柳家喬太郎 風の鞄「白日の約束」「銭湯の節」、そして鶴枝ひとり 松柳亭鶴枝「ろくろ首」「猫久」

「柳家喬太郎 風の鞄~新作のゆくえ」に行きました。喬太郎師匠が「白日の約束」と「銭湯の節」、ゲストはナツノカモさんで「鯉を恋ふ」と「本来はオフライン」。開口一番は桃月庵ぼんぼりさんで「大安売り」だった。

「白日の約束」。3月14日は大事な日。そう、浅野内匠頭さまの命日だ。忠臣蔵フリークの女子にバレンタインのお返しに塩煎餅、塩は赤穂の塩!を贈るとは、さすがOLキラーのヤマシタ。38年間彼女がいなかった主人公はヤマシタに教えてもらった西麻布のバーでカクテルのことを「混ぜモノ」と言って、「好きなカクテルはホッピー」と言うところが愛おしいではないか。

「銭湯の節」。昭和に青春時代を過ごした人間にとっては、銭湯で浪花節を唸っている「くそ爺」の記憶は「あるあるネタ」、坊屋三郎みたいなおじいちゃん、いたいた。♬旅ゆけば駿河の道に茶の香り~は、それが「清水次郎長伝」だとか、広沢虎造だとかという知識はなかったが、小学生なのに口ずさんでいたよね。

主人公のメグミが短大時代に落研で、得意ネタは「芝浜」だったと言って、「ねえ、起きてよう。お仕事してよう」と亭主が寝ているところを起こす件、相談に乗ってあげたおじさんが「やめろ!三木助が泣く!」と怒り出すくらいに稚拙なのが面白い。

そして、おばあちゃんを喜ばせようと浪曲のテープを聴きまくったメグミは、社内プレゼンで浪花節口調で新しいプロジェクトの説明をして、それが大成功だったというのが愉しい。特に常務に直談判した件、ちゃんと雰囲気を出しているのはさすが喬太郎師匠である。

「鶴枝ひとり~松柳亭鶴枝らくご会」に行きました。「一目上がり」「ろくろ首」「猫久」の三席。

「ろくろ首」。与太郎の与太郎らしさがよく出ている。鶴枝師匠は松公で演じていたけれども。頭が少々弱いというだけでなく、天丼5杯ペロリとたいらげちゃう大飯食らいのところ、いつまでも寝ていて仕事をしない寝坊なところ、二十五歳にして寝小便する癖があるところ。それらをひっくるめて与太郎なのだろう。

だから、叔父さんは「こういう奴はかえって感じないかもしれない」と考えて、夜中にろくろ首となって行燈の油を舐める性癖のある屋敷のお嬢様の養子の口を世話したのだ。だが、与太郎だって感じるときは感じる。それが証拠に兄貴を羨ましいと思って「おかみさんがもらいたい!」と一人前の願望を持つのだから。与太郎の可愛らしい人間らしさが表現できていたように思う。

「猫久」。僕はこの噺を聴く度に、八百屋の久六さんは何に怒って刀なんかを持ち出して家を出て行ったのだろうと思う。普段は猫のようにおとなしく、人の好い久六さんが血相を変えて家に帰り、「きょうというきょうは勘弁ならない。おっかあ!脇差を出せ!」と言っていた…一体、何があったのか?そのことは一切判らずに噺が終わってしまう。

勿論、久六さんが主人公の噺ではなくて、その様子を見た大工の八五郎の驚き、女房とのやりとり、そして床屋に行ってお武家らしき人物に諭され、その受け売りを八五郎が女房に対して頓珍漢にしてみせる、そこの滑稽を笑う噺なのは百も承知だけれど。

この噺を聴いて、いつも頭に残るのは、久六の女房は「長屋で一番早く起きて、井戸端で皆におはようございますと挨拶する」変わった人、押し入れから刀を取り出し、神棚に三遍戴いて亭主に渡した、それこそが貞女、孝女、烈女、賢女なり、つまりは「戴くカカアが本物」ということくらい。難しく考えすぎなのだろうか。