続きが気になる10日間 古今亭駒治「10時打ち」「星のこえ」

上野鈴本演芸場四月上席初日夜の部に行きました。今席は古今亭駒治師匠が主任を勤め、「続きが気になる10日間」と題したネタ出し興行だ。①10時打ち②星のこえ③ロックウィズユー1④ロックウィズユー2⑤ロックウィズユー3~エンジェルからの挑戦状~⑥ラジオデイズ⑦ラジオデイズ2⑧上京物語~東村山編~⑨上京物語~南浦和編~⑩上京物語~蒲田編~。きょうは「10時打ち」だった。
「道灌」春風亭一呂久/「御人式」三遊亭ぐんま/紙切り 林家八楽/「権助魚」柳家小平太/「ごくごく」林家彦いち/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「ほっとけない娘」柳家小ゑん/「壺算」春風亭一朝/中入り/漫才 風藤松原/「やかん」林家木久彦/粋曲 柳家小菊/「10時打ち」古今亭駒治
駒治師匠の「10時打ち」。鉄道マニアの駒治師匠の作品の中でも、優れた“鉄道落語”の一つと言って良いだろう。マルス(MARS)=マグネチックエレクトロニック・オートマチック・リザベーション・システム、JRグループの指定席予約・発券システムをめぐる“プラチナチケット”争奪戦を愉快に描いている。
鉄道マニアたちは乗車日の一カ月前の朝10時にみどりの窓口で、人気のプレミアチケットを購入するために、泊まり込みで並ぶ。駅職員は予め希望の列車を申請してもらい、マルスに情報を入力しておいて、10時ジャストにボタンを押す。これが「10時打ち」だ。全国のJRのみどりの窓口はおよそ1000近くあるから、競争率は非常に高く、コンマ何秒で勝敗を決することになる。
舞台は東京駅みどりの窓口。鹿児島・稚内間を走る「星屑号」のグランスイートを入手しようと大勢の鉄道マニアが並ぶ。ここには「10時打ちの達人」「黄金の人差し指」と称される勤続40年のベテラン職員、タニグチがいるからだ。これまで寝台特急カシオペアなどのプレミアチケット入手実績から、「すっぽんのタニグチ」と渾名されているのだ。
ところが、このタニグチがいつまで経っても現れず、駅長以下職員たちがヤキモキする。そのとき、タニグチはライバルの上野駅みどりの窓口に軟禁されていたのだ。これまで「10時打ち」ではことごとく東京駅の後塵を拝し、辛酸をなめてきた上野駅はタニグチ誘拐という手に出たのだった。一人娘のミドリを人質に取り、上野駅のマルスのボタンを押さないと「東武鉄道に売り飛ばす」と脅された。
東京駅では「タニグチ行方不明」の情報が鉄道マニアたちに漏れてしまい、パニック状態になる。万事休す!と思ったとき、タニグチが這う這うの体で東京駅に現れた。何と、鶯谷駅の駅員たちが助けてくれたのだという。10時に間に合った!と歓喜の鉄道マニアたち。そして、10時へのカウントダウンが始まり、タニグチは「3、2、1、!」のコールとともにマルスのボタンを押した。感動の声があがるが…「星屑号」プラチナチケットは獲ることができなかった。
そのとき、鹿児島のある小さな駅で、老夫婦が星屑号のポスターを見て、駅員に「取れますか?」と訊ねていた。稚内に故郷のある妻と一緒に定年退職の祝いに鹿児島から旅行でもしようかと考えたのだ。それが、発売開始3分前。駅員は扱い慣れていないマルスの取説を見ながら、10時ジャストにボタンを押した。そして、偶然にもこの鹿児島に住む老夫婦がプラチナチケットを手にしたという…。都会の熱狂とは対照的なのんびりとした田舎町に幸運の女神が微笑んだという皮肉がとても面白い作品である。
上野鈴本演芸場四月上席二日目夜の部に行きました。今席は古今亭駒治師匠が主任を勤め、「続きが気になる10日間」と題したネタ出し興行だ。きょうは「星のこえ」だった。
「寿限無」柳亭ちょいと/「半日小屋」林家やま彦/奇術 小梅/「新聞記事」柳家小平太/「強情灸」春風亭百栄/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「江戸会話教室」柳家小ゑん/「短命」春風亭一朝/中入り/漫才 風藤松原/「洒落番頭」林家木久彦/粋曲 柳家小菊/「星のこえ」古今亭駒治
駒治師匠の「星のこえ」は前日の「10時打ち」の続編という意味合いが希薄だったのが残念だった。人気の寝台特急スターダストが30年の運行に幕を閉じ、引退。その最終列車に乗って北海道へ向かう人たちの人間模様を描く。
車掌が検札でグランスイートの席に行くと、新婚旅行でスターダスト号に乗ったという夫婦が、結婚30年のお祝いに乗ったという。「東京駅の“すっぽんのタニグチ”さんの10時打ちのお陰で取れたのよ」。“開放寝台”の鉄道マニアは全ての乗務員のローテーションを表にまとめていて、「だから、きょうの車掌はオザワさんだと判っていました」と言うのが面白い。
食堂車を予約しているナガヤマさんは若い鉄道マニアだが、会社ではそれを秘密にしていた。ところが、この車輛で部長と課長に遭遇してしまう。二人は会社の鉄道クラブの会長と副会長なのだ。ばれてはしかたない。結局、三人はラウンジで夜明けまで飲み明かす…。
乗客以外にもドラマがある。料理長は18歳でこの道に入って、35年食堂車の料理を作ってきた。列車に揺れながら調理しないと調子が出ないというのは、「紙切りの正楽師匠と同じ」というのが可笑しい。スターダスト号の引退を機に、食堂車から勇退し、自分のレストランを経営して第二の人生をスタートさせるという。車掌のオザワは今後は常磐線乗務に配置転換されるという。
列車が青函トンネルを抜けて、夜明けを迎える頃、スターダスト号の「声」のようなものが聴こえるという。車体がきしむ音なのか、連結部分が摩擦する音なのか…。料理長や車掌には「おつかれさま」、鉄道マニアのナガヤマたちには「ありがとう」。そう聴こえるという。トンネルを抜け、列車が函館山に近づく。朝を迎えても、ブルーの車体は雪の降りしきる中を走っていく…。ファンタジックな世界である。


