新宿末廣亭六月上席 林家つる子「ミス・ベター」「船徳」

新宿末廣亭六月上席夜の部四日目に行きました。今席は林家つる子師匠が主任を勤める興行だ。
「熊の皮」柳亭市助/「牛ほめ」林家たま平/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「初天神」柳家しろ八/「味噌豆」林家なな子/漫談 天草ヤスミ/「悋気の独楽」古今亭菊寿/「鉄の男」(序)柳家小ゑん/音まね こばやしけん太/「持参金」五街道雲助/中入り/「松山鏡」林家たこ蔵/漫才 すず風にゃん子・金魚/「背なで老いてる唐獅子牡丹」柳家はん治/「紀州」林家鉄平/奇術 ダーク広和/「ミス・ベター」林家つる子
つる子師匠の「ミス・ベター」。ドラマやマンガにありがちな「ベタなドラマチック」展開で創作した女子高生ミナミと転校生トオルのラブストーリー。傑作だ。寝坊したミナミが「遅刻しちゃう」とトーストを咥えて走って学校に向かう途中で、不良にからまれるが、それをトオルが次々と倒して助けてあげる。そして、登校すると、担任教師が「転校してきたナカマトオル君だ」と紹介し、たまたま空いていたミナミの隣の席に座る…。
公園の段ボールに捨てられていた子猫に餌をやっているトオルの姿を見て、ミナミは無愛想な第一印象が急に「こんな優しい一面があるんだ」とキュンとなり、急接近。雨が降り出し、一つの傘で相合傘という絵もベタで面白い。そして、お互いが「母子家庭」だと判り、さらに二人は親密になり、やがて付き合うという…。
だが、ミナミは専門学校、トオルは就職と別々の道を歩み、二人の仲は「自然消滅」。5年後。ミナミが働いている会社の前にトオルの姿が!耐震工事の下見に来たのだという。運命の再会?と思うが、そこにトオルの婚約者ユカリ登場。ミナミは諦めたが…。だが、トオルはユカリに「俺はお前とは結婚できない!」と言って別れを告げ、ミナミの会社を訪れるが、「ストウミナミはきょうからロスへ出張です」と言われる。
トオルはタクシーを拾おうとするが、なかなかつかまらず、(なぜか!)人力車がやって来て、成田空港まで飛ばしてくれた。だが、空港係員に訊くと「ロス便は離陸したばかりです」。万事休すかとトオルが茫然としているところへ、「トオル君!」の声。それはミナミだった。抱き合う二人。BGMに♬ラブストーリーは突然に、が流れるのが効果的。「俺ともう一度やり直そう」「私もそう言おうと思っていた」。
ところが…ミナミの母親に結婚を申し出たところ、「駄目です!二人は結婚できない。なぜなら、血の繋がった兄妹だから」。ショックで道路に飛び出したミナミはトラックに轢かれそうになるが、それをトオルが助ける。だが、トオルが意識不明の重体となり、救急車で病院へ。そこにミナミの母が現れ、「あなたたちは兄妹ではなかった。ミナミと血が繋がっているのは、弟の方だった」。
ミナミが看病しているトオルが突然目を覚まし、「あなたは誰ですか?」。まさかの記憶喪失!だが、ミナミが傘を差しかけ、道に子猫が通ると、トオルは「ミナミ!」。記憶が回復したのだ。だが、そこに婚約者ユカリが現れ、ピストルを持って「そうはさせないわ!」。逃げようとして、ミナミとトオルは階段を落下し、二人の心と体が入れ替わってしまう…。
ドラマやマンガでありそうなベタな展開満載のラブストーリー、実は全て女子高生ミナミの夢だったという…。寄席の主任では初めて掛けたという、つる子師匠の大英断に拍手喝采だった。
新宿末廣亭六月上席夜の部九日目に行きました。今席は林家つる子師匠が主任を勤める興行だ。ここまでのトリ演目は①お菊の皿②スライダー課長③反対俥④ミス・ベター⑤中村仲蔵⑥紺屋高尾⑦しじみ売り⑧ねずみ。きょうは「船徳」だった。
「道灌」三遊亭歌坊/「反対俥」林家たま平/アコーディオン漫謡 遠峰あこ/「元犬」柳家しろ八/「鮑のし」林家はな平/漫談 天草ヤスミ/「強情灸」古今亭菊寿/「ほっとけない娘」柳家小ゑん/奇術 ダーク広和/「手紙無筆」五街道雲助/中入り/「宗論」林家たけ平/漫才 すず風にゃん子・金魚/「鯛」柳家はん治/「高砂や」林家鉄平/太神楽 翁家社中/「船徳」林家つる子
つる子師匠の「船徳」は最近ネタおろししたばかりで、僕は初めて聴いた。若旦那の徳さんが「やめたほうがいい」と言う親方を押し切って、強引に船頭になったはいいけれど、非力な徳さんは上達せず、客の命を預かる商売ゆえ、船を漕ぐことを封じられている。本人は「腕がビュンビュンうなっている。この前みたいにひっくり返さないから。体が鈍っていけない」とやる気満々なのだが…。
四万六千日で船頭が親方含め出払っているところに、船宿を訪れた常連客が柱に寄っかかっている徳さんを見つけ、「あそこにいるじゃないか」と問われると、女将は「アレはアレなんです…」と必死に断る。だが、徳さんが「やらしてください!」と言うと、慌てて「やめて!親方に怒られる!」と引き留めるのだが、徳さんの情熱に押されて認めてしまう。これが過ちのはじまりだ。
何事も形から入る徳さんは片手でねじり鉢巻きをしたり、帆を張っているわけでないのに指を立てて風向きを見たり、♬並木駒形花川戸、山谷堀から土手八丁、花魁がお待ちかね~と鼻唄を歌ったりするのだが、船を漕ぐ実力はまるで駄目で、竿を流してしまう。岸から竹屋のおじさんが「徳さん、一人かーい?大丈夫かーい?」と心配するのを見て、客二人は不安で仕方ないに違いない。
実力が伴っていないのに、徳さんは見た目ばかりを気にして、「あそこから乙な年増が見ている」とか、「三人の娘が歩いている。お嬢さーん、船に乗りませんかー?」とか、粋を気取る徳さんが愉しい。石垣に船がへばりついちゃうと客に蝙蝠傘で突かせ、後ろから来た船がどんどん追い抜いていくと指摘されると、「そんなに文句があるんだったら、ここへきてやってごらんなさい!難しいんだから!」とキレ、汗が目に入ると「大きな船が来たら避けてください」と無責任発言の徳さん。客は「この人は船頭じゃない。早く気づけば良かった」と後悔するのも尤もだ。
挙句の果てに、船は止まってしまう。漕ぐことを放棄した徳さんは泣きじゃくる。「もう、嫌だ!重い!疲れた!やめる!降りて!」。仕方なく客は船を降りると、腰まで水に浸かってしまう。ようやく岸まで到達すると、そこにいた棟梁が「あれは噂の徳さんだよ。大したもんだ。あそこまで来たのは初めてだ」。船の上で小さくなってガタガタ震えている徳さん、「船頭を一人雇ってください」。
船頭という見た目のカッコ良さに憧れて、周囲の反対を押し切って強引に船頭になった徳さんのわがままぶりを痛快に描いた。

