渋谷らくご 立川吉笑三題噺「シャドーブレイキングダウン」「ヘラヘラシタクナール」

配信で「渋谷らくご 立川吉笑三題噺2026 DAY1」を観ました。吉笑師匠が三題噺に挑戦する二日間の初日。会場のお客様が提出したお題の中から3つを無作為に選んだ後、「小林」立川寸志、「ラジオデイズ」弁財亭和泉、「石松三十石船道中」玉川太福(曲師・伊丹明)と三人が高座を勤める間の90分での創作だ。
立川吉笑「シャドーブレイキングダウン」。お題は「シャドーボクシング」「バッチワーク」「サナエトークン」。僕ももう若くないなあと思うのは、お題の「サナエトークン」と演題についた「ブレイキングダウン」の二つの言葉を知らなかったことだ。サナエトークンとは、国民の声を政治にあげるときに付与される暗号資産ということだがよく判っていない。ブレイキングダウンは溝口勇児氏がCOOを勤める組織が運営する「1ラウンド1分」で勝敗を決める総合格闘技らしい。
主人公のタナカ君は貧しい母子家庭で、学校に持ってくる弁当もおかずがなくて白飯だけ。だが、自分の頭の中でウエスギ君とエトウ君という架空の友人が会話しながら、おかずに玉子焼きやウインナーや梅干しがあることを想像しながら白飯を食べている。クラスの不良からは「おかしな奴」と馬鹿にされ、苛められているが挫けない。
そこに謎のおばちゃんが現れ、「あなたは逸材だ。一緒に世界を目指そう」と誘う。それはシャドーボクシングの世界チャンピオン、いまや人と人が殴り合うようなボクシングは流行らない。これからはシャドーボクシングの時代だ。「つもり」で生きているあなたの想像力の逞しさは世界を狙えると言う。
タナカはおばちゃんの勧誘に乗り、シャドーボクシングの訓練を重ね、世界大会に出場し、次々と勝ち進んで、チャンピオンの座を獲得する。おばちゃんは「感動した。御礼を言いたい」と褒めたあと、「私がだれだか、あなたは薄々勘付いているでしょう?わたしはあなたを利用するつもりだった」と告白する。おばちゃんは誰あろう、女性初の総理タカイチサナエだった。
サナエは貧乏な幼少時代を過ごし、タナカと境遇が似ていた。自分も想像で遊んでいた。いつか自分のお金を作りたいと思っていたが、この非合法はさすがの私も握り潰せなかった。でも、創造力があれば何でもできるとタナカに訴える。そして、復讐したい人物がいるという。「憎いあいつを倒したい」。その人物こそ、ミゾグチユウジその人…というサゲ。演題のシャドー「ブレイキングダウン」はそこからきているのか。後になって調べてわかった。
配信で「渋谷らくご 立川吉笑三題噺2026 DAY2」を観ました。吉笑師匠が三題噺に挑戦する二日間の二日目。会場のお客様が提出したお題の中から3つを無作為に選んだ後、「のめる」春風亭朝枝、「千早ふる」橘家文蔵、「都のジロー」「寝るまで踊らせて」瀧川鯉八と三人が高座を勤める間の90分での創作だ。
立川吉笑「ヘラヘラシタクナール」。お題は「渋谷の外国人観光客」「大学病院」「寛ぐ」。昨日に比べて、わかりやすい、すっきりした創作で僕は面白いと思った。落語家立川吉笑を冒頭と最後に登場させるメタ構造、吉笑師匠は「窮余の策」とおっしゃっていたが、これもありだと思うし、挟み込んだ中身がシンプル・イズ・ベストであったと思う。
舞台は大学病院。ゴトウダ先生がついに新薬を完成させた。「日本国民くつろぐプロジェクト」の使命を受けた研究開発が実を結んだのだ。現代は豊かに見えるが、便利なことがかえってストレスを生んでいる。世界規模で見ると、情勢は不安定で、戦争が終わらない。そんな現代人の不安を取り除く薬が望まれたのだ。
笑気ガスを20倍に濃縮して撒いたり、ノスタルジーを感じるイグサの香りを空気に5%混ぜたり、果ては昭和の名人・三遊亭圓生の落語を空気に閉じ込めたり…色々と試行錯誤を重ねているうちに、猫のげっぷが効果的であることを発見。大気中にゲノム操作でねじこみ、リラックス効果を高めることに成功。臨床実験では「一番はしゃいでいる」渋谷の外国人観光客の集まるスクランブル交差点に散布すると、その効果は実証された。
だが、大学病院に保管していたこの臭気ガス「ヘラヘラシタクナール」のタンクに穴が空いて、9割が漏れ、東京から関東、さらに日本全国に拡散してしまった。日本国民は臭気ガスの効果で皆、ヘラヘラしてしまった。そして、渋谷らくごに出演した立川吉笑も…。「三題噺できませんでした。文蔵師匠の『とは』の回収もできませんでした」と高座に上がって、ヘラヘラしているという…。なかなかの傑作である。

