マクラも!落語も!ハッピーアワー!鈴々舎馬るこ「糖質制限初天神」「陰謀論弥次郎」

上野鈴本演芸場十月中席三日目夜の部に行きました。今席は鈴々舎馬るこ師匠が主任を勤め、「マクラも!落語も!ハッピーアワー!」と題したネタ出し興行だ。①バルブ職人②鴻池の犬③糖質制限初天神④御神酒徳利⑤貸切公演⑥水屋の富⑦陰謀論弥次郎⑧休演⑨怪談長短⑩道具屋。きょうは「糖質制限初天神」だった。

「松竹梅」林家十八/「紋三郎稲荷」柳家あお馬/奇術 小梅/「壺算」柳家小平太/「歯ンデレラ」林家きく麿/音楽 のだゆき/「つる」柳家風柳/「蔵前駕籠」春風亭正朝/中入り/漫才 ニックス/「長短」古今亭文菊/紙切り 林家楽一/「糖質制限初天神」鈴々舎馬るこ

馬るこ師匠の「糖質制限初天神」。小6になる娘アヤカの中学受験合格祈願という名目でパパは天神様に行こうとするが…。糖質制限ダイエット中のパパが買い食いをするのではないかと疑ったママは、300円のお小遣いしか持たせず、カロリーの低いところてんや玉こんにゃくなら食べてもいいと言って、しかも見張り役としてアヤカを連れていくことを条件にするという。

パパは普段から、「夕食がカレー」でも、それはカレーライスではなく、ブロッコリーにカレーをかけたものを食べさせられ、「誓いの言葉」を言わされるのが可笑しい。甘いものは食べません、炭水化物は控えます、お腹が空いたら干しシイタケをしゃぶります(笑)。

天神様の縁日は誘惑する悪魔のささやきのよう。そばめしは、焼きそばを細かく刻んでご飯と混ぜた、炭水化物と炭水化物のマリアージュだ!ジャンボタコ焼きは中に好きな具を3種入れることができるが、ウインナーソーセージ、タコのほかにライスボウルが!炭水化物イン炭水化物だあ!

アヤカは100円のおみくじを自分とパパの分を買って、お小遣いの残額は100円になってしまった。パパのおみくじが大吉や小吉じゃなくて、うどんのカトキチに読めるというのが哀れだ。それでも、残り100円で団子1本を買ってほしいと道端の群衆に訴えるパパの主張がすごい。

十八歳で上京して、三流大学に入った。サークルは落研に入った。1年生の夏合宿で1年先輩の女性に夜に「稽古をつけてあげる」と言われ、素直に従ったら、出来た子どもがこの娘です!大学を中退し、印刷会社に就職し、頑張ったら、臨時ボーナスを社長にもらった。でも、この子のために酒もギャンブルもやらず、唯一の息抜きが炭水化物だったんです!団子1本くらいいいじゃないですか!

周囲の「買ってやれ!」という声に押されて、アヤカも渋々認める。だが、団子は今年から150円に値上げになっていた…。しかし、嬉しいことに「うちはキャッシュレス決済できるよ」と団子屋が言ってくれた。そこで、パパは考えた。オートチャージのクレジット機能搭載のスマホが手元にある。この蜜の甕には何本分の蜜が入っているの?200本!?じゃあ、3万円払う!団子は1本だが、甕をまるごと買い取ったパパの狂気たるや。実に愉しい初天神だった。

上野鈴本演芸場十月中席七日目夜の部に行きました。今席は鈴々舎馬るこ師匠が主任を勤め、「マクラも!落語も!ハッピーアワー!」と題したネタ出し興行。きょうは「陰謀論弥次郎」だった。

奇術 小梅/「権助魚」柳家小平太/「盃の殿様」柳家小せん/音楽 のだゆき/「楽しい山手線」古今亭駒治/「片棒」春風亭一朝/中入り/漫才 ニックス/「強情灸」古今亭文菊/紙切り 林家楽一/「陰謀論弥次郎」鈴々舎馬るこ

馬るこ師匠の「陰謀論弥次郎」。プライベートジェットに乗って調布の空港から南極に行ったという弥次郎の妄想。1965年に批准された南極条約により、民間人は南極に行けないので、南極調査隊の隊員のアタッシュケースの中に潜り込んで行ったというのが可笑しい。

球体地球論は地球外生命体が都合よくするための理屈で、「地球は丸い」というのは嘘で、「地球は平ら」というフラットアース論を展開する。そのフラットアース論の急先鋒として地球外生命体と戦っているのがトランプ大統領で、そのバックにはイーロン・マスクがいるのだという。ちなみにイーロンはブレアデス星人という宇宙人。

また、進化論も否定する。サルが人間になるわけない、と。これは宇宙人がサルと人類を掛け合わせて、奴隷にして惑星に持ち帰っているのだとか(このへんは相当怪しい)。ムー大陸、ノアの箱舟、エーデル水晶体、五次元世界…色々な概念が複雑に飛び交い、馬るこ師匠の話術に乗せられている感じが愉しい。

これらの弥次郎の知識はテレパシーで宇宙と交信することで得られたというのが、いかにも怪しい感じで良い。じゃあ、なぜテレパシーが使えるのか。それは弥次郎が子どもの頃から、日本脳炎やポリオ、百日咳などのワクチンを打つことを一切拒否したことで可能になったという…。

欲を言えば、進化論のあたりは球体地球論のようにもう少し理路整然と説得されてしまうようなロジックがほしいところだ。馬るこ師匠の発想、目の付け所は非常にセンスがあるので、さらに磨いた一席になることを期待したい。