柳家三三独演会「お直し」

柳家三三独演会に行きました。「法事の茶」「佐野山」「お直し」の三席。開口一番は三遊亭伊織さんで「壺算」だった。
「お直し」。お茶を挽いてばかりの花魁を若い衆が励ましているうちに、深い仲になってしまうのはよくわかる。だが、それは吉原の御法度。暖簾に傷がつくと主人は意見するが、そこに温情があるのが良い。花魁の証文を巻いてやり、二人に所帯を持たせ、花魁は遣手だが元の通り店で働けるようにしてあげる。これで人並みの暮らしができるようになったのだが…。
懐が温かくなるとダメなのは男の方だ。千住に居続け、無断欠勤、さらには博奕に手を染め、店は追い出され、我が家の財政もすっからかん、というか借金の山だ。元の木阿弥。一生懸命だった女房の方は悔しくてしょうがないだろう。だが、惚れた弱み。何とか立ち直ろうと、亭主は「蹴転」の話を持ってくる。「客を取る女はお前がやれ。以前はやっていたじゃないか」という言い草は余りにも酷い。でも、やるしかない。にっちもさっちもいかないのだから。
こういうときは女の方が強いのだ。線香一本200文、これを何本引き延ばすか。客に甘い言葉の一つも言わねばならない。手を握らなきゃいけない。ほっぺをくっ付けることだってする。嫌なのは女房の方なのに、肚を括って、亭主に対し、「絶対に焼き餅を妬かない」と約束を取り付ける。逆に亭主に「しっかりしてくれないと困る」と厳しく言う。やるからにはちゃんとやりたいという女房の決断が素晴らしい。
酔っ払いの客を掴まえた女房。よってらっしゃいよ!おまはんを待っていたんだ。冷たい手をしているね。どこを歩いてきたの。おまはんみたいないい男は女の子がほっとかないだろう。左官の職人かい。私、手に職がある人が大好き。もっと早くに会いたかった。でも、私が惚れるとおかみさんに怒られるでしょう。独り者?あら、嬉しい。(何でお前みたいないい女がこんなところにいるんだ。金だろ?)そう、借金に縛られて籠の鳥。三十両だよ。生涯、この苦界から浮かび上がることができないんだよ。
酔っ払いの客が三十両を都合して、明後日持ってくる、だから夫婦になってくれないかと言う。本当に?嬉しい。一緒になれるんだったら、こんな嬉しいことはない。甲斐性のある人が好き。ここから連れ出しておくれ。以前花魁をやっていただけあって、口八丁手八丁、手練手管、男をその気にさせるのが達者だ。
「仲良く暮らそうな、大事にするから」に対し、たまには喧嘩もしたい。喧嘩するほど仲が良いというじゃないか。ぶって。おまはんに邪険にされるなら、嬉しい。どんなに酷い目に遭っても、半殺しにされても、構わないわ。
さらに男が仕事から帰ってくるのを火鉢に向こうで待つところを妄想させるのもすごい。お帰りなさいと出迎えて、お湯へ行きなさいと手拭いを渡して、手と手を握ったら…。湯から帰ったら、酒の支度、好きな肴を用意して、私のお酌じゃ美味しくないでしょうけど…。酔っ払っちゃったら、もう寝ましょう。きょう一緒になりたいくらいだと手を握り返し、一緒に布団の中へ…。もう男は堪らなくなって、明後日三十両持ってくるかな!と去って行く。この間、亭主は焼き餅から「直してもらいなよ!」を連発したのに、客から代金を貰うのも忘れて、「やめだ!こんなこと!」と怒っている。
「お前はあんな奴と三十両で所帯を持つのか!手を握ってトロンとした顔しやがって。半殺しにされたいなんて。あれはただの目じゃなかった!」。そして、決定的な一言を言う。「お前がこんな女だとは思わなかった!」。これを聞いて、女房もキレる。「じゃあ、私もよすよ!誰のせいでこんなことしなきゃいけないんだい?私だってこんなことやりたくてやってんじゃない!」。
さらに続ける。どれだけ我慢したか。それはお前さんと一緒にいたいからじゃないか。昔、私がお茶を挽いていたころのお前さんの親切が忘れられないから…だから我慢したのに。
亭主はハッとする。お前があんまり上手いから…俺だって一緒にいたい。別れたくないよ。嫌で一緒になったわけじゃない。覚えているか?寒い夜、二人で鍋焼きうどんを一人前、半分ずつ食べたこと…。つい、焼き餅おこしちまった。勘弁してくれ。女房も「つい、カッとなってごめんなさい。これからもずっと一緒だよ」。貧乏のどん底にいても、根底に流れる夫婦の情愛は揺るぎない。素敵な高座だった。


