語継の会「犬のお伊勢参り」

語継の会に行きました。歌手のさだまさしさんが柳家一琴師匠に書いた新作落語「犬のお伊勢参り」を5人の演者でリレーする落語会だ。

「発端」柳家三三/「旅立ち」柳家小せん/「大名行列」春風亭柳枝/中入り/「桑名船」立川談春/「大神宮」柳家一琴

深川富岡八幡宮の近くの長屋に住む長太は浜屋という料理屋の板前だが、半年前から病に伏せている。あるとき、夢の中で白髪の老人が現れ、「客が持ち込んだ悪いものに憑りつかれている、病を治すには大神宮様の力を借りるために、伊勢へ参れ」とお告げをされる。自分は病気で伊勢参りなど出来ないが、その老人は「お前が大切に想っているモノが代わりに行ってくれる」という。長太はシロという白犬を飼って、可愛がっていた。大家が言うに、シロが代参してくれるのではないか。

大家の源助は「伊勢代参」と書いた木札と小銭300文が入った袋、それに玉串料一分をシロの首に括りつけて、長太の病気平癒を願って伊勢参りをさせる算段をつける。高輪の大木戸までは源助も一緒に行き、奉行所の大宮伝蔵に「八幡様のお告げで、この犬が病気の主人の代参で伊勢参りする」旨を伝える。大宮は痛く感心し、通行手形の巻紙を書いてあげ、これも首に括りつけてあげた。そして、青物横丁で源助はシロに別れを告げる。シロは一晩で箱根の関所に着き、開門を待っていた。横目付の岩下倉之助がシロの存在に気づき、これまた感心して、巻物の余白に名前を書き、印を押してやった。

シロは旅を続ける。浜名湖の西側で大名行列があったので、これと伴走していると、池田治正という三十万石の大大名がシロを見つけ、駕籠に乗せるなど大層可愛がる。目付の大石左馬之助がシロの世話役を命じられる。大石は武芸の達人だが、幼少の頃に犬に噛まれたことがあり、犬が苦手だった。だが、中間の忠助の助けもあり、最初はなぜ犬畜生の世話をしなくてはいけないのかと不満に思っていたが、次第にシロのことを大切にするようになった。

やがて、別れがやってくる。町人の犬を座敷で飼うのは犬にとっても可哀想だと気づいた。殿様いわく、「左馬之助は部下から人の気持ちのわからない上役と評判が悪かった。犬の気持ちになることで、人の気持ちもわかるようになるのではないかと思って世話役を命じたのだ」と胸の内を明かした。

シロは熱田神宮まで辿り着く。そこで、与助とみすゞという男女と出会う。実は二人は大黒屋という大坂のお店の手代とお嬢様で、駆け落ちをして心中しようとしているところをシロが見つけ、助けたのだ。シロは伊勢参りの途中だから、「駆け落ちではなく、一緒に伊勢参りに行った」ことにすれば良いと二人を誘い、桑名船に乗って、桑名宿に泊まる。すると、同じ宿に大黒屋と懇意にしている浪花屋三右衛門がいた。浪花屋は番頭を介して、与助とみすゞを部屋に呼び出す。

「これも大神宮様のお導きか」と浪花屋は言って、「今、大黒屋は大騒ぎだ。きょうは二人は別々の部屋で寝ろ」。そして、みすゞを部屋に帰し、与助と男同士の話になる。与助は抗弁する。みすゞとは深い仲にはなっていない、清い関係であると言うと、浪花屋はかえって怒る。「お前は命懸けで惚れたのだろう?なぜ…。あのシロだって主人のために命懸けで伊勢参りに来ているというのに」。商人の世界は戦いだ。強い心を持っていなくてはいけない。みすゞを嫁にする覚悟ができていないのではないか。自分の甘さに気づいた与助は男泣きした。

「俺が二人を無理やり伊勢参りに誘った」ということにしようと浪花屋は優しく手を差し伸べた。そして、命の恩人であるシロを手厚く歓待し、一緒に伊勢神宮へ。しかし、内宮へ行く橋の手前でシロは五十鈴川へ飛び込んだ。宮司が「賢い犬だ」と言う。神宮には獣はご法度なのだ。シロは泳いで渡り、川の水で体を清めて内宮を参拝した。

大宮司が誉め讃える。「よくぞここまで辿り着いた。よく励まれました。そなたの願いを叶えましょう」と言って、お札を渡してくれた。これを風呂敷に包み、首に括って、シロは江戸深川の長太の許へ戻る。長太は全快し、板前の仕事に復帰したばかりか、暖簾分けを許され、自分の店も大層繁盛したという。

さて、みすゞと与助は大黒屋へ戻った。浪花屋の口添えもあり、両親は二人の仲を認めたが、大女将が「身分が違う」「船場の作法にない」と反対した。すると、与助が言う。「もう、手遅れです。みすゞのお腹には二人に子がいます」。みすゞ、そして浪花屋は驚いたが、嘘も方便とはこのことだろう。父親は「与助は目をかけていた商人だった。いつか一緒にさせたいと女房と話していた。許してやる」。仲睦まじく添い遂げることが、不始末の償いになると言ってくれた。

すると、今度はみすゞが「江戸へ行かせてください」と願い出る。結びの神様に御礼参りをしたら、丈夫な赤ん坊が産まれる、と。結びの神様とはシロのことだ。果たして、二人は江戸深川の長太の店を訪ねる。そして、シロのお陰で夫婦になれたことを報告する。ご馳走でお祝いとなったとき、みすゞが気分が悪いと中座した。医者に診せると、「おめでたです」。嘘から出た真。新しい命を授かることができた。

さだまさしさんの素敵な落語を5人の実力者によるリレーで聴けて、とても幸せな気分になれた。