六月大歌舞伎「子連れ狼」、そして林家きよ彦独演会「そのままでいいよ」

六月大歌舞伎昼の部に行きました。「祇園祭礼信仰記 金閣寺」「戻駕色相肩」「子連れ狼」の三演目。
「子連れ狼」。昭和45年から双葉社「漫画アクション」(小池一夫原作・小島剛夕作画)で連載され、昭和48年から日本テレビでドラマ化、主役の拝一刀を萬屋錦之介が演じて大ヒットした。僕の子ども時代の記憶で鮮烈なのは、♬しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん~の主題歌、それにパロディとして制作された「ボンカレー」のCM。拝一刀役の笑福亭仁鶴師匠が「3分間、待つのだぞ」と言って、「じっと我慢の子であった」とナレーションが入るのをよく見ていた。当時小学生だった僕らは友人を台車に載せて、♬しとしとぴっちゃん~と乳母車よろしく押し運ぶ「子連れ狼」ごっこをして遊んだことも思い出される。
今回の歌舞伎化は、萬屋錦之介の甥にあたる中村獅童が拝一刀を演じた。幕府の公儀介錯人だった一刀は柳生烈堂率いる柳生一族の陰謀によって妻と一族郎党を失い、生き残った幼い息子大五郎(中村夏幹)とともに、柳生家への復讐を誓い、刺客人となり旅に出ている。
今回の脚本の肝は遊女宿の巴屋で働くお浜(中村七之助)との出会いだ。お浜は壬生藩城代家老の杉戸監物とその支配下である壬生八人衆を討ってほしいと依頼する。元は武家の娘であったお浜は、祝言の日に夫と両親を監物たちに殺された上、自身も監物に辱めを受けた。監物は以前からお浜を妻にしたいと望んでいて、それをお浜の父に拒絶された恨みと政敵であるお浜の父らの粛清のために事に及んだのだった。一刀はお浜と自分の境遇に共通するものを感じ、その仕事を引き受ける。
一刀は壬生八人衆のうち六人を斬り殺した。それを知った監物は一刀を雇ったのはお浜であることに気づき、お浜を生け捕り、荷車に縛り付けて城に運ぶ。その途中に大五郎が鞠を持って現れる。その様子を怪しんだ八人衆の振杖外記が大五郎を追いかけると、その隙に一刀が現れて家臣たちを斬り倒す。外記は大五郎を人質に取って、一刀と対峙するが、遂には外記も絶命させる。
一刀は人質に囚われても顔色一つ変えなかった大五郎を褒めるが、一方で救出されたお浜が感謝を述べつつも、「危険な場に大五郎の身を置くことはいかがなものか。子どもには正道を歩ませるのが親の役目でないか」と問いかけるところが泣かせる。一刀の答えはこうだ。大五郎は自分とともに、刺客人として生きる冥府魔道を選んだのだ。これも運命(さだめ)ということなのか。
そして、お浜の最期が悲しい。大五郎を我が子のように可愛がり、一緒に鞠遊びをしていたところに、お千という女が飛び込んで来て、お浜を刺し殺してしまう。お千は杉戸監物の愛妾だが、監物があくまでお浜を妻に持ちたいと熱望するため、嫉妬心から殺害したのだった。これを知ったとき、一刀の脳裏には何が去来しただろう。それを思うと胸が苦しくなった。
林家きよ彦独演会に行きました。「世界の中心でこいを叫ぶ」「権助子魚」「そのままでいいよ」の三席。
「世界の中心でこいを叫ぶ」は自販機の中にいる缶コーヒーの擬人化の落語。エメラルドとコロンビアがお互いに豆だった南米時代以来の再会を果たす。エメラルドマウンテン微糖は他の缶コーヒーよりも20円高く、なかなか買ってくれる客がいない。一方、コロンビアは無糖カフェインレスの新商品ボスとして早くも人気を得ていく。同じ自販機にいるお汁粉やコーンポタージュらからもからかわれ…。顧客のサラリーマンはルーレット機能でおまけに出たエメラルドマウンテンとボスを同じ水筒の中に入れ、「これでまろやかになるんだ」と言って飲もうとするが…。コロンビア!エメラルド!恋心を抱いた二人の愛はどこへいくのか。自販機商品の悲哀を描いた。
「そのままでいいよ」。最近、楽屋の先輩たちから「太った?」と訊かれることが多いというきよ彦さんがそれをネタに創作した落語だ。恋人のタクヤと別れてストレス太りをしたヨウコ。だが、太ったことで逆にモテるようになり、それがストレスとなって、さらに太るという現象が起きているという。「安心感や将来性を感じる」と、1日に3人に告白されて困っている。さらには渋谷で芸能界に入らないかとスカウトされる。「炊飯器がピッタリな女性だ」。
インスタにご飯を作っている二の腕をアップしたら、フォロワーが108万人になり、渡辺直美の再来と言われる。ダイエットのために道を走っていたら、24時間テレビのランナーになってくれとオファーが来た。ダンススタジオに通ったら、全身が筋肉になり、相撲取りみたいになってしまい、格闘家が押し寄せる。
ヨウコはこのモテモテの状態が嫌になり、「沢山の人にモテるのではなく、たった一人、受け入れてくれる人がいればいい」と願う。そこに現れたのは、元恋人のタクヤ。激太りして最初はわからなかった。これまでヨウコのメイクや体型に喧しかったタクヤが、「小さい男は嫌だ。大きな男になりたい」と思ったら、こんな体型になったのだという。「俺はヨウコが好きだ。そのままでいい。関係をやり直してくれ」。
太ることをネガティブに捉えずに、ポジティブに笑いに変換するきよ彦さんの落語。素晴らしい。

