浮世女男夫婦模様 桃月庵白酒「山崎屋」「お直し」

上野鈴本演芸場十月上席三日目夜の部に行きました。今席は桃月庵白酒師匠が主任を勤め、「浮世女男夫婦模様」(うきよめおたちのいろいろ)と題したネタ出し興行だ。①幾代餅②文違い③山崎屋④不動坊⑤お直し⑥火焔太鼓⑦井戸の茶碗⑧甲府い⑨厩火事⑩芝浜。きょうは「山崎屋」だった。

「寿限無」翁家丸果/「粗忽長屋」桃月庵白浪/太神楽 鏡味仙志郎・仙成/「やかん」蝶花楼桃花/「宮戸川」柳家小満ん/漫才 笑組/「山奥寿司」三遊亭白鳥/「河豚鍋」春風亭一之輔/中入り/ウクレレ漫談 ウクレレえいじ/「そばの清子」柳亭こみち/奇術 ダーク広和/「山崎屋」桃月庵白酒

白酒師匠の「山崎屋」。吉原通いが止まない若旦那に意見する番頭の久兵衛は「私は野暮で、堅いのだ」と言い張っているが、実は妾を脇に囲っているという事実を若旦那は知っていて、逆にやりこめられてしまう冒頭部分がまず面白い。

それでも、横山町の鼈甲問屋、山崎屋の暖簾を守るために、若旦那には吉原通いをやめてもらいたいと願う番頭が考え出した計略…。それは吉原の花魁を身請けして、若旦那の女房にしてしまおうというものだ。それならば、若旦那も文句はない。そのために大旦那を騙す狂言を「世の中、表があれば裏もある」と言って捻り出す番頭は優秀な狂言作家、ヒットを飛ばす売れっ子シナリオライター顔負けの創作力である。

若旦那が三か月吉原通いをやめて、改心したと大旦那に思わせる。その間に番頭は店の金から三百両を捻出して、花魁を身請けして、鳶頭のところに預け、「武家奉公していた鳶頭の女房の妹」ということにする。大口の掛取りを若旦那に任せ、試してみる。「赤井様の百両のお掛け」を貰ったら、鳶頭に預け、落としたことにする。「やっぱり倅は遊ぶ金欲しさで悪い了見をおこした」と思う大旦那のところに、鳶頭から百両入った財布が届く。倅を疑って悪かった、改心してくれたんだと大旦那は思う。完璧である。

番頭のすごいところは、金に転ぶ大旦那の性格を熟知して、シナリオを書いていること。百両を拾って届けてくれた鳶頭に御礼をしなければならないと諭し、十両の目録と鰹節のにんべんの二分の切手を手土産に持って行かせる。「十両なんて、勿体ない」と言う大旦那に、「十両は必ず辞退し、鰹節の切手だけを受け取るから」と言い含めるところも、長年大旦那に仕えている番頭だから思いつく知恵だろう。

肝心なのは「鳶頭の女房の妹」として住まわせている元花魁を若旦那の嫁に迎える算段。鳶頭の家を訪ねた大旦那がお茶を出す元花魁が気に入ることは計算済みだ。その上で、「持参金三百両に、箪笥長持一棹がつく」と知った大旦那に対し、「どなたか貰ってくれる嫁ぎ先はありますかねえ」と鳶頭が言えば、それに大旦那が飛びつかないわけがない。

作戦大成功。若旦那は本当に心を入れ替えて、山崎屋の旦那として真面目に働き、大旦那は安心して楽隠居ができたという…。密かに妾を囲うだけの裁量のある番頭の久兵衛の計略は実に見事である。

上野鈴本演芸場十月上席五日目夜の部に行きました。今席は桃月庵白酒師匠が主任を勤め、「浮世女男夫婦模様」(うきよめおたちのいろいろ)と題したネタ出し興行だ。きょうは「お直し」だった。今月1日から楽屋入りした春風亭一蔵師匠の弟子、一呂久さんが開口一番を勤めた。また、翁家勝丸師匠の高座で弟子で前座修行中の丸果さんが芸を披露する一幕もあった。

「道灌」春風亭一呂久/「初天神」桃月庵黒酒/太神楽 翁家勝丸・丸果/「反対俥」林家つる子/「あちたりこちたり」柳家小満ん/漫才 笑組/「ナースコール」三遊亭白鳥/「茄子娘」入船亭扇辰/中入り/民謡 立花家あまね/「働き方の改革」弁財亭和泉/奇術 ダーク広和/「お直し」桃月庵白酒

白酒師匠の「お直し」。いざとなると、女はしっかりしているが、男はだらしがないなあと思う。お茶を挽いてばかりいた女郎に優しい言葉で励ました若い衆、二人が深い仲になってしまい、ご法度を侵したことに対し、店の主人は叱責するも、温情で証文を巻いてやり夫婦にさせ、引き続き遣り手と若い衆として働くことを許す。それを機会に心を入れ替えて働くのは女房ばかりで、亭主の方は少し懐が温かくなると千住で女郎買い、さらに博奕の沼にはまって、にっちもさっちもいかなくなってしまう…。恩のある主人にも言い訳が利かなくなり、二人は首になるというのは当然の仕打ちだ。

じゃあ、これからの暮らしをどうするか。男が友人から蹴転(けころ)の空き店があるから、やってみないかと誘われる。吉原でも最下層の女郎屋、通称羅生門河岸。首が回らない暮らしから脱するには仕方ない。女房は亭主の覚悟を確かめ、「客に色めいたことを言っても、決して妬かない」と約束させ、開業するが…。

酔っ払いを引っ張りこんだ。「掃き溜めに鶴どころか、鳳凰だ」と亭主が言うだけのことはある女房の美貌に客は驚く。甘い言葉で滞在時間を延ばし、線香の数を増やして売り上げにつなげようと必死だ。

冷たい手をしているね。どこで浮気してきたんだい?ゆっくりしていらっしゃいよ。なぜ、私がこんなところにいるか?お前さんのことを待っていたんだよ。所帯を持たないか?こんな嬉しいことはないよ。間夫がいるんだろう?いるよ、目の前に座っている人。本気にしちゃう?私だって本気よ。大事にしてくれる、優しくしてくれる?夫婦喧嘩もたまにはしたいじゃないか、仲が良いほど、喧嘩する。殴られたって構わない、半殺しにあっても構わない。いくら?40両。明後日、持って来てくれる?きっとだよ。お前!あなた!待っているからね。

この客と女房のやりとりに亭主は黙っていられない。「直してもらいなよ!」の連発。本気にしてしまい、客から代金も貰わずに帰してしまった。やっぱり、男の方がだらしがない。

「もう、よそうじゃないか。一緒になるのか?半殺しでもいいのか?妬いていないけど、嫌なの!」「よすんだね。ああ、そう。私もよすよ。誰がこんなことをやらしているんだい?喋るたびに白粉がボロボロ落ちてくるんだ。泣きたくなるじゃないか…」「お前、芝居がうまいから、本気にそうだと思った」。

亭主は女房に謝り、仲直りするところ。「俺が悪かった。もう、焼き餅は妬かない」「お前さんがあんなに怒るから…」「俺とお前の為だもんな。よくやってくれているよ。元気出しなよ。昔を思い出すな。お前がお茶を挽いて四日目。鍋焼きうどんを分けてやったのが昨日のことのようだ。この苦労もきっと昔話になるよ」「私、一生懸命やるから、妬かないでね」「俺はお前を離しやしないから」「離さないでおくれ」。白酒師匠には珍しく、男女の情愛を真正面から描いて、聴かせてくれた。