新作ストレート 春風亭百栄「とんがり夢枕」、そして怪奇商事 立川笑二「もう半分」

「新作ストレート~百栄師匠がやって来る、ニヤァ!ニヤァ!ニヤァ!」に行きました。弁財亭和泉師匠が「女の鞄」、瀧川鯉八師匠が「私立鯉八女学院」、ゲストの春風亭百栄師匠が「とんがり夢枕」だった。開口一番は三遊亭東村山さんで「キッチンTV」。

百栄師匠の「とんがり夢枕」。中学生のときから古典落語が好きだったアオキノリオ少年が、なかなか踏ん切りがつかずに、東京でバイト生活をしながら寄席通いをしたり、観光のつもりで訪れたアメリカに長期滞在したり、紆余曲折を繰り返しながら30歳を超えて春風亭栄枝師匠に入門し、今日の新作派落語家、春風亭百栄になるまでを巧みに描いた秀作である。

ノリオは毎夜、林家彦六(先代正蔵)の落語のテープを聞きながら眠りにつく。「伽羅の下駄」「双蝶々雪の子別れ」「ぞろぞろ」「中村仲蔵」「鰍沢」「紫檀楼古木」…。すると、彦六師匠が「ばかやろう!何で早く弟子入りしないんだ。お前はいい噺家になる。ゆめゆめ疑うことなかれ」と愛情のある雷を落とす。百栄師匠の心の支えになったのは、大師匠彦六だったのだ。

落語家になりたいと両親になかなか言えなかった青春時代。東京でフリーアルバイターをしながら寄席通いを「エンジョイ」していた20代。ロサンゼルスのリトルトーキョーで寿司を握っていた放浪時代。帰国して入門を決断するも、30歳という年齢の壁もあって弟子に取ってくれる師匠探しに苦労した時代。そして、ようやく真打になったが、なぜか新作落語で売れて、困ったときの「露出さん」を寄席で掛ける日々…。そうした百栄師匠のことを雲の上からずっと優しく、そして厳しく見守ってくれている彦六師匠の存在へのリスペクトを感じる素敵な一席である。

「怪奇商事」に行きました。立川笑二さんが「すきなひと」「もう半分」「御神酒徳利」の三席。ゲストは春風亭一之輔師匠で「夢見の八兵衛」、開口一番は三笑亭夢ひろさんで「狸札」だった。

「もう半分」は居酒屋主人の独白という演出スタイルで進めるのが、とっても良い。深川で手広く八百屋を営んでいた爺さんが酒でしくじり、店が傾いて、娘を吉原の半蔵松葉に百両で身売りした帰りに居酒屋に立ち寄り、「もう半分」を繰り返して酒を飲んで店を去ったが、肝心の百両が入った風呂敷包みを置き忘れてしまう。慌てて戻ったが、居酒屋の主人は女房にそそのかされて、そんなものはなかったとシラを切るところまでは他の演出と変わらない。

だが、居酒屋主人は根からの悪党ではないというのが、笑二版の特徴だ。女房が押し入れにしまいこんでしまったので、それを当人の目の前で取り出したら、盗もうと思っていたと思われてしまう。そこで、「明日、また来てくれ。それまでに探しておく」と言う。すると、爺さんは「無理やり酒を飲ませて、奪い取ろうという魂胆だったな」と因縁をつけるので、主人は蹴り飛ばす。爺さんは「恨みますからね!」と言って、店を出ていった。後日、爺さんがドザエモンになった死体が永代橋で発見されたという噂を聞く。身投げで自殺したという演出だ。主人が庖丁で刺し殺したという型が多いがそうではない。

さらに居酒屋主人は悪党ではないと思わせるのは、手元の百両を持って吉原の半蔵松葉に出向き、爺さんの娘を身請けして助けようとするところだ。しかし、半蔵松葉では「それでは足りない。この娘は三百両の価値がある。請け出すことはできない」と身請けを拒む。居酒屋主人は一旦、引き下がり、「三百両を拵えて出直そう」と決意する。見事な了見だ。

百両を元手に店を大きくし、奉公人を雇い、頑張ると、店は繁盛した。女房が身籠り、産まれた赤ん坊が爺さんそっくりで、女房は気絶して亡くなり、赤ん坊が行燈の油を茶碗に注いで飲み、「もう半分」と言うところはテキスト通りだが、ここで終わらせないのが笑二さんの真骨頂だ。居酒屋主人は折角大きくした店を畳んで売り払い、何とか三百両を拵えて吉原に向かうのだ。何と律義な男なのだろう。だが、運命は非情である。その三百両を居酒屋に置き忘れてしまった…。因果は巡るという、怪談噺というより、因縁噺の設えにしたことが素晴らしいと思った。