は二百両を要求した。だが、五十両しか持参していなかった。それよりも何よりも、糸自身が「盗みの嫌疑が晴れていなければ戻ることはできない」と拒んだ。すると、瀬川花魁が「近江屋との勝負で勝った百五十両を使いな」。「本当に勝ったのは糸。早く元の場所へ帰りな。嫌疑はきっと晴れるから」と言ってくれた。葵も「嫌疑が晴れたら、お父様と二人で私の突き出し道中を見に来ておくれ」。糸こと絹は後ろめたさを感じながら、大門の外へ出た。

葵の念が通じたのか、萬屋で紛失した五十両は見つかり、柳田の嫌疑は晴れた。玉菊灯籠の日におこなわれた葵の突き出し道中を見た絹は「晴れたよ、葵ちゃん」と心で叫んだ。葵は花乃井と名前を改め、後には五代目瀬川になったという…。つる子師匠が「柳田格之進」を娘の絹の視点から描いた素敵な高座だった。