初春歌舞伎公演 通し狂言「鏡山旧錦絵」四幕七場、そして柳亭信楽 化ける会「大工調べ」

国立劇場初春歌舞伎公演 通し狂言「鏡山旧錦絵」四幕七場に行きました。

草履がキーになる芝居だ。御家乗っ取りを企てる剣沢弾正と岩藤の兄妹は中老尾上を騙し、苛め、陥れようとする。頼朝の使者を装った弾正は尾上が預かっている蘭奢待の名木を受け取りに来る。だが、尾上が差し出した箱の中身は蘭奢待ではなく、片足の草履であった。その焼き印から岩藤の草履であることが判る。

すなわち、尾上が蘭奢待を盗み、その罪を岩藤に被せようという魂胆だな!と問い詰めたわけだ。岩藤は遺恨をこめて尾上を草履で打ち据える。尾上が頼朝の息女・大姫に信頼されていて、大姫の許婚だった木曾義高から贈られた旭の弥陀の尊像を託されていたことへの嫉妬。尾上の召使いお初によって岩藤をはじめ腹心の奥女中たちが剣術の試合でこてんぱんに負かされてしまった屈辱。岩藤はこれらの悔しさがあるため、満座の中で尾上に恥をかかせたのだった。

尾上の失脚を狙った弾正と岩藤にやりこめられた尾上は自分の部屋に悄然と帰ってきた。お初は御殿で何かあったのだと察する。そのとき、尾上の袂から草履が落ちた。お初は尾上の肩凝りをほぐしながら、「忠臣蔵」の塩冶判官と高師直の例を引いて、命を粗末に扱わないようにそれとなく諭す姿が美しい。

尾上は父母への別れの手紙を書いて、草履と一緒に文箱の中に入れ、お初に自分の親許に届けるように命じる。手紙は遺書だった。尾上は草履で面を打たれては生きていられず、弾正と岩藤の御家転覆の企てを、死をもって訴えると決断したのだった…。

尾上の部屋に岩藤が来て、自害を図った虫の息の尾上から旭の弥陀の尊像を奪って去って行く。入れ違いに駆けつけたお初は岩藤らの悪事を暴く書置きを見つけ、血汐のついた懐剣と遺恨の草履を握りしめ、主人尾上の仇を討つ決意を固め、御殿に向かう。

お初は岩藤が尊像を奪ったことを見抜くと、「あなたの頭痛を治すお守りはこれだ」とばかりに遺恨の草履を岩藤の頭に置く。復讐に来たと知った岩藤はお初に斬り掛かるが、それをお初は岩藤の傘で受け止める。すると、中から尊像が落ちた。お初は岩藤を激しく斬り付ける。見事に岩藤を討ち果たしたお初は、恨みの草履で岩藤を打ち据えるのだった…。

謀反人を討ったお初は頼朝の許へ行き、尾上が遺した岩藤らの企みが記された書状を読み上げ、旭の弥陀の尊像を献上し、尾上の忠臣を訴えた。頼朝はお初の功績を讃え、二代尾上を名乗るように告げる。めでたい天下の春である。

尾上を中村時蔵、お初を八代目尾上菊五郎、そして岩藤を坂東彌十郎。各々の好演で実に17年ぶりという通し狂言を楽しむことができた。

「柳亭信楽 化ける会」に行きました。「寿司にぎる。」と「大工調べ」の二席。開口一番は柳家しろ八さんで「つる」、ゲストは柳家三三師匠で「元犬」だった。

「大工調べ」。棟梁の政五郎は心優しい親方だ。親孝行の与太郎を可愛く思い、面倒見が良いことが伝わってくる。一年と続く長丁場の仕事が入ったので、与太郎にも稼がせてやりたい。道具箱を先に現場に運んでおいてやろうと気遣うところに貫禄がある。ところが与太郎は店賃を一両二分と800も溜めてしまい、大家に道具箱を奪われてしまった。そこで棟梁は一両二分立て替えてやるというのも与太郎を愛するがゆえだ。

ただ、「800足りない」と大家はこの温情を突っぱねた。棟梁も「たかが800」「ついででもあったら届ける」等と大家の機嫌を損ねるようなことを言ってしまう。大家も大家で、町役人であることを鼻にかけて、棟梁を雪隠大工呼ばわりしてしまう。ついには棟梁がキレて、「何を抜かしやがる丸太ん棒!…」と、今の大家が乞食同様だったのを長屋の衆が救ってやり、死んだ大家の後釜に入ったという氏素性をすっぱぬく啖呵を飛ばす。この噺で一番盛り上がるところ。信楽さんも見事にクリアして、中手をもらっていた。

だが、僕自身は啖呵を上手に言えることも大事だが、きちんと「大岡政談」としてお裁きのところまでいって落ちをつけることが、この噺では肝要に思う。最近はそこまでいかずに「大工調べの序」で終わってしまう演者が多いが、信楽さんはしっかりお白州まで演じて嬉しかった。

与太郎が大事な金子を投げたり、あたぼう(当たり前だ、べら棒め)といった乱暴な口を利いたことを叱ったり、残りの800をちゃんと支払わせた後。大岡様は大家に「質株は所持しているか?」と訊く。堪った店賃のカタに道具箱を預かるのは質屋の特権。道具箱を留め置いた20日間の与太郎の手間賃を払うように命じる。一日十五匁×20日で五両。大家は完全に一本取られた形。大家を最終的にギャフンと言わせて逆転劇が起きるところに、この「大工調べ」の真骨頂があると僕は思う。そういう意味で、信楽さんの「大工調べ」はとても良かった。